シリーズ 『教育現場の非正規雇用』

第4回 再任用教職員
 

 
金 沢 信 之

はじめに
 再任用教職員は正式に任用された職員なのだから、 このシリーズがテーマとしている教育現場の非正規雇用とはいえない。 しかし、 期限付き任用であり、 自動的に任用が延長される規定とはなっていない点などからは、 第 3 回で扱った臨時的任用教職員とともに教育現場の非正規雇用化を特徴づけるものと言えよう。 教職員の雇用を不安定なものにし、 職制の導入 (総括教諭) とともに雇用形態によって階層化された職場を作る一因となりうるものなのである。
 さらに再任用の議論を分かりにくくしているのは、 教職員に限らず全ての労働者が直面している公的年金の支給開始引き上げにともなう高齢期雇用のあり方、 本格的な少子高齢化社会が到来する中、 団塊の世代の退職にともなう熟練労働者不足といった課題の存在である。 このような観点からの検討も再任用職員については不可欠なのである。
 再任用の前提には定年制が当然あるわけだが、 公務員制度には定年制がかつては存在しなかった。 しかし、 主に地方公共団体の要請を受けて定年制が導入され、 画一的な定年を補完するものとして再任用制度も制定された経緯がある。 そのため、 現在のように年金問題と直結した再任用制度は新再任用制度と呼ばれ従前のものとは区別されている。 本レポートでは過去の経緯も紹介しながら、 この新再任用制度の概要や課題を整理したいと考えている。 (本レポートではこのように再任用制度を新旧に分けている。 また、 通常 「定年」 と表記するが、 資料によっては 「停年」 と表記する場合もある。)
  1. 公務員の定年制と旧再任用制度
    (1) 定年制導入の経緯
     定年制は公務員制度の変遷の中で変わらず存在したものではない。 概ね地方公務員の定年導入は次のように整理することができる。
    1947年 新憲法とともに地方自治法の施行によって地方公務員制度について若干の規定が設けられた。
    1949年 公立学校の職員が地方公務員となった。
    1950年 地方公務員法の施行 (ただし、 旧来の制度に対して大幅な改革であったため、 都道府県と政令指定都市は 1 年 6 ヶ月後、 その他の地方公共団体においては 2 年後の施行として準備のための猶予期間を置いた。) 同法制定以前は当時 1 万程度あった地方公共団体の内 8 %強にあたる888団体において定年制が実施されていたのだが、 同法が定年制についての規定を持たなかったので、 これ以後定年制は違法とされた。
    1951年 自治省 (現在は総務省) の、 定年制についての行政実例を示す。
    照会
    地方公務員の定年制を実施することができるか
    回答
    停年に関する規定は、 昭和26年 (1951年) 8 月13日以後は違法であると解せられる。
    理由
    地方公務員法27条第 2 項には、 職員は同法に定める事由 (第28第 1 項) による場合でなければその意に反して免職されることがない旨規定されているが、 停年制は、 これにてい触するものである。 なお、 公務に堪えぬか否かは、 その個人々々について判定すべきものであって、 画一的に年齢をもってするのは妥当ではない。
    1956年 地方公務員法の一部改正法案が廃案となる。
    廃案となった案は定年制度を任意で地方公共団体が導入できるとし、 再任用については言及しなかった。
    1968年 地方公務員法の一部改正法案が二度目の廃案となる。
    今回も定年制の導入については任意であったが、 常勤または非常勤の特別職としての再任用について規定されていた。
    この法案で、 再雇用による再任用が制定された理由は、 定年年齢が考えられていたものより低く、 さらに戦争等による中途採用者が多数存在し、 定年退職後も収入を得る必要があったためとされている。 また、 当時は地方公共団体が労働力不足であったことも一因であったようだ。
    1981年 地方公務員法の一部改正法案が成立。
    全ての地方公共団体に定年制を導入し、 国の職員を基準として定年を条例で定めるとした。 また、 定年後の勤務延長もできるものとし、 再任用については常勤の一般職として再任用することができるとした。 (これを本レポートは旧再任用制度と呼んでいる) この改正によって、 68年法案とは異なり、 当時としては定年年齢も決して低いものではないので、 公務の能率的な運営を確保するため必要である場合に限って常勤の一般職職員、 つまり定数内職員としての採用が可能となったのである。

     以上のように、 再三の法案提出を経て定年制は成立した。 定年制導入に野党、 労働組合が強く反対したのがその原因であった。 政府が行政改革の一環として定年制を導入しようとしたことや、 当時は職員の退職後の生活保障 (共済制度) が整備されていなかったことなどが反対の主な理由であったようだ。

