はじめに
百年に一度の経済危機と言われている。 このような中、 大企業の非正規雇用解雇は社会から強い批判を浴びた。
今では解雇は正社員にも及んでいるが、 まずは非正規雇用から解雇するといった流れは止まりそうにない。
学校ではキャリア教育や総合的な学習の時間の中で、 非正規雇用をめぐる課題や問題に触れる事も多くなっている。 しかし、 職場の同僚である非正規雇用の方々に対する関心はなかなか高まっていないように感じる。
昨年、 教育現場における非正規雇用の問題をテレビ番組が取り上げたが、 継続してこの問題を扱っているとは聞いていない。 (NHKクローズアップ現代が08年11月 6 日に 「教育に穴が空く〜 非正規 教員依存のひずみ〜」 という番組を放送した)
シリーズ 2 回目では、 教育現場の非正規雇用のひとつである非常勤講師 (本レポートでは特に説明が無い限りは神奈川の高等学校教育職の非常勤職員) についてとりあげる。 日々、 意識することなく接している非常勤講師がどのような職で、 どのような困難を抱えているのかを中心に報告したい。
- 非常勤講師とは
基本的には授業時間を教諭に割り振った後に生じる端数時間の処理、 療休中の教諭の一部授業代替、 初任者研修への対応などにあたるのが非常勤講師である。 神奈川で非常勤講師の職に就く事を希望する場合、 高等学校については県教育委員会へ、 小中学校は各市町村教育委員会への登録が可能となっている。 地方公務員法第16条及び学校教育法第 9 条による欠格事項に該当さえしなければ、 教員免許取得見込み者であっても登録が可能である。 ただし、 登録をせずに雇用される事は日常的に存在する。 年度末などに、 各学校が一斉に次年度の講師を捜し始めると、 登録者はすぐに底をつき、 必要時間を埋めるため、 様々な紹介を頼りに雇用が依頼されるケースも多い。 また、 年度途中に急に講師が必要となった時、 該当教科の講師が登録されていないケースも珍しくはない。 幸いにして登録者がいたとしても、 通勤距離や時間割の都合で雇用に至らないケースもある。
非常勤講師の法的任用根拠は地方公務員法 3 条 3 項 3 号による。 同条で地方公務員は一般職と特別職に分けるとされ、 さらに同法 4 条で 「この法律 (地方公務員法) の規定は、 法律に特別の定めがある場合を除く外、 特別職に属する地方公務員には適用しない。」 として非常勤講師 (法律によれば 「特別職非常勤職員」) は地方公務員法の埒外であることが明記されている。 3 条 3 号 3 項の規定は 「臨時又は非常勤の顧問、 参与、 調査員、 嘱託員及びこれらの者に準ずる職」 とされ、 教育職としての非常勤職員を想定していない。 つまり、 非常勤講師は地方公務員法の適用を受けない想定外の地方公務員となるわけである。 よって、 非常勤講師は労働組合法や労働基準法の適用を受けることになり、 争議権があり労働組合を組織できる。 また、 就業規則で労働条件を定めることとなり、 それに相当するのが神奈川では 「神奈川県教育委員会非常勤職員の雇用等に関する取扱要綱」 となっている。
しかし、 非常勤職員はあくまでも公務員であるから、 短時間労働者に対して、 通常の労働者との均衡のとれた待遇の確保や通常の労働者への転換の推進を図るとして、 2008年 4 月に施行された 「改正パート労働法」 の対象とはならない。 地方公務員法は公務を正規職員が行い、 一時的な仕事には非常勤職員を雇用することを想定して制定されたため、 教育職に限らず自治体の非正規職員の実態とはかけ離れたものとなってしまったのである。
【注】
神奈川県が県立高校の非常勤講師に配布する 「非常勤講師 (時間講師) の皆さんへ」
の中には次のような記載がある。 「皆さんは、 一般職の地方公務員に適用される地方公務員法の適用を受けない特別職の地方公務員です。」
しかし、 県立高校の非常勤講師と部活動嘱託員を除く非常勤職員に配布する 「非常勤職員の皆さんへ」
には、 神奈川県の職員は知事・副知事などの特別職の職員の他正規職員・臨時的任用職員・非常勤職員は、
「一般職として区分されます。」 と記載され、 地方公務員法の規定を適用するとしている。
地方自治体に任用される臨時・非常勤職員の任用根拠法は、 上記地方公務員法
3 条 3 項 3 号以外に同法22条22項あるいは 5 項、 同法17条があり、 後者二つの職区分は特別職ではなく一般職である。
- 非常勤講師の現在
このように矛盾を抱えた職種であるからこそ労組も組織化の対象としてきた。 神奈川県高等学校教職員組合の例を見てみよう。 (以下、 連合 「パート、 契約労働者組織化事例」 より)
