特 集
第14回 教育研究所シンポジウム 2005
15の春 は泣いている〜入試状況異状あり〜
■日 時:2005年12月17日(土) 14:00〜16:30
■会 場:横浜情報文化センター6F情文ホール
シ ン ポ ジ ス ト 島 根 三枝子 代々木高等学院相談室長
宮 下 宗 秋 海老名市立有馬中学校教諭
手 島   純 県立栗原高校教諭
コーディネーター 金 沢 信 之 県立元石川高校教諭
独自調査 「定時制高校から見えるもの」
金 沢:まず今日のシンポジウムの流れを確認しておきます。 私から教育研究所の調査結果について紹介し、 神奈川県の高校入試の仕組みの概要を簡単に説明します。 続いてシンポジストの方々から発言していただきます。 その後、 シンポジスト相互に意見の交換をしていただき、 あわせて会場の皆さんから質問・意見を出していただきます。 それを受けて私のほうでまとめをさせていただき、 論点整理をした上で、 再度シンポジストの皆さんから発言をいただきたいと考えています。
 教育研究所が定時制について研究しようとした理由から申し上げます。 お手元の資料 『ねざす』 第36号の特集 2 「定時制高校から見えるもの」 の内容を話すことで私たちの問題意識を説明します。 私たちが定時制について考えてみる必要があると思い始めたのは2002年のことです。 横浜市では定時制の統廃合が行われて、 いわゆる三部制の高校へ再編されていった。 神奈川県の前期再編移行期が始まる時期でした。 10月末には中学生の進路希望調査があり、 その結果がそれまで見たこともない数字になった。 どれほど生徒が多い年でも、 定時制希望は300人程度で推移してきたのが、 この年は 600人を超えました。 単年度の現象かと思っていたのですが、 翌年は少し減りましたが、 すぐ増加の流れに入り、 生徒総数は減るのに、 定時制希望は急激に上がっていくという状態となりました。 昨年10月には800人を超える生徒が定時制への希望を出すという状況でしたが、 これを見て私たちは 「これは何か異常だ」 と感じました。 そして定時制を巡る問題の裏側には、 高校再編の課題があり、 高校再編は日本全体で起きている問題でもあって、 構造改革であるとか、 新自由主義であるとか、 弱者の切り捨てと密接に関連しているという問題意識を持つようになりました。
 その問題意識の上に立って、 とにかく現状を把握しようとして調査を開始しました。 調査の手法は、 全日制に進学しなかった中学卒業生に関して中学校の進路担当者に対する一斉アンケート調査であり、 そのアンケート結果に基づいて今回の報告書を書き上げています。 また、 定時制が多くの生徒を抱えて、 これまでにない大きな問題点や困難を抱えていることが聞こえてきたので、 定時制がどのように変わってきたのかも調査する必要があると考え、 現在定時制に勤務する教員へのインタビューを行いましたが、 その調査結果も 『ねざす』 に掲載されています。

なぜ増える定時制高校進学希望
金 沢:本日配付した資料には新しいデータも差し込みました。 今年度の中学生 3 年生に対する進路希望調査の県教委作成の記者発表用資料からとったものです。 その 2 枚目にある 「高等学校等進学希望状況」 を見ると、 問題がますますひどくなっていることが分かります。 表 2 には今年10月に中学 3 年生の希望をとった数値が出ていますが、 先ほど触れたように昨年度の定時制希望者数は812人でした。 通常なら300〜400人で推移してきたものだが、 これが今年の10月の調査では983人まで希望が増えています。 これははるかに予想を超えています。 県教委が記者発表したところでは、 「さまざまな定時制の仕組みができたので希望者が増えたのだろう」 とのコメントが紙面に載っていますが、 私たちにはそのように思えませんでした。
 その資料に 「課程別進学希望の推移」 が載っていますが、 ここでは全日制希望状況の比率が下がっている。 県教委の施策意図としては 「金をかけて高校再編を行い魅力ある全日制をつくったのだから当然増えてしかるべきだ」 となるべきなのに、 全日制が減り、 定時制が増えているのです。 最後のページには通信制と盲ろう養護学校の希望状況も載っている。 ここでも緩やかだが増加傾向が見られます。 こうしたところを見ていくと、 私たちが考えていた以上に速い速度で何か大きな変化が起きていると考えることができます。
次に、 そういう状況を生み出している神奈川の入試の仕組みについて確認をしておきたいと思います。 まず、 全国津々浦々で起きている攻撃というか、 改革というか、 神奈川にも起きていて、 今年は学区が撤廃された中で入試が行われました。 この学区撤廃は元々政府の中にある規制緩和策に端を発しています。 規制障壁として学区がやり玉に挙がって撤廃へ進んでいくということで、 教育問題ではなく経済問題として取り上げられた側面を持っています。 背景に市場とか新自由主義とかが見え隠れしている。 文部科学省の言い分では、 学区は地方分権の課題で、 地方自治体に権限委譲したというのだが、 現実は学区を規定する法律がなくなったから学区撤廃だと短絡することになりました。
 入試の仕組みもここ数年で大きく変わりました。 前の入試もア・テストをなくすという大きな改革を軸に複数志望制と総合的選考を中心としたものに変わったのですが、 これが今回また大きく変わったわけです。 前期選抜・後期選抜という形になり、 2度受検できる仕組みとなった。 いわば多段階選抜の色彩が濃厚になったわけです。 定時制について言えば、 前期も後期も全定同時日程の選抜になったのが大きいと思います。 全定同日程となることは、 あながち否定できない面もあるのですが、 大前提となる枠組み=募集人数をまったく変えずに同一日程の選抜となったために、 定時制が全日制の格差構造の中に組み込まれる結果を生み出した。 その結果、 公立高校希望の生徒の中に定時制を希望する生徒が急増することとなったのです。 ただ、 前期選抜・後期選抜の後に2次募集がありますが、 これは全定が別の日程で行われることになりました。 したがって可能性という点から見れば、 定時制の 2 次募集を受検する生徒は、 全日制前期・全日制後期・全日制 2 次募集のすべてに落ちて受検する流れが定着したと言えます。
 さらに悲惨なことに、 公立高校を希望する生徒すべてに対して枠組みを保証できなかったので、 定時制が 4 月になってから 3 次募集をしたのは記憶に新しいのではないでしょうか。 2 次募集でも行き先が見つからない生徒がいたということです。 今年の入試について見ても同じようなことになると予想される学校がありましたが、 2 次募集を受けた生徒の大多数を合格させてしまうことで収拾しました。 その結果予想もしなかった数の新入生を抱える定時制が出現したのです。 このためこれまで定時制が持っていた独自の雰囲気、 定時制のよき部分が失われてしまった可能性があります。 以上の状況をふまえながら 3 人の方の発言をお願いします。

