前期再編と後期再編を経験して
藤沢総合と藤沢方面単位制普通科
 
佐藤 道和
 
説明会での素朴な問い
 今年の夏季休業中に地区ごとの公私合同説明・相談会が開催された。 各開催地には多くの中学生や保護者などが来場した。 各校とも 「魅力や特色」 の説明や紹介に懸命であった。 私の勤務校でも来年度の開校に向け、 「藤沢方面単位制普通科高校 (大清水・藤沢)」 のアピールに忙しく、 職員が昼食時間を交代しながらとらざるを得ない状況であった。 地元開催であったため、 5 月の全公立展のイベント的なものとは全く違う雰囲気であり、 各ブースには多くの相談者が来場した。 受検者にとってもいよいよ大変な時期になってきたという緊張感のようなものが感じられた。 もっとも、 会場が盛況だということだけですべてがよしとはいかない面もあろう。 広域な範囲からの生徒獲得のために競争を煽られ、 「隣の○○高校はずいぶん相談者が来ているようだ。」 という意識に拍車がかかりはしないかという恐れもある。 学区撤廃後にこのような相談会が増え過ぎたのではないかと感じている。
 さて、 新しい高校に対する主な質問は次のようなものであった。 「来年度開校する新校はどのような学校ですか?」 「どのような部活動があるのですか?」 「総合学科とはどう違うのですか?」 また、 「このくらいの成績で合格できるでしょうか?」 というストレートなものまであり、 受検者や保護者のおかれている厳しい現状を切実なまでに感じた。 その中である保護者からの質問に対し、 答えに窮する場面があった。

「なぜ統合するのですか?」
 新校の特色や魅力についての質問ばかりが続いていたため、 一瞬頭の中が真っ白になってしまった。   「中学校卒業者数の減少にともなって…ある程度の規模は必要ですから。」 などと答えたが、 相手は納得しているのかどうか分からない様子であった。 しかし、 それ以上に深く質問されることもなかった。 どうやら教育関係者ではなく一般の方の素朴な疑問のようであった。 しかし、 素朴だからこそしっかり答える必要と責任があるのではないかとその後反省した。 実際に、 県教委の県立高校改革推進計画後期実施計画 (概要) (2005.3) は 「第 4 章 県立高校の規模及び配置の適正化の推進」 の中で、 「県内の公立中学校卒業者数の動向をもとに、 今後の県立高校生徒の受け入れを考えることが必要」 とし、 「(1)教員配置数の減少により、 高校教育に求められる多様な教科・科目の展開が困難となる。 (2)生徒数が少なく、 学校行事や生徒間の交流などの面で、 活気がとぼしくなる。 (3)部活動では、 部員や顧問が不足し、 活力ある活動ができなくなる。 (4)教員一人あたりの校務分掌が多くなり、 学校運営に支障を生じることがある。」 の理由をあげている。 そのための方策として 「高校としての良好な教育条件を確保し、 各学校が活力ある教育活動を円滑に展開するためには、 一定の学校規模の確保が必要であり、 前期実施計画に引き続き、 県立高校の再編統合を実施する」 とされている。 (下線部筆者加筆) (2005年 3 月、 県教委 前掲 「後期実施計画」)

 もし、 相談会の会場で 「(適正) 規模の問題なら統合後も全日制普通科のままでもよいのではないか。」 「様々なタイプの高校が必要だとしたらそれは本当に入学希望者のニーズなのか。」 「全日制公立高校の入学希望者数よりも実際の入学者数が (私学枠のために) 少ないにもかかわらず、 新しい定時制単独校 〔多部制〕 (座間方面) が開校するのはなぜなのか。」 などの質問が出てきたら、 どのように答えるべきであろうか。 新しい定時制単独校 〔多部制〕 (座間方面) に至っては後期再編計画後に出てきたもので、 県民にとって分かりやすい形での説明が必要ではないか。