    (2) 旧再任用制度
     定年制の導入にともなって再任用制度が制定された。 これは、 定年制度が定められた年齢によって自動的に職員を退職させるものであるため、 職務によっては安定的・能率的な運営の継続性が阻害される場合もあることが想定され、 そのような状況を補完するための制度として位置づけられたのである。 また、 任用される職員は定数内職員とされた。 つまり、 制度制定の目的の中に生活保障的な一律採用・共済年金受給資格取得のための期間保障などは入っていなかった。 このように旧再任用は定める要件が厳しく、 定年退職者の雇用については地方公務員法 3 条 3 項 3 号の特別職による採用が活用されていた。 だが、 このような採用が多くなる事は旧再任用と定年制との関係からは定年制の脱法的運用とも解釈される可能性があった。
     再任用される職員は良好な勤務実績を持ち、 任用である以上それを希望することが必要条件とされた。 地方公共団体の職員採用は競争試験を原則としているが 1 、 再任用職員についてはそれまでの良好な勤務実績によって能力実証はできていると考えられ、 人事委員会の承認を得て一定の基準を設けた選考による任用を可能としたのである。 また、 地方公務員法は職員の採用を全て条件付のものとしているが、 再任用についてはその能力が勤務実績によって実証済みなので必要ないともされた。
     対象になる職については、 退職時とは異なる職種となり、 退職前の職と比較してその職務と責任が同等以下のものとされた。 具体的には、 知識・技能・経験等を生かし高齢者に向いているものとして 「用地取得員・徴税吏員・料金徴収員・美術館や博物館設置のためのプロジェクト要員」 などが想定されていたようである。
     この旧再任用制度はその仕組みを新再任用制度に引き継いでいくのだが、 新再任用制度は高齢期雇用を踏まえたものとされ、 制定の趣旨が旧再任用制度とは大きく異なるものとなった。
     また、 能力実証と再任用の選考・条件付採用との関係は臨時的任用教職員の任用を考える視点を提供している。 (『ねざす』 44号 「教育現場の非正規雇用 シリーズ第 3 回」 を参照) 現在のように事実上の長期継続雇用となっている臨時的任用教職員は能力実証がされたとも考えられよう。 つまり、 臨時的任用教職員についても再任用職員のように地方公共団体が一定の基準を設けて選考による任用を導入する可能性について議論するべきなのであろう。

    【1】競争試験とは特定の職に就けるため、 不特定多数の者の競争によって選抜を行う方法であり、選考とは、 特定の者が特定の職に就く適格性を有するかどうかを確認する方法である。 (『逐条地方公務員法第六次改訂版』 鹿児島重治 学陽書房 1996年)
  2. 高齢期雇用を踏まえた新再任用制度
    (1) 高齢期雇用の課題
     民間企業は06年の 「改正高年齢者雇用安定法」 の施行によって定年制の廃止や定年年齢の65歳までの段階的引き上げなどが義務づけられている。 これは、 公的年金の段階的引き上げにともない公務員・民間労働者は2013年から60歳定年退職後に満額支給までの空白期間が生じることを背景としている。 さらに2021年度の60歳定年退職者 (1957年 4 月 2 日以降に生まれた者) からは 5 年間原則として公的年金が支給されない。
     つまり、 急速なスピードで高齢化が進行し社会保障の負担が増す中、 その負担増を防ぐ最も有効な手段は社会保障の受け手の増大を抑制し、 さらに納税を含め負担する層のすそ野を広くすることであった。 具体的には高齢期雇用の推進による年金受給層の年齢引き上げであったわけである。
     十分な年金が受給できないことで高齢期の労働者は生活に不安を抱えている。 高齢期にあっても生活を支えるために働かなければならない時代が本格的に到来したと言えよう。 しかし、 高齢期にみあった労働になっているだろうか。 最近の教育現場では定年前退職者が徐々に増加している。 2 職場は多忙化し労働環境は年々悪化し、 精神疾患で休職になる教職員も増加している。 3 また、 介護の問題を抱えている教職員もめずらしくはない。 そういった労働環境で60歳前と同じように働くのは難しいのではないだろうか。
     また、 60歳を過ぎると給与は著しく減少する。 職務は変わらず 4 に給与だけが下がる。 再任用は定数内に含まれるのだから熟練労働者を安価に雇用し総労働費の抑制のために利用される可能性もありそうだ。 再任用は少子高齢化社会における労働力不足解消の側面を持つとも言えよう。