私立のカラ枠解消が先決問題
宮 下:金沢さんのほうから中学校状況も大分話していただきましたが、 高校入試に臨む中学生とそれを抱える中学校教員の両方の立場を踏まえてお話しします。 大きな入試改革があって 3 年目、 学区撤廃の 2 年目を迎えて入試準備に入っていますが、 本校では大きな問題もなくそれなりに進んでいます。 問題点が解決したという意味ではなく、 それが潜在化した中で日々対応しているということです。 現在中学校では進路相談がほぼ終わり、 希望する高校の入試準備に向きあっている状況にあります。 私の高校入試観は研究所ニュース 「ねざす」 52号に書いたとおりですが、 書かなかったところも含めてお話しします。
 中学生の進路を考えれば、 そのほとんどは進学で、 それも全日制公立が大半です。 実際、 私の勤務する有馬中学では、 今年197人が卒業を迎えますが、 今の段階で148人が全日制公立 (75.1%)、 31人が私立で (15.7%)、 定時制は 5 人、 あとは養護学校、 専修学校、 就職、 その他があります。 全日制希望は公私合わせて90.8%となり、 先ほどの10月末の集計と似ています。 実際の公私の募集枠はこれとは異なっていますから、 公立から私立へ廻らざるを得ない子どもたちが生じてきます。 しかし、 経済的な理由その他で私立には行けない生徒の受け皿として定時制志願が増えるのを実感しています。
 私立のカラ枠が2005年度入試では2,571人いたということであり、 これを解決しなければ神奈川の入試の解決はないと言い切っていいと思います。 が、 現実には公私の歴史的経過もあって簡単には手をつけることができない事情があると聞いています。 子どもたちに責任のない政治的課題であり、 私たちの手で解決を図らなければならない大きな課題だと考えています。 これが定時制に影響を与えて定時制を苦しめ、 全定の序列化を生み出しているのではないかと危惧しています。

中学3年の3学期は入試一色
宮 下:2002年度から新しく始まった入試制度の弊害について、 別の視点から実態を報告して終わりにします。 前期選抜が 1 月中旬に始まり後期選抜の終わる 3 月 1 日まで、 学校が入試一色に染まってしまうことに異議を申し立てたいということです。 教育課程が壊されていると感じています。 公立前期の出願があって、 試験があって、 合格発表がある。 続いて私立の出願、 試験、 発表、 公立後期の出願、 試験、 発表と流れていきます。 それぞれの前後には事前指導、 事後指導がありますからこの間の教育課程がすべて入試一色となる現実があります。 公立高校の試験は 5 教科ですから、 少なくとも 1 月中には 5 教科の学習指導要領の内容をすべて終了して試験に備えなければいけない現実もあります。
 この中身を見ると問題はさらに複雑です。 今年でいえば 2 月 2 日に前期の合格発表があって40%の生徒が合格します。 約半分の生徒が合格していて、 これから受検する生徒が半分いるというクラスの状況を想像してみて欲しい。 合格した生徒が素直に合格の喜びを表すことはできません。 この緊張関係が約 1 ヶ月も続くのです。 クラスの担任もそのプレッシャーで潰されそうになります。 こうして 3 月 1 日の後期発表を迎え、 3 月10日前後には卒業式となるのですから、 3 学期が本来の義務教育最後の学期として行うべき中身が落ちて、 ただ進路決定の期間になってしまっています。 大いに疑問を感じるところで、 こうしたことがもっと話題になっていくべきではないかと感じています。

