編 集 後 記

◆大震災の衝撃は大きい。 世の中が違った色合いで見える。 価値観や規範意識に与える影響も大きいだろう。 関東大震災は、 近代化へのシニカルな気分を生み、 政党政治の没落、 ファシズムへと歩む道をならしたという指摘もある。 「災後」 という言葉も使われるようになった。 私の身近な人でも地震で気分に変調を来した人もいる。 村上春樹の小説ではないが、 ふっと居なくなるのではないかと心配になったほどだ。 私自身もしばらくの間、 あまりきつい情報は聞きたくない、 という気分になった。 日本人のすばらしさについて流される海外からの情報など、耳障りの良い情報にほっとしたものである。 自分のことながら少し怖い気分だった。
  3 月11日を境に大きな変化があったはずなのに、 何事もなかったかのような学校の写真でもないだろう、 という指摘があって、 表紙裏に地震直後の内部の写真も入れてもらった。 あらためて地震のすさまじさに驚かされる。
  メディアが何を伝えているのか、 ということにも関心が集まっている。 早々に日本脱出をはかったイタリア人ジャーナリストは、 「日本の国民は政府を信じすぎている。 メディアも本当のことを伝えていないのではないか。 特にテレビは感動話ばかりだ。」 と言ったそうだ。 こういう時こそメディアリテラシーの出番なのかもしれない。
  例年、 巻末に掲載している 「教育をめぐるこの一年」 は、 メディアウオッチイング風に県民図書室の樋浦さんに書いていただいた。 教育がメディアでどのように取り上げられているかということにも注目していきたいと思う。
◆今号は、 「高校改革推進計画」 の他に 「支援教育」 について特集を組んだ。 正直にいえば、 私は、 「支援教育」 という取り組みが神奈川県で行われていたことを十分に知らなかった。 「支援教育の全体像」 を読んでいただければ、 この支援教育というのは教育のパラダイム転換を企図していることがわかる。 壮大な計画である。 こんな壮大な計画が知られていない (知らなかっただけかもしれないが) ことは不自然なことのようにも思える。 支援というのは障害のあるなしに関係なく、 すべての生徒に対するもの、 というあたりが出発点であろうか。 新世紀に入った頃から文部科学省が指導という言葉を使わないで支援という言葉を使うようになったことなども思い出す。 「推進計画」 の検証と併せて、 議論できたらと思う。 特にインクルージョンという概念は人によって意味内容が違う。 仕事柄いろいろなところに顔を出すが、 会合のメンバーによって話の前提がずいぶんと違うことがある。 できれば前提の異なった意見同士が同じ誌面で議論したいものだ。
◆「海外教育事情」 は、 私の不手際で今号には掲載されないが、 次号からは連載を継続していただく。 掲載を期待していた読者と、 著者にお詫びいたします。
◆今年度から明星大学の中田正敏さんに当研究所の代表をお願いすることになった。 特集を企画してからわかったことだが、 中田さんは 「支援教育の全体像」 にもあるように神奈川県の 「支援教育」 のプランニングにも深く関わられている。 今後、 共に研究、 討議していただければ、 と思う。   

(永田裕之)



教育研究所員名簿
代表  中田 正敏(明星大学) 
研究所員 石臥 薫子(テレビディレクター・ライター)
井上 恭宏(神奈川県立横浜修悠館高等学校教諭)
大島 真夫(東京大学社会科学研究所研究員)
沖塩 有希子(青山学院大学講師)
金沢 信之(神奈川県立田奈高等学校教諭)
佐藤  香(東京大学社会科学研究所准教授)
宗田 千絵(神奈川県立市ヶ尾高等学校教諭)
武田 麻佐子(神奈川県立瀬谷高等学校教諭)
手島  純(神奈川県立大和西高等学校教諭)
藤原  晃(神奈川県立茅ヶ崎高等学校教諭)
本間 正吾(神奈川県立有馬高等学校教諭)
山崎 隆恵(神奈川県立綾瀬西高等学校教諭)
特別研究員 永田 裕之(元神奈川県立高等学校教諭)
事務局員 布施 俊子(神奈川県高等学校教育会館 県民図書室司書)
共同研究員 神田  修(九州大学名誉教授)
黒沢 惟昭(長野大学社会福祉学部教授・元教育研究所代表)
小山 文雄(作家・近代史家・元教育研究所代表)
杉山  宏(元神奈川県立横浜日野高等学校校長・元教育研究所代表)
佐々木  賢(社会臨床学会運営委員・前教育研究所代表)
(2011年 4 月 1 日現在)


ねざす No47 2011年5月30日発行

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