つながりの実感できる関係性を目指して
〜教育討論会に参加して〜
 
横浜市健康福祉局寿地区対策担当 大渕 義博

はじめに
 2007年度の教育討論会 「格差社会の中で高校はどうなるか」 に続いて、 今年度 (2008年度) の教育討論会 「貧困の連鎖と学校」 にも参加させていただいた。
 2007年度の討論会は、 学校間の格差と家庭の経済的な格差との関係について、 そして進学重点校の問題等について論じ、 討論し合うものであった。 2008年度は、 更に討論の枠が広がり、 経済不況という大きな鏡から映し出された今日的な貧困の実態を様々な角度から明らかにし、 改めてそれについて参加者一人一人が直視する場となった。
 今日的な貧困問題を考えるにあたっては、 現行の労働者派遣法や生活保護法等の法制度を切り口にした視点や、 世界的な経済不況を切り口にした視点、 貧困と教育 (学校) を切り口とした視点等多岐に渡る。 そこで自分の足元に目を向けてみると、 私は、 行政の立場で社会福祉の現場に身をおいているので、 この寄稿では、 社会福祉の視点で 「人と人とのつながり」 「社会的な関係性」 といったことを切り口にして、 今回のテーマについてふれてみたい。

経済的貧困と人間関係の貧困
 問題提起者の一人 「もやい」 の代表理事である稲葉氏が、 今日的貧困の特徴としてこの二つの側面を挙げたが、 この双方の側面こそが社会福祉の援助に大きく関係してくるものである。
 私の日常業務の中でも、 決して数は多くないが、 労働環境から離れた、 もしくは離された若者の生活相談にあたることがある。 彼らは、 事業所からの突然の解雇、 派遣切り等といった契機で失職し、 相談に訪れる。 彼らの第一声は、 そのほとんどが 「何か仕事はありませんか?」 といった、 求職を主訴としたものである。 しかし、 相談の過程で少しずつ生活背景にふれていくと、 仕事以前に住む所や食べるものが無い等、 まず生活の基盤がとても不安定であることや、 周りに頼れる親族や友人、 知人の存在が皆無であることが多い。  相談の過程で生活背景に触れてみると、 失職したから突然貧困に陥るというよりは、 そこまでの過程で何らかの事情を抱え、 らせん階段を下っていくように、 親族を含め他者との関係を失ったり、 拒絶されたりしている。 そして自ら他者や社会との関係を新たに築けず、 貧困状態に陥ったのではないだろうか。
 言うまでもなく、 日々私たちは、 家庭、 学校、 職場、 地域などといった社会的な関係性のなかで、 お互いがお互いを支え合っていると感じながら生活をしている。 しかし、 社会福祉を必要としている人の多くは、 こうした社会的なつながりを奪われている。 社会とのつながりを奪われることは、 人としての社会的な存在価値の否定であり、 人としての尊厳を見出せなくなってしまうことも意味している。 このことは、 年末年始にテレビや新聞等のメディアでも連日のように取り上げられ、 とても大きな話題となった 「派遣村」 の利用者の多くが、 「何よりも社会的なつながりを実感できたことで、 失いかけていた人としての尊厳や自信を取り戻し、 立ち直る契機となったことが一番うれしい」 といったコメントを残していたところからも、 深く理解することができる。  このように、 社会福祉の援助は、 困難な生活状況を改善していく側面 (経済的貧困への関わり) と、 社会とのつながりを取り戻したり、 新たに創り出したりするような側面 (人間関係の貧困への関わり) があることがわかる。

教育と福祉の連携の可能性
 今回の討論会では、 日頃学校が対応に追われている生徒間のトラブルや生徒が起こす問題行動、 保護者とのやりとり、 各種制度の壁等、 もしそこに社会福祉の援助にあたるソーシャルワーカーが介入していたら何ができるだろうかと考えさせられる事例がいくつか挙げられていた。
 ソーシャルワーカーには、 各種の問題や課題について、 個人とその環境の双方に働きかけ、 その間の関係調整や仲介、 連携、 代弁 (権利擁護) など多様な方法を用い、 問題解決を図る役割がある。
 例えば、 生活保護を受給している生徒の進学費用の問題や、 学費の未払い問題についての事例があった。 生徒がアルバイトをして進学費用を貯めようにも、 法の中に収入認定のルールがあり、 思うように貯金ができないといった声や、 そもそも自分の子どもに生活保護を受給していることを知られたくない保護者の思い等、 複雑に絡み合った状況をソーシャルワーカーが学校や関係者と連携して整理し、 解決に向けていく役割を担えないものかと思った。 しかし、 現実的に学校と福祉の連携がどうあるべきかは、 今回の討論のテーマとするところではなかったし、 そもそもそれが必要か否かを含め話題としていくには、 事例の積重ねもまた必要とされるであろう。

おわりに
 社会福祉の援助の出発点として 「困難な生活状況を改善していく側面」 と、 「社会とのつながりを取り戻したり、 新たに創り出したりしていく側面」 があることを先に述べた。
改めて今回の貧困、 格差といった問題を社会福祉の領域から考える時、 まずはそこを取り巻く人と社会との関係性に着目していくことが、 関わりのスタートラインではないかと、 考えさせられた。
 二年程前からスクールソーシャルワーカーが導入され始めた。 私自身その実態をしっかりと把握していないが、 今回の討論会を通して、 教育と福祉の連携の重要性を感じた。 今後もこの連携のあり方については十分議論していく余地があるのではないかと思う。


(参考文献)
稲沢公一・岩崎晋也 『社会福祉をつかむ』 有斐閣 2008年
                      

(おおぶち よしひろ 横浜市健康福祉局寿地区対策担当)

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