中学生は地元の普通高校へ行きたい
宮 下:最後に、 新自由主義という考えの中で教育もその悪影響を受けていることを実感しています。 中学校自体も学区の自由化や全国一斉学力テストの実施など危険な状態ですが、 高校も例外ではありません。 「特色ある高校づくり」 という名前はすばらしいが、 中学の生徒は何を求めているのでしょうか。 多くは地元の全日制普通科公立高校を望んでいます。 しかし、 地元の高校が中高一貫校化すればなくなってしまうし、 特色が自分には合わないとか、 課題集中校が統廃合の結果なくなって行き場がなくなるとか、 本当にこれでいいのかと感じています。
  「15の春を泣かせるな」 ということが古くから言われてきて、 そういう趣旨で私たちが努力してきたものが壊れてきている観があります。 中学校教員、 高校教員、 父母、 県民、 すべてを巻き込んで行かないとこの大きな荒波に耐えられないのではないでしょうか。 この場で皆さんといい方向を見つけることができないか、 期待しています。

入試改革でとまどう定時制教員
手 島:私は教員になる前に 2 年間の民間経験があります。 ネクタイ締めて満員電車に揺られて、 というのがイヤで教員になったのですが、 誰も知らない神奈川で生活するのも面白いかと思いやってきました。 最初は通信制高校に赴任し、 次に定時制に、 2 年前に全日制に異動しました。 生徒は大変ですが、 職員は協力してことに当たり、 楽しくやっています。 全定通 3 課程に関して自分なりに感じたことを言います。 全日制高校は近代学校そのものです。 定時制は半分だけ近代学校、 いわば半近代学校で校則も結構緩やかでアバウトです。 通信制は脱近代学校とでもいうべき学校です。 よく定通とか言いますが、 全定があって、 それとは違う次元に通信があると思っています。
 今日は定時制の話に絞ります。 読んでほしい資料だけ別印刷にして持ってきました。 定時制教員にインタビューした資料がありますが、 ちょっと紹介します。 「今年 1 年の担任をやっている。 生徒は学校には来ているけど教室には入らない」 (中略) 「今年の 1 年生で授業をまともに受けているのは半分以下である。 外でタバコを吸ったりしている。 留年者でまともにやっているのは誰もいない。 学校には遊びに来ているとはっきり公言している者もいる」。 こういう発言が後から後から出てくるのが実情です。
 定時制の教員は 定時制は家庭的で、 コミュニケーションの取れるいいところだ と思っている人も多いですが、 こういう状況になってどう対応していいか分からなくなっています。 全日制には全日制の、 定時制には定時制の、 通信制には通信制の役割があると思います。 これらがうまくバランスをとって戦後の教育が機能してきたと思うのですが、 入試の同一日程に代表されるように、 一面化して、 定時制は限りなく全日制化していくのではないかと思っています。
 ところが定時制には全日制のようなシスティマティックな生徒指導のノウハウがそれほどあるわけではなく、 その点で今定時制はかなり大変になってきていると思います。 資料Bの中である方が話しているのですが、 「生徒指導面に課題のある生徒を受け入れてきた県立校の減が響いている。 従来から一部再編校を受検していた生徒が私学を受検することもできず、 行き場を失い定時制を志願したと思われる」。 定時制も課題集中校も、 私学に行けない経済的状況の生徒が多い。 だから全日制に行けなければ定時制や通信制のようなところを選択せざるを得ない。 裏に階層があって不平等社会が広がっていくのが見え隠れします。

定時制高校の よさ が失われていく
手 島:定時制に関しては校則もアバウトで、 制服もないです。 これまでは少人数でやってきましたが、 今は 1 クラス40人のところもあり、 留年生も全日制より多い。  定時制は夜の闇の中で授業をやるのですが、 夜の闇が逆に学校を暖かくして、 生徒はその中でお互いに助け合って生きていた側面がありました。 いろいろ問題はあったが、 どうにか定時制の役割を果たしてきたと思っています。 これが崩れているというのが今の定時制の問題です。
 自分は定時制に 9 年間いて、 とても嫌な仕事が授業の後の モク拾い でした。 定時制は校則で管理しないからタバコの指導も全日制のようにはやりません。 それゆえタバコが校舎内外に広がることになります。 そこで教員が当番を決めて拾って廻ることになるんです。 夜の校舎は寂しいものがあって、 生徒のいないシンとした校舎でタバコを拾って歩くのは結構辛いです。 火事になってはいけないからというのか、 タバコの火を唾をはいて消す生徒もいます。 この唾を掃除しながら歩くのはむなしいものです。
 また、 定時制は行事が盛り上がらないきらいがあります。 体育祭などを外でやっても真っ暗だから今ひとつです。 それでもアットホームな行事ができます。 いいところも悪いところも併せ持つ中で何とか機能してきた定時制が、 高校再編の問題や計画進学率のために定時制の機能を消滅させている現状があります。
 神奈川では生徒がたくさん入ってきて大変ですが、 地方では統廃合で定時制が切り捨てられています。 大阪では2003年に29校の定時制を13校に減らし、 新タイプの高校をつくろうとしています。 いずれも定時制は行政から見捨てられているのではないかと思います。

