特集U 教員免許状更新講習始まる
 
教員免許更新講習にかかわって
綿引 光友

 美空ひばりの生誕地である横浜・磯子に、 「間坂」 という坂が実在する (かつて市電の停留所名にもなっていた) が、 わが教員人生を振り返ると、 「まさか」 と思われるような 「サプライズ」 が 3 つある。 1 番目は研究所の特別研究員となり、 『ねざす』 の編集に 2 年間係わったこと。 2 番目は、 『神高教50年史』 編纂委員の末席を汚したこと。 さらに 3 番目としては、 教員免許更新講習が本格実施された本年、 その講師役を担当することになったことだ。
  プチ指導力不足教員 を自認する私がなんと、 必修領域 (「教育の最新事情」 12時間) の 「教職についての省察」 (3 時間分) をテーマに講義をするというのだから、 まさに、 驚き・桃の木・花ミズキ (?) である。 打診されたときはさすがに固辞したが、 主催する大学内でも講師の引き受け手が少ないようであった。 結局、 講師団となったのは、 私を含めた兼任講師 3 人と専任の教授 1 人という顔ぶれとなった。
 免許更新制を戦後教育における最低・最悪の制度と捉えつつも、 退職した身の自分には、 「そんなのカンケイない!」 と高を括っていたのだが、 まさか自分が、 その制度の一端を担うようになるとは思いもよらなかった。 しかし、 どうせやるなら、 「参加してよかった」 と思われるような内容にしようと、 講師 4 人による打ち合わせを持ち、 グループ討論を取り入れた、 いわゆる参加型の講習にするとの方針をたてた。 そして、 最終日 ( 2 日目) の最後に、 事務局の協力を得て、 茶話会と称した参加者による懇談会 (任意としたが 4 分の 3 近くの方々が参加。 4 人の講師も参加) を持つことにした。
 最初は緊張気味だった受講者たちも、 グループ討論で活発な意見交換を重ねるにつれて、 すっかり打ち解けていった。 ついには、 講習参加者の中から、 「同窓会みたいなものができないか」 といった提案が出されるに至った。 受講者の約 6 割が当該大学の卒業生だったが、 遠くは北海道・函館からの参加者 (OBではない) もいた。
 シラバスには次のように書いた。 「今、 現場にいる教職員は、 実に多くの困難を抱えながらも、 目前の子ども・生徒の未来や進路を考え、 ぎりぎりのところで奮闘していると思います。 (略) 新聞などに見られる数々の教育関係の事件報道や調査統計、 新旧の著作などを資料としながら、 教職員が元気を取り戻し、 誇りを持ち、 理想を見失わずに、 授業やしごとに人間らしく取り組めるようにするためにはどうすればよいかについて、 ともに考えましょう」
  「勇気と言う気が必要」 など得意の 掛け言葉 も交え、 最後は直前に読んだ姜尚中さんの著書 (岩波ブックレット) タイトルにあった、 「希望と絆」 とのキーワードを提示し、 締めくくった。 その後の討論では、 グループ内の 「絆」 の深まりが見られ、 休憩もとらずに議論に没頭するところも少なくなかった。
 朝日新聞 「声」 欄に 「教員に負担重い免許更新制」 (09年 8 月29日) との投書があり、 その問題点が指摘されていたが、 まったくそのとおりである。 言うまでもなく、 免許更新制度が導入されるきっかけを作ったのは、 安倍晋三首相 (当時) だった。 その著 『美しい国へ』 (文春新書、 06年 3 月刊) には、 「ダメ教師は辞めていただく」 (210ページ) とあり、 「あらかじめ (教員の―引用者) 質を確保するためには、 教員免許の更新制度を導入するのもひとつの方法ではないか」 とある。
 かくて不適格教員を排除することを目的とした導入が検討されたが、 数々の問題点が指摘され、 「適格性」 目的から 「刷新」 目的への転換を余儀なくされた (しかし、 先の総選挙中に配布された自民党のパンフには、 「生活が乱れた教員や指導力不足教員への方策として、 教員レベルの維持向上を図る」 ために更新制が導入されたとある)。 文科省のHPには、 「更新制は不適格教員を排除することを目的としたものではありません」 との注意書きがあるが、 不合格 (60点未満) の場合は免許が失効するわけだから、 結果的には 「排除」 と違わないだろう。
 スタートしたばかりの制度だが、 廃止を含む抜本的な見直しは急務である。 他方、 次のような世間の 「空気」 もよく読み、 検討していかなければならない。
 朝日新聞の夕刊に 「Say! Yes! No!」 というコーナー (毎週土曜日掲載) があるが、 5 月16日付のテーマはずばり、 「教員免許の更新制は必要?」 というものだった。 それによると、 回答総数7,048人のうち、 NOが25%、 YESが75%となっていた。 YESの意見の中には、 「更新時の評価には生徒や保護者も参加させるべき」 との意見もあった。
 教育現場と世間との 「空気格差」 をよく見渡した上で、 どうすればよいか議論する必要があるだろう。 とは言いつつも、 当面は、 自己負担の受講料を支払い、 さらには交通費や宿泊代まで出して更新講習に参加される方々にとって、 目の前が少しでも明るくなるような内容と方法による講習となるよう努力したい。

(わたひき みつとも 國學院大學非常勤講師)
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