教育をめぐるこの1年:新聞報道を通して |
誌面の都合上いくつかの項目にまとめて1年を振り返った。 どの新聞にも取り上げられた内容は特に出典を示さず、 日付のみ示した。 特集や出典を明示した方が良いと思われる記事のみ 朝日新聞:A、 神奈川新聞:K、 産経新聞:S、 毎日新聞:M、 読売新聞:Y で示した。 1. 高校無償化・高校生の就職 「高校無償化」 が実施された。 私学の就学支援金をめぐって (K6/20)、 定時制や通信制への適応が限定的であることなど様々な仕組みをめぐって (A6/21) 問題が浮かび上がってきている。 朝鮮高校への適用も大きな問題となった。 文科省に設置された専門家会議は、 「日本の高校に類する」 「具体的な教育内容は基準としない」 とした (A8/4、 9/4) が、 「なぜ教育内容不問なのか」 (S社説 9/6)、 「総連組織に税金なぜ」 (S11/5)、 「国家のスタンス忘れた教育行政 無視された拉致家族の声」 (S11/6) など批判が続いた。 政府はいったん、 年内には支給 (11/6) としたが、 11/23に北朝鮮による砲撃事件が起きると、 「平和が前提」 と先送りを決定した (11/25)。 こうした中で自治体の補助金までも見合わせるという議論が起こった。 高体連傘下の様々な競技では、 既に朝鮮高校の扱いは他の公私立高校と変わらず、 交流も進んできている現状がある。 でも無償化問題では、 朝鮮高校だけをターゲットとした批判と排除が執拗に続けられている。 経済状況の悪化は高校生の家庭も直撃している。 「授業料減免 過去最多 高校09年度 不況で 1 割超の生徒」 (文科省調査) (10/24)。 当会館に事務局をおく 「高校生活応援基金」 も 「低所得世帯向け 修学旅行奨学金に殺到 経済悪化で1,699人応募」 (8/3) と注目をあびた。 高校生の就職難も深刻だ。 「高卒就活高い壁 求人不況前の 4 割」 (8/27)、 「高校生の求人倍率0.67倍 神奈川0.78倍 不況長引き大幅減」 (9/18)、 9 月末 「来春全国高卒内定率 40.6% 県内は平均下回る」 (K11/17)、 11月末では県内 「高卒内定率57.3% 前年比 3 ポイント悪化」 と 2 年前に比べて求人数も半減 (K12/29)、 厳しい状況だ。 2. いじめ自殺・学級崩壊 「いじめを苦にした自殺」 が続いた。 川崎の中 3 の男子生徒が 「友人のいじめを救えなかった」 と加害生徒 4 人の名前を明らかにした遺書を残し、 6 月 9 日自宅で自殺した。 その後学校の調査委員会は 「学校全体いじめ状態」 「生徒指導が不十分」 とし、 自殺の 「背景にいじめ」 を認定した (9/5)。 しかしその後、 学校側は具体的な対応をせず、 文書で両親が 「要望書」 を提出、 回答提示の場でやっと対応の具体策が盛り込まれた (12/26)。 神奈川新聞では 「川崎いじめ自殺を考える」 上中下、 「川崎中 3 『いじめ』 自殺 卒業までの275日」、 「卒業式後実名公表」 など 「検証」 を含めた詳細な報道が続いた。 群馬県の小 6 女子児童の場合は、 その後の学校の対応の不適切さ、 またこの女子児童のいじめの背景に 「見過ごせない外国人差別」 (A12/21尹チョジャさん投稿)、 「学級崩壊」 があったこと等が明らかになり、 問題を投げかけている。 「学級崩壊」、 子どもたちの荒れは、 全国で深刻な事態である。 「09年度調査 児童生徒の暴力最多 神奈川県 5 年連続ワースト」 と、 小中ともに文科省の調査で暴力行為の件数は過去最高に達しており (9/15)、 神奈川の中学校では、 対教師暴力も多発している。 「荒れない学校」 (Y連載 1/26〜2/4) では問題が多様化、 複雑化している現状や新しい取り組みを紹介している。 こうした生徒達が高校に進学をしてくるのは遠い先ではない。 今、 広がりつつあるといわれる 「厳しい生活指導」 で対応できるのだろうか。 3. 教師をめぐるさまざまな報道 教師の 「処分」 をめぐる報道も相変わらず多い。 「メモリー紛失」 (4/15)、 「買春」 (5/21) 等々。 一方で横浜地裁では、 酒気帯び運転での免職を厳しすぎる 「処分」 として取り消しを命ずる判決も出された (4/24)。 