定時制にも課題集中校のノウハウを
手 島:定時制が今直面している困難は、 課題集中校のような生徒指導上のノウハウをあまり持っていないことです。 これは良さでもあると思うのですが、 今それが通用しなくなっていることに問題があります。 定時制の課題集中校化が行われていて、 課題集中校としてのノウハウがないので大変なのです。 1997年に神高教が出した 『学校づくり最前線―課題集中校からの教育改革』 という冊子がありますが、 そこからの一文を資料に載せたので紹介します。 「集団生活の場である学校の中で最も優先しなければならないのは、 生徒個々の身体安全を冒すような行為を未然に防ぐような体制を作り出すこと、 いったんそのような事態が起きたら学校全体で断固とした姿勢で臨むことである。 (中略) 学校が生徒からの一定の信頼を得られなくなれば、 教育活動の実効を挙げることは難しい」。
 これは読みようによっては、 少し管理的ではないかと思われるかもしれませんが、 教育困難校ではある程度の秩序を保てなくてはやっていけないことを指摘しています。 ところが定時制がこれと同じ状況になっているにもかかわらず、 定時制はその対策のノウハウを持ってこなかった。 定時制が荒れて、 結果的にどうなったかといえば、 弱い子どもやものを言えない子どもが結局どんどんやめて行かざるを得ない状況が出ているのです。
 元気な子どもたちは学校で勉強しなくても、 外でタバコを吸い、 バイクに乗り、 皆でダベり、 たまにビールを飲み、 花火を上げてと、 とりあえず居場所があります。 それができない弱い子どもたちはどんどんやめていく。 定時制中退者数は多いのですが、 その中味も注目する必要があると思います。
 定時制や課題集中校で積み上げてきたことが、 社会的にどれほどの意味を持つかについて、 東大の広田照幸さんが 『教育不信と教育依存の時代』 という本に次のように書いています。 「1970年代半ばには高校進学率が90%を超え、 青少年の犯罪は減少しました。 高校が問題を抱えたハイティーンを抱え込むことで、 彼らにひとまずの帰属と居場所とを提供し、 彼らがもっと精神的に成熟するまでの間の面倒を見る役割を果たしてきたといえます。 特に 『底辺校』 と言われる学校においてそう言えます。 学校が独りで困難な課題を抱え込むことで、 社会全体が負うはずのコストやリスクを緩和してきたと言えると思います。 マス・メディアは何かと学校不信を煽りますが、 学校での地道な取り組みについてはあまり報道してくれません。 しかし、 全体的に、 日本の学校は他の先進国に比べてうまくいってきたように思います」。
 こうした定時制、 通信制や課題集中校など、 今の日本の学校教育の底辺部を支えてきたものを崩したのが高校再編や入試改革ではないのかと、 私は残念ながらそう思うようになりました。 そうであるかないかの検証をこれからきちっとしていかなければいけないのではないかと思っています。

サポート校とはどんなところか
島 根:
私が不登校の問題をきっかけに子ども問題に関わってから長いのですが、 今はご紹介があったようにサポート校にいます。 私がそこにいるということはそれだけ問題が多いということ。 今、 手島さんがお話になったことと共通するところが多いと思っています。 サポート校ができたのは今から10数年前のことかと思いますが、 うちは現在13年目で、 300人程います。 入学してきたときは30人から40人位だったが、 これが膨れあがって、 3 年生になると100人を超えていく状況があります。
 一口にサポート校といってもいろいろな形があり、 マンションの一室を借りて塾のように、 通信のレポート、 スクーリング、 試験をサポートしている人もいます。 私たちのところは月曜日から金曜日まで生徒が通ってくる全日制の形です。 今はまたいろいろな形ができてきて、 経済的な問題だと思うのですが、 週 3 日でやっているところも増えています。 これだと安くなります。
 今のお話の学校と私どもの学校と一番違うところは、 私たちの学校が株式会社だということ。 株式会社は学校法人ではないから生徒は高校卒の資格は取れない。 従ってダブルスクールということで通信制と連携することになるのです。
 ところが特区制度が出てきたために、 その制度を利用して自分のところで通信制を立ち上げるところが出てきました。 私たちのところもこの 4 月から通信制の代々木高校を立ち上げ、 生徒は代々木高校と代々木高等学院の両方に入学する形をとっています。 収入源は学費しかないので、 私立高校より少し高い金額をとることとなっています。
 このところちょっと変わったこととして、 夏休みに中学生が 5 、 6 人のグループで学校訪問に来るようになりました。 地方からは修学旅行の一環でサポート校見学としてやってくることもあります。 そういう人にしてみればうちの学校は画期的に映る。 何しろ制服や校則はないから、 茶髪やピアスなどは当たり前です。 いろいろな生徒がおり、 いろいろな状況がある。 先ほどの定時制のお話と同じ状況にあるのに驚きましたが、 これから先が少し違う。 私たちは株式会社だから、 教育にサービスが必要です。 精神的なケアをわれわれは要求されます。 その辺りのノウハウはたくさんあります。