組織化の経過 |
1970年代
臨時任用講師、 非常勤講師も生徒からみると同じ教師であるにもかかわらず、
机やロツカーが支給されていなかった。 また、 時間給、 1 年契約であるにもかかわらず、
8 月の賃金は支給されていなかった。
1975年
組合有志・非常勤講師が 「神奈川・非常勤職員の差別待遇改善をすすめる会」
結成。
1992年〜
運動方針で組織化を決定。 非常勤講師専門委員会を設置し、 分会ごとに対象者に組合加入要請をした。
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交渉の成果 |
1974年
1973年非常勤講師の 8 月分の給与がカットされたのを受けて、神高教組合員有志が
「[1] 非常勤講師への一時金要求、 [2] 非常勤講師の勤務実態調査」 を県および組合執行部へ要求。
1976年
県交渉において [1] 現任者優先の原則、 [2] 他校斡旋の原則を確認する。
1978年
雇用の通年化実現。 8 月賃金支給が実施される。
1981年
非常勤講師待ち時間12時間制限緩和を確認。
1982年
非常勤講師も生理休暇適用 ( 2 日) 産休も適用 (無給)。
1988年
非常勤講師に年休制度適用 (勤務 1 年後より)。
1990年
非常勤講師の教職員健康診断受診が制度化。
1993年
非常勤講師の年休資格は継続勤務 6 カ月後に短縮。
1994年
非常勤講師の年休資格は継続勤務 3 カ月後に短縮。
1998年
非常勤登録制一部実現。 |
このような経過を経て現在の勤務条件がある。 それを簡単に紹介する。 (神奈川県高等学校教職員組合HPより)
- 非常勤講師の方に対しては年度当初に 「任用書」 とともに、 「任用条件通知書」 「時間講師の休暇一覧」 「非常勤講師の皆さんへ」 が配布されることとなっている。
- 通勤手当相当額の支給。
- 週当り授業時数 1 時間の場合の報酬月額は13,100円。
- 一時金・退職手当は支給されない。
- 原則として 2 週間以上 1 年以内だが、 初任者研修への対応の場合や療休者等の代替の場合には、
長期休業期間中は任用されない。
- 授業時間数は原則週14時間を超える事は出来ないが、 2 以上の学校、 2 以上の課程に勤務する時は、
週18時間を限度とする。 また、 「やむを得ぬ事情」 と教職員課長が認めた時は
1 校で、 週16時間を限度として勤務できる。
- 勤務時間は学校での時間割 (授業のあるなしに関わらず) にそって授業時間帯に勤務することが原則。
また、 一定の事由によって勤務時間の割り振りを行うことがきる。
- 年休は採用 3 ケ月経過後から付与。 週あたり勤務日数に応じて計算され、 付与単位は、
1 日。 (時間単位では取得できない)
- 年休以外の有給休暇としては、 公務、 通勤上の傷病での療養休暇と、 1 生理周期で
2 日以内の生理休暇以外は認められていない。
- 公務上、 または通勤途上の災害については、 労働者災害補償保健法が適用される。
- 医療保険、 年金は共済組合には加入できない。 国民健康保険や国民年金への加入となる。
- 職場内の健康診断の対象者となるが、 検査項目には制限がある。
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様々な労働条件が常勤職員より切り下げられていることが分かる。 そして、 前述したように、 非常勤講師は地方公務員法の適用を受けないため、 忌引き慶弔休暇などは一切認められていない。 また、 上記Dにあるように、 非常勤講師の配置事由によっては長期休業中の雇い止めがあることも問題だ (上記傍線部)。 もちろん、 かつては 8 月の賃金は全員に支給されていなかった事からすれば前進はしているのだが。 さて、 「ILO・ユネスコ 教員の地位に関する勧告」 (1966年 9 月21日〜10月 5 日 ユネスコにおける特別政府間会議) は 「非常勤の勤務」 について次のように述べている。
59 当局と学校は、 必要な場合には、 何らかの理由から常勤で勤務することのできない有資格教員による非常勤の勤務の価値を認識しなければならない。
60 正規に非常勤制で雇用される教員は、
(a) 常勤制で雇用される教員と比率的に同一報酬を受け、 同一の基本的雇用条件を享受すべきであり、
(b) 有給休日、 疾病休暇、 母性休暇について、 常勤制で雇用される教員と同一の適格条件を前提として、
同等の権利を与えられるべきであり、
(c) 雇用主の年金制度の適用を含めて、 十分かつ適切な社会保障保護を受ける権利を与えられるべきである。
