教育討論会2008レジュメ
貧困問題の拡大と教育の役割
 
稲葉  剛

◎今、 まさに進行していること
『非正規切り』 3万人 景気後退でしわ寄せ 厚労省調査
 米国発の世界的な景気後退に伴う企業業績の悪化で雇用情勢の厳しさが増す中、 少なくとも約 3 万人の非正規労働者が10月から来年 3 月までの間、 契約 の中途解除や契約期間満了後の雇い止め、 解雇などの雇用調整 (予定を含む) をされていることが28日、 厚生労働省の全国調査で分かった。
 25日現在で内容が確定した事例の集計で、 厚労省が実際の人数を調査したのは初めて。 厚労省は 「今後さらに非正規労働者を中心に大量離職の発生 や新卒者の採用内定取り消しが懸念される」 との危機感から、 28日緊急雇用対策本部を設置し、 状況把握や企業への指導、 失業した人の早期再就職支援などを行う。
 調査によると、 雇い止めや契約の中途解除などをされた非正規労働者は30,067人 (25日現在)。 派遣労働者が 3 分の 2 の19,775人 (65.8%) を占め、 期間工などの有期契約労働者は5,787人 (19.2%)、 請負労働者は3,191人 (10.6%) だった。
 産業別では製造業が28,245人と93.9%を占めた。 都道府県別では、 トヨタ自動車など自動車関連企業が多い愛知県が最多の4,104人 (13.6%)。 岐阜県1,986人、 栃木県1,680人と続き、 長野、 広島、 大分、 静岡、 神奈川、 宮城、 東京が千人以上だった。

新卒者の内定331人取り消し
 来年 3 月、 卒業見込みの新卒者の採用内定を取り消した事業所は全国で87社、 対象者は計331人 (25日現在) に上ることが28日、 厚生労働省のまとめで分かった。
 企業の届け出による集計が始まった1993年以降、 最も多かったのは山一証券の経営破たんの影響などがあった98年 3 月卒の1,077人。
 大学や短大、 専門学校などが九割超の302人 (75社)、 高校生が29人 (15社)。 規模別の取り消し人数は、 従業員300人以上が24社177人 (53%) と最も多く、 99人以下が40社81人 (24%)、 100〜299人が23社73人 (22%) だった。

(2008年11月28日  東京新聞夕刊)

  • 「派遣切り」 の進行… 「景気の調整弁」 にされる労働者
  • 内定取り消しの乱発… 「第 2 ロスジェネ」 の誕生
  • 「ギャンブル化」 する生

◎ ワーキングプアとハウジングプア

◎ 経済的貧困と人間関係の貧困
  • 経済的な貧困:仕事がない、 住む家がない、 貯金がない、 食べる物がない…
  • 人間関係の貧困:困った時に頼れる人がいない、 自分の話を聞いてくれる相手がいない、 アパートや仕事の保証人がいない…
  • 秋葉原事件から見えてくること
◎ 生を無条件肯定できない社会
  • 「底の抜けた部屋」 …生存権が保障されない社会に生きるとは?
  • 「せっかく頑張ろうと思った矢先 (生活保護を) 切りやがった。 生活困窮者は、 はよ死ねってことか」 (昨年 7 月、 北九州市小倉北区で餓死状態で発見された男性の日記より)
  • 「乞食 (ママ) は最低で、 世の中の役に立っていないから、 犬猫と一緒。 汚くて街に迷惑をかけており、 死ぬのを待っているだけ。 死んでも仕方がない」 (昨年 5 月、 北区赤羽公園での野宿者襲撃事件で逮捕された加害少年の供述。 新聞報道より)
◎ 貧困問題へのまなざし
  • 戦後日本社会の 「常識」
     「やる気さえあれば、 働く場はある」、 「一生懸命働けば、 生活はなんとかなる」→自己責任論
  • 個人の問題ではなく、 社会の問題として認識すること。
  • さまざまな社会問題の背景に 「貧困」 は隠れている 「犯罪」 「自殺」 「多重債務」 「児童虐待」 「給食費未納」 …
◎今、 教育に求められていること
  • 「フリーターにならないための教育」 でいいのか?
  • 生き抜くためのノウハウ 労働者、 消費者としての権利を知る 社会保障制度を知る
  • 社会の当事者になる 観る立場→問う・問われる立場へ 「あの人たちの問題」 ではなく、 「私たちの社会の問題」 「私の生き方の問題」 として考える
  • いのちを肯定し、 「つながり」 を回復するための教育
    自分とのつながり、 他者とのつながり、 自然とのつながり
    市場経済至上主義とは別の価値観を育めるコミュニティ
◎<もやい>の活動紹介
  • 入居支援事業:路上・施設・病院など広い意味での 「ホームレス状況」 にある方々がアパート入居する際に連帯保証人を提供。 累計で約1350世帯。
  • 生活相談・支援事業:入居後のよろず相談を受けていたが、 最近は入居支援事業利用者以外の外部からの相談が増加。 生活保護申請同行の件数が急増している。 「福祉事務所で門前払いされた人々の駆け込み寺」 的存在。
  • 交流事業:入居後の社会的孤立を防ぐため、 交流サロン (毎週土曜日) やレクリエーション企画などを開催。 東ティモールのフェアトレードコーヒーの自家焙煎・販売にも取り組んでいる。
  • 他に緊急一時保護センター等への面会相談や、 広報活動、 学校や地域での人権啓発活動など。
◎参考文献一覧
『現代の貧困』  岩田正美 ちくま新書
『ルポ 最底辺』  生田武志 ちくま新書
『「野宿者襲撃」 論』 生田武志 人文書院
『大阪・道頓堀川 「ホームレス」 襲撃事件―
『弱者いじめの連鎖を断つ』  北村年子 太郎次郎舎
『貧困襲来』  湯浅誠 山吹書店・JRC
『反貧困― 「すべり台社会」 からの脱出』  湯浅誠 岩波新書
『お金で死なないための本〜いつでもカード、 どこでもローンの落とし穴』 宇都宮健児・監修、 千葉保、 クレサラ探偵団・著 太郎次郎社