相談室から見た生徒たち

島 根:私は今相談室の担当をしていますが、 うちのスタッフは少しはうまく対応できていると思います。 生徒の家庭環境も非常に複雑化していて、 何ともならないところを相談しながらやっています。 今日も中3の試験や転編入の試験をやっていますが、 入ってくる生徒の多くは不登校です。 この頃は中学校からの不登校が主ですが、 LD、 ADHD、 アスペルガーなどのレッテルを貼られてしまった生徒もおります。
 入学に関しては、 保護者が入れたいと思っても本人が入りたいという気持ちがなければ無理なので、 入りたいという気持ちになるまで相談を続け、 その気になったときに試験を行っています。 試験は学力を見るものは一切やっていません。 「夢」 という題で作文を書いてもらいます。 自分がこれから何をしたいのか、 原稿用紙に 2 枚も 3 枚も書いてくる生徒がいます。 「今は書けない」 と書いてくる生徒もいます。 後は面接、 入試に至るまでに面接が繰り返されることもありますが、 必ず学校の雰囲気を見てもらっています。 雰囲気が自分に合っているかどうか、 確認してから入ってもらうことにしています。 6 月ぐらいまでは新入生として受け入れています。 高校に入って 1 日、 2 日ですぐ辞めて私たちのところへ来る生徒も多くなりました。
 精神的に複雑な状況で入ってくるので、 入るとすぐ 2 泊 3 日のオリエンテーションに連れて行きます。 不登校でも、 閉じこもりでも誘って連れて行く。 2 日も経つと今までの学校でどういうことがあったのか、 話をしてくれます。 いじめがきっかけとなった生徒や教師に目をつけられた生徒もあり、 友人関係でトラブったという生徒が一番多いです。
 受け入れは365日。 3 年生でも12月までなら卒業できます。 単位の取得状況にもよるので話し合うことになります。 他に保護観察中という生徒もいます。 今年の15歳は大変で、 入ってきた途端につかまってしまう生徒が何人かいました。 入学前に何かあったということです。 調査官と話し合うこともありますし、 鑑別所へ出向いてそこからケアが始まる状況もあります。
 学力の問題ですが、 そういう状況ですから、 ピンからキリ。 2 年生の半ばから入ってくる生徒や 3 年生で後ちょっとという生徒は、 精神的なダメージを受けている場合がありますが、 学力はそれなりで、 サポートしながら大学受験も可能でスタッフも頑張っています。 厳しい校則や友達関係で躓いてそこで引っ込んで転校してくるケースでは、 友達関係の修復についてもサポートしながらやっている状況です。 今一番多いのは、 女子校でトラブってうちへ来る生徒、 体のいい自主退学ということで来る生徒も多い。 地域的には東京も多いですが、 神奈川では川崎や都筑区、 1 時間半位までは通学圏内で、 それ以上になると寮と提携しているので寮生活をしていただくことにしています。

生徒はどんなふうに学んでいるか

島 根:通信制を取り入れているが毎日授業をやっているので、 出席日数は簡単にクリアできる。 レポートという形をほとんどとっていないので、 授業に出る、 学校で生活する、 ということで全部置き換えられています。 レポートをすべてクリアしてというNHK方式はサポート校では少なくなっているように思われます。
 試験という形を私たちもとっていますが、 学習のまとめという独自のものをやっています。 自己評価方式です。 自分はこの教科に対してどれほど取り組めたか、 それに対して各担任がコメントして親御さんに返す形をとっています。 在籍300人弱ですがここのところ退学者はほとんど出ていません。 途中からの転入者も含めてほとんど 3 年で卒業していく。 サポート校からの生徒の学力は低いという評価なので、 学力は今私たちの課題となっています。
 受験してくる生徒を見て思うことは、 中学 3 年の 4 月に高校をどうしようかと真剣に考えている姿です。 自分に合う高校はどこなのか。 サポート校をあえて選ぶ生徒が増えてきています。 中学校の延長はイヤだ、 同じことの繰り返しはイヤだ、 という子どもが増えてきています。
 私たちのところではエンタテイメント科という、 演技やバンドやダンスや芝居をすることを授業の中のコースとしてとり入れています。 そういうことを目指してくる生徒もたくさんいます。 何かやりたいものがあると入ってくる生徒は学校を利用できていると思います。 難しいのはそこが見えていない子どもたちや基礎学力が不足して、 かけ算ができない、 分数ができない、 日本語が書けない子どもたちには、 その抵抗を取り除いていくことが私たちのこれからの課題になっていくような気がします。

中学卒業後の子どもたちの居場所として…
金 沢:3 人のそれぞれの場所からの発言をいただきました。 われわれの全日制以外に進学した生徒の調査でもサポート校進学がかなりの数に上っている。 この後はこれまでの 3 人の話を踏まえて、 シンポジスト相互の意見交換をお願いします。 中学校を卒業して高校やその他に進む子どもたちの居場所として、 どういうことが望ましいのかという点に焦点を当てて、 意見交換をしていただけないでしょうか。

