●小特集●仕事・職業・労働を教える

学校に社会を運ぶ活動 「カタリ場」
― 若者の社会参加を促し、 社会を活性化 ―
 
鶴 賀 康 久

  1. 現代の高校生に対する仮説
    −NPOカタリバの課題設定−  
     2 人に 1 人が自分は人並みの能力はないと言い、 3 人に 1 人が孤独を感じると言う。
     5 人に 3 人が自分はダメな人間だと思っていて、 5 人に 4 人がなんだか疲れている。
     そして、 5 人に 3 人は、 自分が参加しても社会は変わらないと言う。
     上記は、 日本の高校生約1,200名へのアンケート調査の結果です。 1
     このデータを参照すると、 日本の高校生は、 自信がなく、 社会参加への意欲が低いことが見て取れます。
     孤独を感じることや、 自分をダメな人間だと思うことが、 一概に悪いことだとは断定できません。 時として、 孤独が深い感受性を育てるきっかけともなり得るし、 自分をダメな人間だと思うことが、 向上心へと転化することがあるからです。
     その前提の上で、 私たちNPOカタリバの問題意識は、 上記文言の最後、 日本の高校生の「社会参加への意欲の低下」にあります。 NPOカタリバは、 この課題設定の理由として、 社会の現状を踏まえた上で、 下記の仮説を持っています。

    【仮説】
    • 少子化が進んでいる今、 若者の 「社会参加」 は、 社会の 「新陳代謝」 として必須
    • 「社会参加」 の意欲が低いまま (自らの将来像が描けないまま)、 高校生が大人になることは、 ニート・フリーター予備軍の創出に繋がっている
    • 「社会参加」 の意欲が低いまま (自分の将来像が描けないまま)、 就学、 就社することは、 学校、 会社等の外部環境に過度に依存し、 結果、 早期中退者、 早期退職者を生む要因となる

     上記以外にも、 高校生の「社会参加の意欲の低下」から生じる間接的な社会問題は、 数多く存在するかと思います。 周りくどい言い方をしてきましたが、 人間とは本来、 他者との営みの中で、 自らの幸福を見出す生き物であるのなら、 若者が社会参加をしなくていい理由はどこにもないと言えるはずです。
  2. 『学校に社会を運ぶ』  
    −NPOカタリバの活動−
     私たちNPOカタリバは、 年間 2 万人の高校生に対し、 高等学校の授業枠の中で、 キャリア学習プログラム 「カタリ場」 を実施しています。 主に都立高校を中心に活動していますが、 神奈川県の高校では、 厚木西高校、 大和東高校、 川崎高校、 鎌倉高校、 大清水高校、 新羽高校、 横浜桜陽高校、 大和南高校、 緑園総合高校、 座間総合高校 (順不同) の10校に、 「カタリ場」 プログラムを導入いただいています。
     高等学校の 「カタリ場」 プログラムの継続率は92.2%。 また、 生徒への 「進路に対する意識は変わったか?」、 「将来像のイメージに変化があったか?」 という事後アンケート結果も、 高い数値結果が得られています。
     加えまして、 定性評価として、 「カタリ場」 授業後の生徒の感想を 2 つ挙げます。

      「実は、 今のじぶん好きじゃない。 最近あまり頑張ってない。
     今日いろんな先輩の話を聞いて、 やばいと思った。 だから、 まずは学校の授業を頑張ってみようと思う。 『 1 日 1 回、 授業の後、 先生に質問をする』 っていう約束をした。」 (高校 2年生 女子)


      「親にも先生にもともだちにも言えないことがある。 今日、 それを聞いてもらって、 すごく楽になった。 親にも話したらわかってもらえる気がしてきた。」
    (高校 2年生 男子)