また多かったのが 「困った先生」 報道で、 「道徳で 『脅迫文作ろう』」 (9/30)、 「これって授業? 小学校教諭がクイズ答えは 『三女を殺す』」 等々。 一方連載 「今、 先生は」 (A7/19〜7/23) には、 追い詰められている教師が多数登場した。 文科省の調査でも、 病気休職は17年連続で増加、 特に精神疾患での休職が昨年度は5,458人に及んでいる。 他の病気も含めた病気休職者も過去最高を更新している (12/25)。 管理職も安泰ではない。 2009年の管理職の希望降任者は223人と過去最高、 特に中間管理職とされる 「主幹」 教諭が半数を超えた (10/28)。 こういった中で 「苦情続き不眠症に」 と、 担任教師が生徒の保護者を提訴し、 当該の小学校も 「モンスターペアレントに学校や教師が負けないようにし」 「教員を代表して訴訟を行っている」 と支持する立場を表明、一方保護者は 「娘が差別された」 として真っ向から対立している (1/18) 事例も出てきた。 君が代不起立問題では、 「氏名収集は継続 県の新教育長」 (K4/23)、 また 「氏名収集 答申尊重を求める請願 県教委が不採択」 (K8/25) と、 神奈川県の姿勢は変わらない。 東京都立高校の教職員が、 入学・卒業式で日の丸に向かって起立し、 君が代を斉唱する義務がないことの確認や損害賠償を求めた裁判で、 違憲とした地裁判決から 4 年半、 東京高裁は、 合憲判断をくだした (1/29)。 一方 「日の丸・君が代通達訴訟」 (起立、斉唱を義務づけた通達に従わなかったとして受けた懲戒処分取消を求めた訴訟) で東京高裁は、 起立・斉唱を義務づける通達や職務命令は合憲としたが、 167人の処分については 「行き過ぎ」 として取り消しの判決を出した。 (3/11) 4. 日本史必修化:教材作成過程で混乱 日本史必修化問題では、 4 月下旬、 有識者会議に県編纂教材のたたき台が示されると、 産経新聞は南京事件の記述などを問題とし、 「まるで 『侵略史』 の教科書と専門家から批判が出ている」 と報道 (5/24)。 その後、 9/29に提示された県教委 「教科書案」 は、 「歴史観の対立回避」 (M9/30) と、 受け止められたが、 内容や表記をめぐって問題指摘が噴出し、 現職知事の県政を高く評価する記述削除など内容面での訂正を11か所、 表記の統一なども含めて全部で920か所の訂正が行われた (12/1)。 その後も沖縄戦や硫黄島占領をめぐる叙述の誤りを指摘され (K12/2)、 再度修正を発表した。 「県教委は厳格な検証を」 (K社説10/23) との批判や 「『事実と異なる記載、 大量の索引漏れ、 表記の不統一、 不明確な記述…』 はなぜ起こったか、 『実施前倒し原因?』」 (K12/19) 等の検証記事も掲載された。 5. 全国学力テスト・PISA 全国学力テストは、 今年から 3 割を取り出す抽出方式での実施となった。 しかし抽出外の学校からの参加も多く、 全体で 7 割以上の参加率となった。 自治体で独自テストを実施するところも増えた (4/21)。 公表された結果については、 「地域格差」 の固定化の指摘が多い (7/31)。 また 「抽出で失った貴重なデータ」 (Y社説 8/2) 「全員参加に戻し競い合え」 (S社説 8/2) と抽出についての論説も目につく。 また文科省は次年度以降科目増の方向を示している (10/28)。 12月7日、 各国の15歳を対象に実施したOECD国際学習到達度調査 (PISA) 結果が公表され、 「読解力」 が 8 位 「科学的リテラシー」 が 5 位 「数学的リテラシー」 が 9 位に回復したことが各紙で大きく取り上げられた (12/8)。 また順位は向上したが、 成績の良い子と悪い子の二極化が目立ち、 読書を趣味とする生徒が少ないなどの問題指摘もある。 そもそもPISAの 「読解力」 とは何か。 調査を受けた15歳は小学校 3 年から現行の 「ゆとり」 学習指導要領で学んでおり、 「そうした中で総合学習などがどう生かされたかも検証は有用だろう」 という指摘 (M社説12/8) は興味深い。 |
(文責 県民図書室 樋浦敬子) |
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