手 島:自分がいた定時制でもその傾向がありましたが、 学校には来るが授業はまったく受けない生徒がいました。 バイクで来て校舎の間を乗り回して、 ダベって、 帰って行く。 そういう状況がどんどん広がっていくような気がしました。 勉強は嫌いだが高卒の資格は欲しいとはっきり言う生徒が定時制にいました。 また、 家庭的な問題を抱えている生徒が多いので、 保護者との関係がつくれてないことが多いです。 夜、 家に帰っても誰もいないので、 学校にいたほうがいいという生徒がいました。 教育困難校でも同じような事情の生徒がいます。
 こういう背景があって、 学校の居場所の内容が不幸な形になっていると思います。 定時制や全日制では授業に出ないと進級・卒業できないので、 そのことを教員は言っていくことになります。 通信制では学習指導要領に決められた時間数は、 たとえば社会科の 1 単位であれば年間 1 時間でいい。 4 単位なら 4 時間。 授業形態に柔軟性があるので、 通信制では居場所機能がうまく発揮できています。 定時制や全日制ではそれが制度として認められません。 先ほどのサポート校で進級卒業までうまく持って行けるのはシステムの問題かと思います。
 島根さんに質問ですが、 島根さんには公立の通信制はどのように映っているのでしょうか。 公立の通信制は卒業率が30%などと低い。 本来は島根さんの言ったようなことが、 公立の通信制でできればいいし、 やればできるのではないかと思います。 公立でできないから、 サポート校に流れていくのだと思われます。

島 根:学校が学力を高めるところだという前提に立てば、 うちのような通信制の学校は疑問があるかもしれない。 同じ通信教育で厳しいNHK学園でやってこられなかった子どもたちがうちへ来ます。 レポートがあってきちんとしているからついて行かれなかったのでしょう。 厳密にそれを追求したら子どもたちの居場所がなくなってしまいます。
 うちでは、 登校と授業出席とを別につけています。 職員は先生といわずにスタッフというのですが、 スタッフは名前やあだ名で呼ばれています。 先生のいるところはスタッフルームと呼ばれますが、 そこは出入り自由です。
 今年の 1 年生は大変で、 教師や勉強に抵抗がある。 これまで授業に出ないのは教室が人でいっぱいで中に入れないケースが主でしたが、 今は勉強をしたくないからスタッフルームにいるのが多い。 少数だが、 スタッフルームで個別に勉強する子どもが出てきました。 空き時間の先生が相手をしていて、 それがうちの学校のサービスということですが、 それで学校に居場所が確保されるということでもあります。

社会の縮図でいろいろな生徒がいてよい

金 沢:中学校から見て、 この年代の子どもたちが望む居場所はどこだと思いますか。

宮 下:島根さんのお話を聞いて、 一瞬どきっとするところがあります。 学校や先生に対する拒絶感に胸が痛むのですが、 義務教育の小中学校はあらゆる生徒を受け入れているところです。 あらゆる生徒で学校や授業や行事が成り立っています。 うちの学校では行事を大切にということから、 体育祭や合唱祭を行っています。
 その中でリーダーシップを取る子がいますが、 リーダーシップを取る子どもだけでは成り立たない。 フォロアーというが、 その子たちを支える子どもたちがいることでリーダーが生き、 「オレはあの子たちとともに行事を成功させた」 という体験を持って卒業していく。 これはとても大事な考え方ではないでしょうか。
 今、 高校が序列化している中で、 底辺校や定時制においてそういう仕組みが壊れている現象が現れているのではないでしょうか。 エリートはエリートだけという風潮が社会で幅をきかし、 学校も能力別を取り入れようとしています。 能力別の授業は下の子どもたちにとっては特によくない結果が出ているにもかかわらず、 それを推し進めようとする世の中が高校にも現れているのではないでしょうか。
 私たちの組合でも、 あらゆる生徒がいる中で子どもたちが育つ、 これが社会であり、 社会の縮図だと捉えています。 それが、 今、 一部の人たちだけが引っ張ればいい、 下の人たちは黙って従えばいい、 という社会にしていこうという流れと比例しているような気がしています。 そこを解き放っていかなければ、 課題集中校や定時制の課題は解決しないのではないかと思います。

島 根::今言われたことはうちの学校でも成立しています。 学力のある子どももそうでない子どもも障害を持っている子どももいます。 目の見えない子ども、 耳の聞こえない子どももいて社会の縮図になっています。
 うちの学校で一番問題にしているのは子どもたちが動かないということ。 全日制の高校と同じような行事もあり、 学院祭も行っていますが、 かつてリーダーシップを発揮してきてこけた子どもも来ています。 その辺りの絡みがとても難しい。
 今年の学院祭では子どもたちが立ち上がるのを待ち、 教師は手を差し伸べようとしました。 時間がかかるし、 知らないし、 どうしていいか分からないという様子でした。 それをかつてのリーダーが教えられるかというと、 そうでもないのです。 口ばかりだ 離れていってしまう という苦情が出る始末。 私たちはそのところをサポートしているつもりなのですが、 成立しにくくなっていることを感じています。