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愛知県高等学校教職員組合HPより転載
http://www.aikoukyo.com/seinenbu/siryou/kankoku1966.htm
上記勧告は文部科学省のHP 「 教育に関する主な国際条約・宣言・勧告等」 にも抄録されている。 抄録であるため、 この59と60の部分を含めて何カ所かが削除されている。 それにしても、 既に半世紀近く前から非常勤と常勤の区別無く同一条件で教員は雇用されるべきことが勧告されていたわけである。 これまでに非常勤講師の労働条件について何らかの前進はあったとしても、 地方公務員法で一般職と特別職に明確に分けられている以上、 非常勤講師がその 「勤務の価値を認識」 され、 「同一の基本的雇用条件」 の下で働いているとは言い難いのである。
【注】 外国語指導助手 (ALT) は特別職の非常勤職員であるが、 慶弔休暇等はある。 また、 研修についての取り扱い規定も存在する。 ただし、 時間講師とは違い一週間について33時間の勤務となっている。
- 非常勤講師の声
このような待遇で勤務している非常勤講師の方達から不満の声があがっている。 例えば次のようなものである。
正規雇用の教員と同じように授業を担当していても、 歴然とした賃金と待遇の格差がある。 報酬として支払われるのは授業コマ数の時間給だけである。 生徒たちの提出物のチェックや添削授業、 テストの採点から成績表作成まで、 必要な労働時間が賃金に換算されない。 (08.8.19 朝日 私の視点) |
小学校で代替の非常勤講師を 2 ヶ月ほど務めました。 1 日の報酬は時給で 6 時間分。 しかし、 午前 8 時15分に始業すると、 6 時間では 5 時間目の途中です。 担任を持ち、 5 時間目終了後、 下校させると午後 3 時になります。 採点をしたり翌日の準備をしたりすると、 学校を出られるのはさらに遅くなります。 前々から何とかしたいと思っていますが、 非常勤講師は教育委員会に各自登録する 「一匹おおかみ」 なので、 声を集約することができません。 (08.8.8 朝日 職場のホンネ) |
【注】 上記二つめは小学校の非常勤講師の方の声であるが、 神奈川の場合、 小中の非常勤講師は週当たりの勤務時間が決められており、 その中で限度となる週当たり授業数が定められている。 「時給で 6 時間」 とはそのような勤務条件を指していると想像される。
上記引用は神奈川の高等学校についてのものではないが、 概ね一般的な意見であろう。 当研究所でも神奈川の非常勤講師の方からお話をうかがう機会があった。 それによると、 職場で様々な問題があっても相談相手がなかなか見つからない等、 辛い状況を経験している方達が多いとのことである。 また、 かつて確認された 「現任者優先の原則」・「他校斡旋の原則」 が管理職にあまり意識されないケースもあった。 そのため、 非常勤講師の集まりでは必ず雇用についての相談があるという。 中には一方的な雇い止めについての相談もあったとのことだ。 このあたりについては、 今後、 組合の課題として是非議論をしてほしいところである。
しかし、 上記引用の中で非常勤講師の方達が訴えているサービス残業の件は、 正規雇用の教員の中にも存在する。 多忙化した現場ではサービス残業が常態化しており、 非正規雇用の問題は正規雇用の問題でもあることがうかがい知れる。 また気になることもある。 非正規雇用と正規雇の対立という構図だ。 対立は不毛だし共倒れとなる。 まずは、 弱い立場にある非正規雇用の方達の声に正規雇用が耳を傾け、 共に労働者として事態の打開のために努力を継続したい。
次の記事は非常勤職員がワーキングプア化している場合もあることを伝えている。 もし、 教師が希望を失えば、 それは生徒にも伝わるだろう。 未来に対する不安を身近な大人である教師から学ぶとしたら、 それは生徒にとってあまりにも不幸なことである。
さいたま市の市立小学校に 4 月から非常勤で勤めるベテラン臨時教員が今夏、 「低賃金で生活できない」 と生活保護を受給しました。 時間給1,210円で、 月収はわずか10万7000円。 国の安上がりの教育政策のもとで、 低賃金にあえぐ非常勤教員が急増しています。
(05.12.22 「しんぶん赤旗」 酒井慎太郎) |
非常勤講師の方の中には正規雇用を目指して採用試験を受験し続けている方が多い。
受験に失敗すればまた非常勤講師を続けて次の機会を待つといった暮らしが続く。
