学校から・学校へ (V)

自分の好きな仕事に就くために  

櫻 井 武 美
 先日、 卒業生が 「ベトナムのおみやげです。」 といって学校を訪れてくれた。
 大手アパレル企業にCADパタンナーとして勤務している彼女は、 「ひとりでベトナムの縫製工場へ技術指導に行ってきました。」 とのこと。 おそらく一般の方は工場へ技術指導というと、 縫製技術の指導と思われるだろうが、 彼女はCAD (コンピュータによる製図機械) の指導に行って来たそうだ。 ファッション系の学校に通学していると、 必ず関わった人から 「洋服は何着作るのですか」 と聞かれるのが殆どだ。
 第二次世界大戦直後、 すべての物が不足し、 特に洋服は自分で作らないと着る物がないという時 代だった。 実 際 1957年の統計で既製服と注文服や家庭洋裁との比率は 37 、 1963年でやっと 7:3 と逆転した。 ちなみに翌1964年は、 東京オリンピックが開催された年である。 当時、 服飾系専門学校は洋裁学校 (各種学校) と呼ばれ、 まさに全盛期でもあり、 多くの女性の登竜門的な存在でもあった。
 1976年以降、 各種学校から専門学校となると、 ファッション系の専門学校は趣味ではなく、 アパレル企業に就職することを目的とした学校に変貌していった。 また、 ファッションの大量消費の時代に入り、 一人のデザイナーのブランド力では、 企業として経営できない時代に入っていった。
 自動車や家電は、 メーカーでデザインや色・機能を考え、 工場で部品を組み立て、 ディーラーや電気店・スーパー・デパート等で製品を売るといった分業、 住み分けがなされている。 同じようにファッション業界もアパレルメーカーでデザイン・色・素材・着心地・価格を考え、 工場で縫製し、 ファッションビルやデパート、 ショッピングセンターのショップで販売するといった分業化がなされている。 かつてパソコンも機械の好きな人は自分で組み立てたり、 光岡自動車が、 「組み立てのできる自動車のキット」 を販売したりと、 趣味で作る人が存在したのも事実だが、 アパレル界も現実には手づくりの世界は、 一部のみとなってしまった。
 自動車や家電のように、 理工系の大学出身者がディーラーやショップで販売員になるケースも多くあるが、 アパレル産業界でも同じことが言える。 一般的にはメーカーへは技術職の科の出身者 (本校ではファッションクリエイティブ科)、 ショップへは販売系の科 (ファッションビジネス科)、 工場へは本当に縫うことが好きな出身者と分かれている。
 ショッピングセンターの売り場の60%から80%位は服飾、 雑貨の店で占め、 多くのショップはチェーン店化された店舗が多く、 福利厚生等もしっかりした会社が多いのも事実だ。
 自動車や家電製品とファッションが異なっている点は、 春夏秋冬の四季があることと販売の国際化への遅れだ。 服作りにこだわり過ぎて、 工場は海外特にアジアの国々に移動していったが、 販売の国際化は進んでいない。 特に欧米への販売、 景気の良い国への販売の立ち遅れが問題である。 欧米諸国のアパレル企業の服飾・雑貨は、 日本を始め世界中の国々で販売されている。 それに対し、 日本のアパレル企業の服飾・雑貨は国内の販売が主になっている企業が多く、 戦後、 欧米に学び、 全く同じような物作りをし、 現在はそれ以上の素材、 縫製、 デザインと素晴らしい物作りをしているにも関わらずだ。
 「デザイナーに必要な素質は」 とよく聞かれるが、 かつてはセンスがあり、 常に独創的な考え方の持ち主の人といった風潮があった。 しかし昨今のファッションデザイナー達は、 企画や営業とお客様が求めているデザインを描き、 服作りを進めている。 すなわち、 求められている良いデザイナーとは、 デザインを描くことが好き、 人の意見を良く聞くことができ、 努力のできる人だ。
 ファッションビジネスの世界で人気の職種のバイヤーは、 音楽・美術・世界史に精通していることが求められる。 それは世の中のあらゆることに積極的に興味を持ち、 人々が何を求めているかを嗅ぎ取ることができる基礎知識だからだ。
 また、 よくファッションショーを見学して、 ファションの世界に入りたくなったという人に出会う。 かつてのファッションショーは人材発掘の場であり、 季節に先駆けて何が流行るかといったファッションの流行の先取り、 発表の場でもあった。 しかし、 2005年以降、 東京ガールズコレクションが新しい型のファッションショーとして現れた。 これはメーカーが 「売ること」 を目的に、 アパレル企業ではどんなファッションを作っているかを発信し、 また着こなし等を提供。 モデルもかつての長身、 小顔、 色白といった基準ではなく、 テレビ等で売れているタレントたちを起用。 身近なファションショーとして楽しみ、 若者に販売することを中心としたショーの新しい型として定着していくのではないだろうか。
 「専門学校と大学、 どちらに進むべきか」 といった質問もよく受けるが、 私自身、 大学は商学部、 そして服飾の専門学校 (当時は各種学校) を 3 年で卒業している。 今も大学は勉強や研究をするところ、 専門学校はアパレル企業に直接関わる仕事に就くための勉強をするところだと理解している。 大学と専門学校とは全く異なる授業内容だからこそ、 大学、 専門学校と両方進学するのも良し、 専門学校を 2 年以上修了してから、 大学への編入という進路もある。 当校でも私を含め数人の教員は、 大学、 専門学校の両方を卒業し、 アパレル企業を経て、 勤務している者もいる。
 将来どんな仕事に就きたいのか、 良く仕事の内容を把握し、 その仕事に就くためにどんな資格・検定を取ったらよいのか、 アパレル企業に望まれる人材像や入社試験の内容を良く理解してほしいと思う。
 これからのアパレル企業は、 製造・販売共に世界を相手にできる企業が生き残り、 まだまだ大いに発展できると思っている。

データ参考文献
 『アパレルリテール・ファッション販売の 知識と実務』
 繊維工業構造改善事業協会
 平成 5 年 3 月発行
 (さくらい たけみ 学校法人 桜井学園   横浜ファッションデザイン専門学校理事長)
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