金 沢:島根さんのお話で代々木学院にも多様な生徒がいるとのことですが、 定時制の状況はどうでしょうか。

手 島:定時制も課題集中校も、 外国籍の子どもや障害を持つ子どもが多くいるのはかつてと同じです。 今、 私が勤務している学校でも多くの外国籍の生徒がいます。 両親のそろっていない生徒も多く厳しい状況です。 これがどんどん広がっているのが格差の広がっている証左だと思います。

金 沢:定時制はかつて20人ぐらいの在籍で何とかなっていたのが、 今や40人を超える生徒で立ちゆかなくなっているという話でした。 代々木ではどうでしょうか。

島 根:教員一人に25人というところです。 授業をやりながら担任をしていますが、 担当の生徒が今どういう状況かはだいたい把握しています。 アルバイトに精を出しているのか、 来たいけれど学校に来られない状態なのか。 来られない子どもに対してはメールのやりとりをしたり、 状況のよくない場合は電話をかけたり家庭訪問したりしています。

私立より公立へ、 成績で定時制へ
金 沢:ここで会場から質問・意見・感想など、 積極的な発言を求めます。
◇Aさん (中学教員):横浜市で中学校勤務。 3 年生の進路指導を担当して 3 年。 入試の状況は横浜市で特に深刻だと感じています。 うちの学校でいえば、 在籍は120人ちょっと。 今年の私立希望は昨年の半分に減りましが、 それは経済的な理由です。 お金が問題だから、 サポート校など問題外。 パンフレットの金額欄を見ただけで拒絶すします。
 定時制希望は増えています。 前期選抜で落ちたら後期は定時制に廻る生徒が数名います。 教委から全定まとめて願書が来ますが、 定時制の願書が足りない状況が続いています。 再編の絡みでこの近くに定時制の横浜総合ができました。 うちからいえば地元なので入りたいのだが、 入れない。 昨年は前期で 1 人だけ合格しましたが、 後期はゼロでした。 定時制も入れない状況。 お金のことでいうと、 私立を押さえにして公立を受けるケースが減って、 公立一本が増えました。 昔なら、 成績で当たりをつけることができましたが、 全県 1 学区ではそれもできない。 希望先を落として受けるのですが、 それも確かとはいえない厳しい状況です。 定時制を希望する子どもは単に成績の点だけで志願するので、 特別に他と変わっているわけではない。 課題集中校に入れた子どもが入れなくて定時制に廻るのです。
 定時制のことでいえば、 願書の色が全日制と違っている。 何故かを教委に聞いたら、 高校の事務で間違えないためだ、 と言われました。 最初から定時制は別扱いされている。 志願の手引きも定通は別冊子。 入試の日程は同じなのに別扱いというのは気になるところです。 事態はどんどん深刻になってきています。 前期選抜が入ったために、 調査書も願書の点検も冬休み前に済まさなければならなくなっているのが実情です

定時制高校も序列化?
◇Bさん (定時制高校教員):モク拾いのことが出たが、 私も毎週やっています。 「ほら、 そこに落ちているよ」 などと生徒に言われて、 惨めな気持ちになっている。
 先日、 大和の中学から学校訪問で生徒が 4 、 5 人来ました。 もっと近いところに学校があるはずだがと思ったのですが、 中学校の指導では、 近くの定時制は入りにくいからこちらまで来たということらしかった。 定時制も序列化が進むのかと思って驚きました。
 私も30年前定時制で教員になりましたが、 当時は、 学校へは来るけれど授業には出ないという生徒はいなかった。 今は結構多い。 小中学校で教室に座っていることのできなかった生徒が高校に来ています。 ずっと座っていることができなくて、 途中で中座しそのまま消えてしまうと、 授業は欠席扱いとなるから進級できない結果となる。 今年の 1 年生は留年者を含めて40数人ですが、 進級見込みは半分以下です。 すでに多くの退学や休学が出ています。
 高校再編で私の勤務校は、 総合学科の単位制・定時制になりますが、 相手校には定時制はないので、 単独での再編です。 駅から遠い上、 坂もあり、 夜は真っ暗になるから通学しにくいことは明らか。 総合学科はいろいろなニーズに応える仕組みだから、 それ自体は否定できないが、 本当に定時制を考えての施策であるか疑問です。