次の新聞記事はそのような実態を伝えている。 神奈川でも同様の状況があるのではなかろうか。
「この七年で受け取った辞令は十四枚」
非正規教職員の交流インターネットサークル 「T−pal」 の主宰者で、 愛知県の私立専修学校と公立夜間定時制高校を掛け持ち勤務する社会科非常勤講師、 高橋祐介さん (29) は採用試験を受けながら勤務校を転々としてきた。 挑戦九度目の今年も不合格だった。
(どうなる学校 教員採用事情 (中) 使い捨て 非正規教員 08.8.19 東京新聞 Web版) |
正規雇用の教員には手厚い行政研修が準備されている。 しかし、 非正規雇用には無い。 それでも、教壇に立ち続け採用を待つ。 教職経験のある方が何らかの事情で非常勤講師になる場合は別として、 大学卒業後、 すぐに非常勤講師になる方もいるとすれば、 職務の一環として研修を受ける制度があって良いのではなかろうか。 教師の質が議論され、 研修が増加している昨今の状況に、 この現状は矛盾すると思えるのだが。
もちろん、 非正規雇用の方のほとんどは、 研修を受けなくても日々の仕事をしっかりこなしている。 自らの力で研修を積み、 自己研鑽を怠らない結果であると思う。 多分、 ここに教職が本来必要とする研修のあり様があるとしたら、 なんとも皮肉な事である。
【注】 非常勤講師の長期休業中の職専免研修は2006年度から廃止となった。 それまでは、 休業期間中に勤務を要する総時間の 1 / 2 以内で教特法20条 2 項による研修が認められていた。
- 増加する非常勤講師
これまでに紹介してきたような過酷な条件であっても、 非常勤講師の割合は確実に増加している。 次の表は神奈川の県立高校における非常勤講師の人数の割合の推移である。 持ち時間には差があるが、 実数としてはかなりの人数である。 5 人に 1 人は非常勤講師といった状況である。
山口正氏 (臨時教職員制度の改善を求める全国連絡会会長・愛知教育大学) が文科省 「学校基本調査」 をもとに試算した数値によると、 2007年度、 公立学校 (小・中・高・特) の講師数は教員総数約97万人に対して 講師数10万9785人 (11.3%) であるという。 ただし、 自治体によっては臨時的任用職員を常勤講師と呼ぶ場合があるので、 その数が含まれている可能性もある。
比率で比較した場合、 本県の高等学校が17%となるのは、 自治体にかかわらず高等学校の教育課程によるものであろう。 高等学校は、 選択科目や少人数クラス、 専任教諭の配置に満たない時間数の教科など非常勤講師を必要とする場合が多い。
【注】 表は 「平成20年度神奈川県学校基本調査結果報告統計表」 より作成した。
http://www.pref.kanagawa.jp/tokei/tokei/206/g20kak/list.html
- 免許更新・特別非常勤講師
09年度から教員免許の更新が開始される。 様々な問題が指摘されているが、 その中に非常勤講師にかかわる事がある。 文科省に対して学校関係者から非常勤講師について何らかの例外措置ができないかという要望が寄せられているという。 4 で述べたように、 非常勤講師にに対するニーズは高まっており、 日頃から、 教育委員会や学校法人が非常勤講師の確保に苦労しているのがその理由である。 それに対する回答は、 免許更新制度は一律適用なので非常勤講師を例外とはできないし、 非常勤講師の確保は次のような理由から問題は無いというものであった。
十年ごとの更新なので 「平成21年 3 月31日までに免許状を授与された方については、 生年月日を元に割り振られた修了確認期限まで、 今まで通り教壇に立つことができ」 るのであり、 「昭和29年度以前の生年月日の方、 つまり、 昭和30年 4 月 1 日までに生まれた方については、 そもそも修了確認期限が割り振られていませんので、 更新講習を受けなくとも終身教壇に立つことができます。」 (初中教育ニュース第101号 08年10月27日) といった理由で確保に問題が生じないそうである。 しかし、 終身有効の場合を除いて、 非常勤講師の職から離れていて、 新たに現職参入する際は、 講習の受講・修了が必要なるのだから問題が生じないとは思えない。 加えて心理的・経済的 (受講料)・時間的 (30時間の講座) なハードルも高くなり、 希望者の減少につながるのではなかろうか。 また、 確保の取り組みとして 「非常勤や臨時の講師として採用する可能性のある方をリストアップして受講ができるようにしておくこと」 を教育委員会などに促していると同ニュースは伝えているが、 あまり効果的とは思えない。 神奈川ではすでに登録制を実施しているが、 やはり確保の苦労は大変なものであり、 最後は学校現場が自力で非常勤講師を探す事になるのが日常茶飯事である。 あらかじめリストアップできるのであれば現在の苦労も無いだろう。