    【2】退職者数の変化 (教諭・養護教諭)
    【3】2008年度、 精神疾患による休職者は183名。 指定都市を除いた都道府県別で神奈川は 6 番目に多い。 (朝日新聞 2010年 1 月10日)
    【4】定時制高校で 2 名の再任用者が学級担任をしているとの報告があった。 (2009年度神奈川高教組の聞き取りによる)
    勤務時間に差はあるものの職務内容は常勤職員と同じとされ、 授業・グループ業務・部活動などを行うと説明されている。 (2007年 神奈川県高等学校教職員組合)
    「再任用された職員は、 定年前の職員と同様に本格的な職務に従事することになります。 服務規律の適用についても定年前の職員と同様です。」 (人事院 職員福祉局生涯設計課 2007年 国家公務員の再任用制度より)

    (2) 新再任用制度
     前述したように新再任用制度は旧制度とは制度導入に対する背景や考え方が根本的に違う。 旧制度が職務の継続性を主眼にし高齢者向きの職種を想定していたのに対して、 新制度は安価な労働力 (定員減などの行政改革とできるだけ矛盾しない制度)、 年金制度変更による生活保障を主な目的とし、 常勤職員と変わらない職務内容を前提とするものであるからだ。 だが、 少なくともそういった目的のためには高齢期における給与カーブの検討さえ行えば定年制の延長でもよかったはずだ。 制度検討時に定年制の延長を行わなかった理由は次の二つとされた。
    1. 定年を61歳以上とする民間企業は極めて少なく、 定年後は再雇用が一般的。
    2. 早期退職の慣行がある公務員の幹部職員の退職を60歳に近づける事がまず必要。

     このような考え方のもとで新再任用制度は導入されていき、 65歳定年制は再任用制度導入完了後の継続課題とされた。
     さて、 新再任用制度の 2 つのポイントについて確認する。
    再任用の対象者 (人事院規則11− 9 第 3 条)
    25年以上勤続して退職した者であって当該退職日の翌日から起算して 5 年を経過する日までにあるもの

     これは定年退職者に準ずると評価されるものの条件を述べた規則である。 1999年に制定された人事院規則の中に定年退職者の再任用としてに盛り込まれた。 それまで旧再任用制度は国家公務員法第81条の 4 第 1 項又は第81条の 5 第 1 項の規定により採用するとされており年限に関わる記述は人事院規則には無い。 また、 地方公務員法の中にも年限に対する具体的な記述は無く再任用の対象者は条例で定めることになっている。 ただし国家公務員の制度が準用されるのが基本のようである。
     年限の設定は勧奨退職者の退職手当の割増要件を参考にして新制度から設定された。 5 年は新再任用制度が最長 5 年であることと一般の定年退職者でも退職後公務を離れていた期間が 5 年あると再任用されないこととの整合性をはかっている。 ただし全ての地方公共団体が25年の勤続を条件にしているわけでもない。 東京都は20年以上の勤続となっている。 (『再任用制度ハンドブック』 東京都・特別区人事制度研究会編)

    任用 (地方公務員法 第28条 以下一部省略あり)
    任命権者は、 当該地方公共団体の定年退職者等を、 従前の勤務実績等に基づく選考により、 1 年を超えない範囲内で任期を定め、 常時勤務を要する職に採用することができる。
    任期は、 条例で定めるところにより、 1 年を超えない範囲内で更新することができる。 採用については、 第22条第 1 項の規定は、 適用しない。

     再任用される職員はすでに長年に渡る勤務実績を持つため能力実証を必要とせず選考による採用となっている。 ただし、 あくまでも 「採用することができる」 のであり、 必ず採用しなければならないわけではない。 「従前の勤務実績等」 が悪ければ採用されない場合もある規定となっている。 また、 「等」 の中には再任用時点での健康状態、 退職前に有していた知識・技能を継続して有しているかも評価対象にする可能性が指摘されており、 自動的な任用でないことが繰り返し確認されている。 5 しかし、 ここには情実や不公正な任用が入り込む余地があることから組合等第三者機関のチェック体制が必要であり、 法的には任用における平等原則の確認が重要なのである。
     任期は 1 年となっている。 最長 5 年なのだが、 加齢による能力や意欲の変化を 1 年ごとに確認する必要があるための規定であると説明されている。 意欲、 能力、 健康、 介護の心配などが無ければ60歳以降の雇用が保障されているわけだ。
     本来、 公務員に採用されると条件付任用が適用されるのだが、 再任用職員はすでに能力の実証が終了しているのでそれが適用されない。  

