寄稿 

高校生の発達困難と支援教育の実践
公立高校全日制普通科での取り組みから

竹 本 弥 生

1. 問題の所在
 2005年の発達障害者支援法の実施、 2007年の学校教育法等の一部改正により、 高校においても特別支援教育がスタートした。 文科省は2007年度より 「高等学校における発達障害支援モデル事業」 を開始し、 モデル校を平成19年14校、 平成20年11校と年々拡大した。 2008年に文科省は 「特別支援教育の推進に関する調査研究協力者会議」 を設置し、 2009年に発表された 「高等学校における特別支援教育の推進について〜高等学校WG報告〜」 では 「地域差や課程・学科による差異はあるものの、 平均すれば生徒総数の約 2 %程度の割合で発達障害等の困難のある生徒が高等学校に在籍している」 と言及している。
 文科省 「平成20年度特別支援教育体制整備状況調査結果」 (2009年 4 月) では 「幼稚園・高等学校では依然として体制整備に遅れが見られる」 「『校内委員会の設置』、 『特別支援教育コーディネーターの指名』 といった基礎的な支援体制も十分とは言えない」 ことが指摘され、 「平成21年度特別支援教育体制整備状況調査結果について」 (2010年 4 月) でも同様な指摘がなされた。 「平成22年度特別支援教育体制整備状況調査結果」 (2011年 4 月) では 「公立高校における支援体制は比較できる全ての調査項目で平成21年度を上回っており、 全体として体制整備が進んでいる状況がうかがえる」 と指摘し、 少しずつではあるが公立高校における特別支援教育体制が進んでいることが伺える。
 本報告では、 ある全日制普通科公立高校における特別支援教育の具体的な取り組みを通して、 発達障害等の特別な配慮を要する生徒の実態と特別支援教育の体制整備の課題を検討する。

2. 研究の方法
  1. 調査対象:A県全日制普通科B高校 (生徒数約900名、 職員数約70名)
  2. 調査方法:教育相談コーディネーターによる記録をもとに分析
  3. 調査期間:2011年 4 月〜 6 月
 
3. 結 果
 A県全日制普通科B高校の特別支援教育の取り組みについて次の 8 項目にまとめた。
  1. 中学校からの移行を整備する
     入学手続き時に、 養護教諭 (特別支援教育コーディネーターも兼ねる) がすべての入学予定の生徒に簡略化した面談を実施し、 生徒及び保護者の困難・ニーズを把握する。 特に支援や配慮が必要と思われる生徒に関しては、 中学校を訪問し、 担任や養護教諭から情報を引き継ぐ。
  2. 入学時の教師間の情報共有
     支援や配慮が必要な生徒については、 学年全体での情報共有をはかり、 教師一人で解決せずに、 まずは学年全体で対応し、 学校全体への支援に繋げるようにする。 人間関係を築くことに未成熟な生徒が多いので、 構成的グループエンカウンター等により仲間作りをすすめる。 自己開示と他者理解が人間関係の基本になることをスキルとして提示する。
  3. 発達障害という観点で生活指導事例を見直す (生徒実態把握を発達からとらえなおす)
     喧嘩・いじめ・喫煙・オートバイ登下校・授業中抜け・無断早退等の生活指導の問題行動については、 随時、 会議を開く。 教師の多くが、 従来の生活指導ルールを重んじ 「公平性」 にこだわる傾向があるが、 生徒の問題行動を生育歴・家庭環境とADHD・LD・アスペルガー症候群等の発達障害という見方で理解するように努める。 生徒同士の喧嘩の生活指導事例の多くがADHD傾向の生徒である。 ADHD傾向の生徒に対して、 喧嘩について反省を促す術として数日間の謹慎は生徒にとって意味があるのか。 生徒の状態等をふまえ、 発達的視点から生活指導事例の見直しをはかる必要がある。
  4. 問題行動がおきる前に短時間でケース会を実施する
     生活指導上の問題行動だけでなく、 「気になる」 「困っている」 生徒については随時、 特別支援教育コーディネーターに連絡し、 30分という短い時間を設定し、 担任・教科担当・管理職だけでなく養護教諭や学校司書も参加し、 生徒の実態把握のための情報共有と支援方法の一本化をはかる。
  5. 教師の専門性における意識改革
      「高校教師は、 小・中学校の教師に比べ、 教師としての専門性について、 教科の知識伝達を重視している教師が多い傾向にある。 また、 生徒の発達促進を軽視している傾向にある」 (竹本・高橋:2011) ため、 授業や学級経営の際に発達という観点で生徒の実態把握をすることが困難になることもある。 全日制普通科高校においても高校生活や学業に適応できない生徒は少なくはなく、 生徒の実態を把握し、 生徒の発達や適性にあった支援を行うために教師の意識改革をはかる必要性がある。 A県においては、 高校教師が特別支援学校教師、 特別支援学校教師が高校教師にという教師の異校種間交流人事を実施している。 特別支援学校で経験のある高校教師が意識改革の中心になっていることもあり、 A県C地区の公立高校20校中、 特別支援学校経験の教師 8 名が高校の特別支援教育コーディネーターになっている。
  6. 家庭を積極的に支援する
     支援・配慮が必要な生徒の多くが複雑な家庭環境にあり、 生育歴も単純ではない。 青年期の課題であるアイデンティティを確立しようとしても、 周囲にモデルになる大人がいないことが多い。 保護者も複雑な家庭環境で育っていることも多く、 子どもの育て方、 接し方がわからないことも少なくない。
  7. 生徒の生活の貧困について理解を深める
     一人親が多く、 年収300万円〜400万円前後の貧困家庭が多数である。 生徒のアルバイト代が生活を支えている場合も少なくない。 アルバイトで疲弊している生徒の生活の理解と支援が必要である。
  8. 外部との連携 
     ネグレクトの生徒に対しては児童相談所、 発達障害等の生徒に対しては教育センターや発達障害支援センターとも連携しながら支援にあたる必要性がある。 高校卒業後の移行支援・就労支援についてはとくに積極的に実施する必要性がある。
4. 今後の課題
 高校における支援教育推進のために教育相談コーディネーターの役割と専門性については明確になっていない。 スウェーデンの義務教育学校や特別支援学校には 「特別教育家」 が配置されている。 特別教育家の役割は、 (1)特別教授・教科指導や障害・ニーズの教育診断・評価など子どもに直接働きかける (2)義務教育の通常学級教師への子どもの支援方法の助言・巡回指導 (3)保護者との相談や校外機関との連絡調整などのコンサルタント (4)学校長への子どもの学習環境の整備の提言などの助言者、 以上の 3 点であり、 極めて高度の専門職である。 この特別教育家は選抜された義務教育学校の教師が再度、 大学の専門学部で 1 年半〜 3 年履修して資格を得るもので、 多くは30代〜40代の教師のキャリアアップとなる。 現在、 教育相談コーディネーターの役割については、 生活指導のグループ内の仕事、 グループ外での仕事等、 各校の実態により異なっている。 今後、 教育相談コーディネーターの役割と専門性を行政機関が明確にすることで、 支援体制が整備されると考える。 また、 明確にしないとスクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーと効率的に連携できないと思う。

  
(たけもと やよい 綾瀬西高校教員)

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