それにしても、 今回のレポートのテーマでは無いが、 教員免許は生年月日によって終身有効と期限付きに分かれることとなった。 生まれた日が一日違うだけで終身有効と期限付きに区別される制度とはいったい何なのだろうか。 分ける根拠があるとも思えない。
だが、 実は免許を必要としない非常勤講師が存在する。 それが特別非常勤講師の制度である。 神奈川の例ではないが、 「教員免許がないのに1年間の中学の非常勤講師として契約するのは問題」 という国政モニターの質問 (02.11) に対して文部科学省は次のように回答している。 この制度は 「教員免許状を有していない優れた知識や技術を有する社会人等を学校現場に招致することを目的とした制度」 であり、 「英会話等の教科の領域の一部等に限って、 免許状を有しない者を非常勤講師として充てることができ」、 「学校教育活動の中核をなす、 従来の教員との連携・協力と相まって、 大きな効果を発揮しています。」 ということである。 先の終身有効の件を含めて、 現行の教員制度を質的に変換するものと言えよう。 特別非常勤講師の制度導入時は許可制であったが、 現在は届け出制となり、 1989年度には全国の公立高等学校で109名であったものが2004年度には5421名に増加した。 (文部科学省の集計による) 神奈川では専門教科 「情報」 や福祉コースなどに事例があるようだ。
- 情報管理
非常勤講師の勤務時間は基本的には授業に限定される。 時間割の都合で空き時間が入る場合もあるが、 それはなるべく避ける方向で時間割を組むのが通例である。 こうした勤務の状況から、 高校教育職の非常勤講師に限って 「時間講師」 と呼称するのかもしれない。 まるで、 この時間の全ての業務を委託された請負業務のようである。 (このあたりが、 前回報告したALT業務委託問題において、 業務委託会社が学校に入り込みやすい土壌なのかもしれない。) しかし、 情報管理の視点からするとここには大きな問題がある。 現在、 神奈川では学校が保管する電子情報をその内容に従って重要度に分類しており、 最も厳重に管理をしなければならない重要度Tに相当する情報は、 原則校外に持ち出すことができない。 成績関係は全て重要度Tになる。 重要度Tの情報については保管場所なども教育委員会によって定められている。
そうだとすれば、 校内で成績処理などの個人情報を扱う時間を制度的に非常勤講師に保証する必要があるのではなかろうか。 学校の情報化のスピードは速い。 校務を授業に限定して給与を設定することには情報管理の視点からは無理が多いのである。 事実、 神戸市では2008年に講師の自宅パソコンから、 ファイル交換ソフト 「Winny」 を介してインターネット上に成績情報や進路情報が流出した事故が発生している。 また、 契約・雇用形態が多様化する民間企業での情報漏洩の件数は多い。 これからは学校も例外ではないだろう。 授業にのみ限定された勤務体系では成績など個人情報を自宅で処理しなければならないのは必然であり、 情報流出の危険は増大する。 「時間講師」 とは情報化時代にそぐわない勤務形態なのかもしれない。
おわりに
非常勤講師は職場にとって不可欠である。 問題なのは非正規雇用としての不安定な待遇である。 これは教育現場に限らず全労働者の問題であり、 早急に改善しなければならない。 非常勤講師の方が、 1 校上限の14時間授業を受け持ったとしても月額184,400円の報酬である。 さらに、 そこには準備や成績処理などの時間も必要だし、 最も深刻なのは次年度にその授業時間の保証がないということだ。
本稿で紹介したように、 非常勤講師は公務員でありながら地方公務員法の適用を受けない。 また、 公務員であるので改正パート労働法の適用も受けることができない。 さらに、 小中と高校では勤務形態と待遇に差がある。 この矛盾は早期に解決しなければならないだろう。 そして、 中長期的には 「ILO・ユネスコ 教員の地位に関する勧告」 にあるような非常勤講師のあり方を実現しなければならない。 雇用の形態ではなくて、 多様な働き方を許容する仕組みがほしい。 教育現場にも、 フルタイムの雇用とともに、 雇用の維持と時短を組み合わせたワークシェアリングが必要な時代になったのだと考える。
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