    【5】郵便事業株式会社の2009年度高齢再雇用の受験者1274名のうち、 不合格者は約10%にあたる123名。 同社の選考基準は三つあり、 @面接または作文試験の評価が著しく低くない、 A身体検査の結果、 就業可能と判断される、 B最近 2 年間の人事評価が200点満点で80点以上か80点未満でも面接試験の評価が良好となっている。 不合格の個別具体的理由は経営判断事項であることを理由に明らかにされていない。 労働局に相談、 紛争調停委員会へのあっせん申請もしたが不調で組合が交渉している事案もあるという。 (2009年 9 月19日朝日新聞より)
  3. 神奈川の新再任用制度の現在
    (1) 制度の概要
     地方公共団体も国の制度を準用しているので、 その内容は国家公務員とほとんど変わらない。 神奈川では2001年に条例が制定された。 以下、 条文から一部引用をする。

    (定年退職者に準ずるもの)
    第2条 (1) 25年以上勤続して退職した者であって当該退職の日の翌日から起算して 5 年を経過する日までの間にあるもの
    (任期の更新)
    第3条 再任用の任期の更新は、 職員の当該更新直前の任期における勤務実績が良好である場合に行うことができる。

     任用時の不安、 任用後の更新時の不安がつきまとう内容となっている。 国の制度を準用する仕組みだから仕方の無い側面もあろうが、 前述したように第三者機関のチェック機能が必要であることは言うまでもない。  
     当時、 そういった観点から労働組合 (神奈川高教組) も交渉をしていたが、 その方針は次のようなものであった。
    1. 年金の支給開始年齢の引き上げに対応し、 希望する者全員の再任用の確保を求めます。
    2. 神奈川における高等教育改革の推進に積極的に活用できる制度とします。 とりわけ定数については別枠加配を追求します。
     
     1.は選考による任用の問題点を解決しようとするものであり、 「希望する者全員の再任用の確保」 は重要な指摘である。【6】 2.の別枠加配は安価な労働力としての高齢者雇用に歯止めをかけようとするものと理解できる。 結局、 40時間のフルタイム雇用の場合は定数内となった。 【7】
     現在、 神奈川では選考による任用については希望者全員に内示がでる状況となっており労働組合の要求と現実がとりあえずは合致している。 だが、 神奈川以外や民間の再雇用の場合は退職前の勤務状況によっては再雇用されないケースもある。 東京都の 3 件の 「再雇用・再任用職員採用選考不合格訴訟」 では地裁判決で都側が一部敗訴したもの、 都側が敗訴したもの、 原告の請求が棄却され都側が勝訴しているものとがある。 【8】 任用における平等原則と抵触する可能性も否定できない件もあるのではなかろうか。 【9】

    【6】再任用希望者と内示数
    【7】現在は38時間45分のフルタイム職員、 29時間と19時間15分の短時間職員がいる。
    【8】都側が勝訴した判決の理由要旨 
    事件の概要
     卒業式等において、 国歌斉唱等を命じる職務命令に違反した元教員の原告10人らが、 再雇用職員選考で合格の通知を受けた後に、 合格取消しとなったことを不服として、 地位の確認と損害賠償 (報酬等) を求めて訴えを提起した。
    判決理由要旨
    再雇用選考における都教委の裁量
    ○不起立行為をもって、 勤務成績の良好性に欠けると判断したことは不合理とはいえない。
    ○本件合格取消しに至った都教委の裁量判断が、 社会通念に照らして著しく不合理であるとまでいうことはできない。
    【9】任用における平等原則、 不利益取扱い禁止
    人事院規則11ー 9 に再任用を行うについて違反してはならない規定として国家公務員法の条文が示されている。
    (平等取扱いの原則)
    第27条 すべて国民は、 この法律の適用について、 平等に取り扱われ、 人種、 信条、 性別、 社会的身分、 門地又は第38条第 5 号に規定する場合を除くの外政治的意見若しくは政治的所属関係によつて、 差別されてはならない。
    (不利益取扱いの禁止)
    第108条の 7  職員は、 職員団体の構成員であること、 これを結成しようとしたこと、 若しくはこれに加入しようとしたこと、 又はその職員団体における正当な行為をしたことのために不利益な取扱いを受けない。

    (2) 神奈川の再任用者
    再任用者の勤務校と勤務地については次のように示されている。
    1. 原則として退職時と同一校種ですが、 課程は同一とは限りません。
    2. 勤務する学校は、 退職時校とは限りませ ん。
        (2007年版 神奈川県高等学校教職員組合 「賃金・権利手帳」 より)