★ 「ホームレス問題の授業づくり全国ネット」 参加へのお願い
 わたしたち 「ホームレス問題の授業づくり全国ネット」 呼びかけ人は、 これまで野宿者問題にかかわりながら、 支援者、 ジャーナリスト、 学校教員等、 それぞれの立場から、 学校での 「ホームレス問題の授業」 に取りくんできた有志の集まりです。
 このたび、 「ホームレス問題の授業づくり全国ネット」 を立ち上げるにあたって、 広く、 全国の皆さんのご参加を呼びかけます。

【呼びかけ文】
 いま、 日本各地で、 子ども・若者たちによる野宿者への襲撃事件が起こっています。 投石、 エアガン・花火を打ちこむ、 消火器を噴霧して投げこむ、 ガソリンをかけて火を放つ、 殴る・蹴るなどの暴行が、 日常的に頻発しているのです。
 06年には、 姫路市の中高生ら少年 4 人が、 野宿者に火炎瓶を投げこんで焼死させるなど、 被害者が 「死」 に至る事件も後をたちません。
 襲撃した少年たちは、 「ホームレスは臭くて汚くて社会の役にたたない存在」 「ゴミを掃除しただけ、 大人は叱らないと思った」 などと語っています。 そこには、 大人・社会の野宿者・貧困者への差別意識が、 あからさまに反映されています。
 そして、 子どもたちの野宿者襲撃には、 「いじめ」 問題との強い共通性があります。 いま、 多くの子どもたちが、 学校、 家庭、 社会から 「ありのままの自分」 を認められず、 仲間に対しても 「過剰な同調」 と 「競争意識」 を強いられ、 そのストレスから 「自分より弱い他者を攻撃すること」 で、 自分の存在・価値を実感しようとしています。 子どもたちの 「ホームレス」 いじめも、 まさに同じ背景・構造にあり、 加害者自身が 「自分を尊重され、 他者を尊重できる」 という、 基本的な関係性が築けず、 心理的に抑圧されています。
  「ホーム・レス」 を、 安心できる 「家や居場所がない状態」 と捉えるなら、 彼らもまた 「心のホームレス」 「関係のホームレス」 であるといえるでしょう。
 また、 多くの若者たちが、 学校を出て働いても、 満足な収入が得られないワーキングプアや、 都合よく使い捨てられるフリーターになるという現実、 さらに社会に出て働く意味そのものが感じられないという問題にも直面しています。 「ネットカフェ難民」 といわれる若年層の 「ホームレス」 化とともに、 野宿者と若者たちの抱える貧困・労働問題は、 もはや切りはなせない地続きのものとなっています。
 わたしたちは、 「襲撃・いじめ」 といった若者たちと野宿者の 「最悪の出会い」 を、 希望ある 「人と人としての出会い」 へと転換していくために、 襲撃問題を解決するための取りくみや、 学校での 「ホームレス問題の授業」 を行ってきました。 しかし 「ホームレス問題の授業」 の実践は、 日本では、 まだごく一部です。 子どもたちが加害者となる残酷な襲撃・殺害事件が頻発しているなか、 教育現場の対応は信じられないほど遅れています。
 襲撃問題の解決のために、 野宿者をはじめ、 子どもや若者たちが安心して生きていける社会の実現のために、 「ホームレス問題」 への理解と共感、 あらゆる命・人権を尊重するための 「授業の実践」 を、 至急、 教育現場で展開していくことが必要です。
 わたしたちは、 こうした問題に関心をもつ全国のみなさんと、 授業の実践、 情報交換、 教材の開発、 そして文部科学省・各地の教育委員会へ 「学校でホームレス問題をおこなうこと」 を求めていくために、 つながり、 力を合わせていきたいと願っています。 ぜひ仲間に加わっていただけますよう、 多くの方のご参加を呼びかけます。

「ホームレス問題の授業づくり全国ネット」
呼びかけ人:
生田武志 (野宿者ネットワーク)
北村年子 (フリージャーナリスト)
清野賢司 (東京都教員・NPO法人 TENOHASHI 事務局長)  
飯田基晴 (ドキュメンタリー映画監督)

● 「ホームレス問題の授業づくり全国ネット」 メーリングリストにご参加希望の方は、 氏名・所属等を明記の上、 こちらのアドレスまで。  cex38710@syd.odn.ne.jp

※ サイト 「野宿者問題の授業を学校で行なっています」 のメールでも送れます。
 http://www1.odn.ne.jp/~cex38710/class.htm

●連絡先:090−8795−9499  (野宿者ネットワーク)
 〒557-0001 大阪市西成区山王1-8-18 生田武志

ねざす目次にもどる