前期再編校での改革の経緯 良好な教育条件の確保 (整備) とは
 私が以前参加していた神高教2003年委員会は、 98年 5 月に神奈川の高校教育改革プログラム (素案) で県立高校が目指すべきものとして 「トライ・アンド・エラー (やりなおし) のできる学校」 を掲げ、 「30人学級の実現」 や 「高校は本来 『単位制』 である」 ことなどを提起した。 前に引用した県立高校改革推進後期実施計画 (概要) の下線部 「教員配置数」 や 「教員一人あたりの校務分掌…」 については30人学級の実現によりその配置数が増え、 結果、 生徒一人ひとりに対して良好な教育環境となるはずである。 提起してから既に10年以上が経過したが、 現在は 6 クラス 8 展開のように校内的な措置でカバーし、 努力している学校が多いはずである。 しかし、 教員の努力だけでは限界があるように思う。 また、 「高校教育に求められる多様な教科・科目の展開」 の関連について言うならば、 私の前任校の藤沢総合高校の前身となる、 長後高校 (2004年に藤沢北高校と統合) では、 県教委が進める 「魅力と特色ある高校づくりプラン」 (1994年〜) の一つとして始められた総合選択制高校として、 「単位制による教育課程の運用」 を試みた。 改革の趣旨は県立高校にある大多数の普通科を改革することから始めなくては真の高校改革はないというものであった。 「高校教育に求められる多様な教科・科目の展開」 は総合学科や単位制高校の特権ではない。 長後高校の教育課程では、 それまでの教科・科目は生徒の学ぶ意欲や興味に結びつかないものが多く、 多様な教科・科目を設置することによってこれを解決していこうというものであった。 長後高校での改革は生徒の現状分析とその課題を解決するところから始まったし、 藤沢北高校との再編業務では、 実際には意見の相違や勘違いから目指す方向が見えない時もあったが、 それでも、 新校としての 「良好な教育条件」 を確保するために生徒の立場に立ち、 日々努力していたように思う。 思い出すのは新校開校直前の 3 月、 移行期生のある学年団の構成を決める時のことである。 両校出身の教員が副担任も含めて同数となるように教員内で相談して決めた。 生徒の精神的な不安材料を少しでも減らすためである。 当時、 管理職もそのことについては快く受け入れてくれた。

後期再編校での開校準備にあたって
 現在、 来年度の開校に向けて準備委員として業務をしている最中である。 前期再編の頃は準備委員という立場ではなかったが、 校内の情報の流れは今よりはあったと思う。 校内組織について言えば企画会議が導入されて多くの学校で情報の共有化が減ったという話を聞く。 私の現勤務校では企画会議後に記録が全員に配布され、 おおよその内容がつかめるという体制であり、 職員室でも雑談的な話題の中に意外と重要だと思われるようなことが話されている。 以前、 県教委は改革にあたって 「夢を描いて欲しい」 と言った。 様々な条件整備の不足から後期再編校では負担感の方が強くなっているように感じる。 再編計画以後に持ち上がった耐震補強工事の問題や、 そもそも県財政の逼迫により再編整備予算も (感覚的にだが) 前期再編時よりも少ない中で行わなければならない状況である。 実際に予算の関係からロッカーを 3 段式の小さなものにと言う話が来たときには準備室でも唖然とさせられたからである。
 人的措置についても18学級規模の全日制単位制高校 (普通科) に配当される 9 名分は、 単位制という複雑なシステムや 1 人当たりの授業科目数の多さを考慮するならば、 とても十分とは言えないであろう。 今後どれだけの予算的・人的措置がなされるのであろうか。 来年度開校する数校が完成年度を迎えるころには、 学習指導要領の改訂にともない、 現在検討されている教育課程を実施しながら新課程への研究も同時に進行させなくてはならない。 「なぜ統合するのですか?」 を自らに問いながら、 生徒の目線で考えることを忘れないようしていかなければならない。

(さとう みちかず 県立藤沢高校教員)
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