     再任用校が退職校とは別になる場合もあり、 その後、 1年ごとの勤務実績を前提とする再雇用は定年前の雇用条件と比較して決して同等とは言い難いだろう。 慣れていた職場から離れてやり直すわけだからそれなりのストレスもあると思う。 それも、 場合によっては全日制から定時制へと課程の変更もあり生活環境が一変する場合もある。【10】
     旧再任用制度では、 退職前の職と比較してその職務と責任が同等以下のものへと再任用されることが前提であった。 それに対して新再任用制度は定年前の職員と同様に本格的な職務に従事することになる。 ただでさえ多忙化し厳しい労働環境になっているのだから、 再任用高齢者に対して、 せめて同一校での継続勤務が望ましいのか、 定年後に他校で仕事を継続するのが望ましいのか、 また、 1年ごとに勤務校が変わる可能性についてどう考えているのかの意見・感想等を緊急に集約する責務が組合にはあるだろう。

    【10】全日制から定時制へと職場が変わって新たな体験をしたことを積極的に評価する声もある。 (共同時空 2010 75 林三郎 「再任用教員になって思うこと」 財) 神奈川県高等学校教育会館 県民図書室)
  4. 公務員の定年延長
     新再任用制度導入の際に見送られていた国家公務員の定年年齢65歳へ引き上げについて人事院の 「公務員の高齢期の雇用問題に関する研究会」 (座長・清家篤慶応義塾長) が2009年 7 月に報告書をまとめた。 それによると、 現行60歳の国家公務員の定年を2013年度から 3 年に 1 歳のペースで、 2025年度に65歳まで引き上げるという。 報告書は定年延長を実現するためには主に次の条件が必要だとする。
    1. 組織活力と公務能率を確保するための方 策を措置
    2. 60歳以降の給与抑制により総給与費の増 加を抑制
    3. 60歳までについても年功的な給与カーブ の見直し。

     組織の活力を維持するために新規採用を確保する必要性があることと、 総人件費を抑制して国民の理解を得ることが定年延長の大前提とされている。 60歳以降のみならず60歳以前の給与も見直して生涯賃金総額の伸びを抑えようとしている。 定年延長は給与体系全体の見直しとセットになると予想できる。 また、 60歳以降には短時間勤務の導入も示唆しているから、 60歳以前の給与は下がり、 そして60歳から65歳は年金給付が無くなり、 健康や介護に心配を抱えた場合は短時間勤務の低い給与で生活を維持しなければならない事態も予想される。 しかし、 本レポートで指摘した課題の内のいくつかは解決できそうである点では現行の再任用制度よりは少しは良いものになる可能性もあろう。
おわりに
 今回でこのシリーズもひとまず終了となる。 シリーズでは全ての教育現場の非正規雇用について取り上げることはできなかった。 学校は教諭、 養護教諭、 事務職、 学校司書、 現業職、 学校警備員、 部活動インストラクター、 校医、 カウンセラーなどの非常勤・臨時的任用の方達によってかなりの部分を支えられている。 同じように仕事をしながら常勤職員とはほど遠い雇用条件で働いている多数の人たちがいることを忘れてはならない。
 多分、 雇用システム全体を再構築しなければ非正規雇用の抜本的な解決は不可能なのかもしれない。 しかし、 職の違いを越えてともに働く者同士がお互いを支え合い、 認め合い、 雇用のあり方そのものを変えていく運動を構築しなければならないのは確かなことだと思う。 そして、 現実の小さな課題を見逃すことなく職場で共有し、 職場の中で解決できることは解決する努力も決して忘れてはならない。 今回取り上げた再任用教員についても現場の心ない声が指摘されている。 (注 10に掲げた 「共同時空」 参照) もちろん、 それは常勤職員も多忙化し辛い思いをしていることの裏返しであると思うが、 職場が階層化し疎外感を感じる職員が増加することは、 当然の事ながら教育に良い影響を与えはしないだろう。
 新再任用制度が定年延長に吸収されるとしても課題は残る。 非正規雇用の課題が全労働者の課題であることを確認し、 働き方に左右されない安全で安心な暮らしが保障された社会の到来を期待したい。

参考文献
『地方公務員の定年制度詳解』 片山虎之助 ぎょうせい 1982年
『[要説] 地方公務員制度第三次改訂版』 鹿児島重治 学陽書房 1995年
『地方公務員法講義 (第二次改訂版)』 橋本勇 ぎょうせい 2002年
『逐条地方公務員法第六次改訂版』 鹿児島重治 学陽書房 1996年
『公務員の再任用制度詳解』 日本人事行政研究所編集 学陽書房 2000年
『国家公務員の新再任用制度詳解』 佐藤和寿他 ぎょうせい2000年
『地方公務員法の解説三訂版』 竹之内一幸他 一橋出版 2006年

(かなざわ のぶゆき 教育研究所員)
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