編 集 後 記

■ジャックアンドベティで中国映画 「海洋天堂」 を観た。 余命わずかと告知された父親と自閉症の一人息子の物語である。 おまえと別れるのは寂しい、 と父親はなにも言わない息子に語りかける。 自分が死んだあと、 息子が一人で生きていけるように、と悪戦苦闘する父親をジェット・リーが演じている。
  巻頭言と赤木さんの文章で 困っている人 を取り上げている。 私の父は認知症になって 困った人 になってしまった。 時をかまわず、 出かけると言い、 車を呼べ、 という。 訳がわからないことを言われて困っていたら、 福祉の仕事に従事している人に お父さんもまわりが訳のわからないことを言って困っていますよ と言われてハッとしたことがある。
■大震災のあとで は想うことが多い。 現実を目の当たりにしていないのでイメージが貧困でうすっぺらい。 いろいろな声に耳を傾けていないと忘れてしまいそうになる。 忘れてしまいたいのかもしれない。 被災地を歩いたフランスのエマニュエル・ドットが、 「高度に発達したはずの日本からこぼれ落ちた人が集まる異質な地域ができつつあるのではないか」 と言っている (9/27毎日新聞)。 いろいろなことに感応できる気持ちを、 茨木のり子の詩にあるような 「震える弱いアンテナ」 のように、 持っていたいと思う。
■高校入試は古くからのテーマである。 1970年代に入試のことを調べていて、 高校側が主導権をとるために、 組合も校長会も一緒になって行動していた時期があることを知ってびっくりしたことがある。 状況は大きく変わっているが、 今後も繰り返し、 検討しなければならないテーマだと思う。 記録という意味も含んで、 シンポジウムの内容や関連する論文を掲載した。
■内容の濃い、 三つの論考を寄稿していただいた。 後藤さんの論考は高校教育会館の夏季講座でお話しいただいたもののエッセンスをお書きいただいた。 当時の小学生の作文が引用されていて興味深い。
■検証作業は相変わらず苦戦中である。 2 回で終えるはずが次号まで延びてしまった。 10年間にわたり多くの人が関わった事柄である。 簡単に黒白をつけることに意味があるとは思えない。 可能な限り論拠をあげながら検証内容を提示し、 私たちとは違った論拠があれば、 教示してもらいながら、 お互いの考えをつきあわせていきたい。 そのためには多くの方に検討への参入をしてほしい。 限られた人だけに通用する暗黙の共通理解を前提にしたものには終わらせたくない。 肝心なのはこれからの高校教育のあり方なのだから。
  福島の方の 「放射能の影響、 誰が正しいの?」 という新聞への投書に、 いろいろな意見を 専 門 家 が 言 う の で 誰 の 説 が 正しいのかわからない、 とあって、 「 学者先生たちの多くは 自説 のみを残して去って行かれました。」 と書かれている (10/1 毎日新聞)。 私たちも、 自説を展開するだけではなく、 検証という作業を通じて今後の高校教育のことを、 ともに考えることができるようなきっかけをつくっていきたい。
■ 「研究所員による書評」 は休載します。 申しわけありません。                                
 

(永田裕之)



ねざす No48 2011年11月10日発行

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