     一歩を踏み出せない高校生を動機付けし、 すぐに取り組める小さな目標設定をすることが、 「カタリ場」 プログラムの要旨です。 「先生に質問する」、 「親に夢をうちあける」 等の目標設定は、 社会参加の一歩とも言えます。 なんとなく自信がない高校生を勇気付け、 動機付けし、 一歩を踏み出させること。 NPOカタリバは年間80の高校で、 高校生に社会参加への 「きっかけ」 を与える活動を実施しています。

     プログラム内容について、 簡単にご説明します。 2
     高校の体育館で実施される学年集会 (300名ほど) に、 キャストと呼ぶボランティアスタッフ50名ほどのチームが出張し、 対話型のプログラムを実施します。 キャストは、 高校生の気持ちを引き出す 「チェッキング」 と、 生徒に15分間の紙芝居を使って経験を伝える 「サンプリング」 を数回繰り返し、 120分の授業の最後には、 高校生自身が今から始められるアクションプランを決めて 「約束カード」 というツールに記入します。 そんなシンプルな授業が 「カタリ場」 プログラムです。
     キャリアカウンセリング業界で定義される 「キャリアプランニングプロセス」 によると、 以下の流れを繰り返すことで、 キャリア意識が醸成していくとされています。
    1. 自分の価値観を言語化する。
    2. 情報にふれる。
    3. 情報と自分自身のすり合わせを行う。
    4. アクションプランを立て、 実行する。
    5. 再度、 @→Cを繰り返す。

     カタリ場プログラムは、 まさにこのPDCAサイクルを回すことにより、 動機づけを行っています。
     キャストは、 著名人である必要はありません。 公序良俗に反しなければ、 どんな人でも人生の先輩となり得ます。 教科書を順序だてて学ぶ経験に飽き飽きしている子どもたちが、 初めて出会う社会との接点を 「カタリ場」 として提供するのが、 NPOカタリバのプログラムです。

     私たちNPOカタリバは、 4,000名のボランティアスタッフと共に 9 年間活動を続け、 2010年度で10年目を迎えます。 ボランティアの多くは大学生ですが、 最近は社会人の参加も増え、 北は青森、 南は沖縄まで、 活動の輪が広がりつつあります。
  3. 「カタリ場」 の次にくるもの
     青森の八戸南高校では、 「カタリ場」 実施後、 青森の観光案内プランを高校生が企画し、 実際に観光客をアテンドするということが行われています。 意識付け後、 高校生の高まったやる気を注げる場を、 先生が地域と連携して作っていらっしゃる事例です。 進学実績を高めるためにカタリ場を実施したわけではありませんでしたが、 同校のカタリ場実施学年は例年、 結果的に大学進学希望者が増え、 国公立大学の合格者も増え続けています。

     課外活動をすることや、 大学進学をすることが、 「社会参加」 だと言っているわけではありません。 例えば、 遠い国の子どもたちが飢餓に苦しんでいることを、 自分と同じ世界にすむ出来事として感じられる想像力を持つことが、 「社会参加」 への意欲を高めていくことでもあると、 私たちは考えます。
     高校生が自分の足で次の一歩を踏み出すためにはどうしたらいいか? 私たちは正解を探し続けています。 その答えを、 高校の先生方と一緒に取り組んでいきながら、 お手伝いできることを担う。 それが2010年度のNPOカタリバの新たな挑戦です。
【参考文献】
(1)財団法人日本青少年研究所 『中学生・高校生の生活と意識 −日本・アメリカ・韓国・中国の比較−』 2009年 2 月発表
(2)厚生労働省委託 中央職業能力開発協会 『「キャリア・コンサルティング研究会」 報告書』  2010年 3 月【ヒアリング等概要】特定非営利活動法人NPOカタリバ page117

【連絡先】
NPOカタリバのキャリア学習プログラムに興味を持たれましたら、 まずは一度お気軽にお問い合わせください。
Tel  03-6316-6194
Mail  hello@katariba.net
URL  http://www.katariba.net/
(つるが やすひさ 
   特定非営利活動法人 NPOカタリバ)
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