保護者にもっと問題点を知らせるべき
◇Cさん (養護学校教員) :2 年前まで21年間定時制勤務でした。 中学 3 年生に定時制希望が増えていることの裏に、 3 年で定時制を卒業できる仕組みのあることが大きいと思う。 フレキシブル高校や横浜の三部制高校が生徒にアピールしている面もある。 希望者の内訳が知りたい。
 全日制と定時制の差が縮まっている。 前の勤務校は 3:40に授業が始まって 6 時間授業を行い、 3 年で卒業するタイプでした。 3:40開始で生徒が来るかと思っていましたが、 これが来るのです。 それもしっかり勉強するので、 教員は煽られる始末。 勉強する生徒が定時制に来ることに驚いています。
 進路選択で定時制希望が増えるのは分かるが、 私学のカラ枠を守って公立全日制の定員を減らし入りにくくしておいて、 特色づくりしているというのは筋が違うのではないだろうか。 過日県教委が地区で高校説明会を開いた際質問したのだが、 県教委は何も答えられなかった。 詰まるところ財政問題ではないかと追及すると渋い顔だったが、 参加している父母は何も知らない。 私学のカラ枠のことも知らない。 教育研究所はPRに努めて問題の本質を広く訴えることが必要ではないだろうか。
 自由化と特色づくりなどの面だけ強調されて、 定時制の入試が終わってから定員増が行われるなど、 滅茶苦茶なことが横行して、 定時制の子どもも職員も不幸だと思う。

金 沢:今回の調査では、 全日制や昼間定時制へ進学した生徒の調査は行いませんでした。 確かに、 昼間定時は人気があるようですが、 今後研究所として調査する必要があると思います。 他にご意見は。

横浜市の定時制統合に疑問がある
◇Dさん (定時制高校教員):
3 年前に赴任しましたが、 この定時制の状況は 4 年前に始まっていると聞いています。 そのとき 2 クラスだった機械科を 3 クラスに増やしたところから始まり、 その後 4 年間同じ状況が続いています。
 一番の問題は横浜地区の底辺の子どもたちの行き場がなくなっていることではないでしょうか。 これが周辺に波及していっている。 定時制の工業高校にはこういう事情があります。 鶴見工業高校がなくなり、 横浜工業高校がなくなった。 いずれも神奈川工業高校の規模だが、 これがなくなって三部制の横浜総合に組み込まれた。 この募集減に伴う生徒が神奈川工業に流れてきているわけです。
 さらに県立高校の縮小に伴って、 大和・藤沢・横須賀からも受検してきます。 この子どもたちは希望ヶ丘や湘南を受けようとしたのだが、 定員がオーバーするということで自己調整して神奈川工業に来たのです。 全日制普通科に行きたかった生徒の父母は学校には文句を言うが、 県教委には何も言わない。
 県教委と横浜市教委がどういうやりとりをして 4 クラス規模の鶴見と横浜工業をいっぺんになくしたのかは知らないが、 横浜の子どもたちの15の春を泣かせている。 そこには何の政策性も感じ取れない。 そのツケが教員に廻り、 矢面に立たされています。 クラス定員は45人にまで拡大して、 真面目にやろうとする子どもたちがはじき飛ばされる結果となっています。 市の関係者がいれば是非説明を聞きたい。  
◇Aさん (中学教員):先ほども発言しましたが、 横浜市の政策は何かということですが、 過日進路の説明会があり、 高校の指導主事が来て説明しました。 鶴見工業が新しい科学技術になるが、 横浜市立高校は全日制も定時制もここ10年ほどで各校驚くほどレベルアップしている。 その分、 入りにくくなっている。 このレベルアップするというのが横浜市教委の政策です。 横浜総合を創ったのはその一環です。 中学生は困っているが、 入試改革の中で市はうまくやったと思う。 横浜の中心部の中学は特に困っている状況です。
◇Eさん (高校教員):解決の道筋がなかなか見えてこないのが現状です。 県民世論に訴えていかないとだめだということも出ました。 私学のカラ枠のことも特色づくりの真の意図など、 県民には知られていない。
 12月 8 日に行った教育基本法改悪反対の神奈川集会の実行委員をやったが、 その取り組みの中に現場の先生があまりいない。 市民運動家や弁護士は多いが。 このシンポで出されている中学校の現状は、 まさに教育基本法や憲法の改悪で狙われる 「教育を等しく受ける権利」 とか 「教育の公共性」 の問題と通じています。 現実問題としての入試に対する取り組みと基本法改悪反対とがバラバラに動いていれば、 敵の思うつぼではないでしょうか。 まとめに際しては、 少しでも具体的な解決法を示唆して欲しい。

親は子どもがしたいことを見極めて欲しい

金 沢:今日のシンポジウムのまとめとして、 少しでも取り組みの方向性や解決の方法を具体的に話し合って欲しいとの要望が出されましたが、 シンポジストの皆さん、 いかがでしょうか。

島 根:最後の方の発言が印象に残りました。 自分にはカウンセラーの立場もあるが、 いろいろな人たちが一緒になって考えることが困難になっている大人社会がそのまま子ども社会にあるように思う。 子どもたちが隣の人とちゃんと話せないのはその辺りの影響ではないでしょうか。 孤立化、 個別化してしまっている状況にあります。 子どもたちにも話し合って欲しいのですが、 大人たちが話し合えているかを考えてみると、 やはり陰でこそこそのようなところが出てきてしまいます。 全体としてどのような問題があるのかに関して、 なかなか見ようとしません。 今日は皆さんと違う立場だから、 抵抗があって来ているのですが、 このように一緒に話し合っていかなければ、 子どもたちのこれからを考えていくことができないと感じました。
 ここで一つ提案したい。 お金がない、 ということについてだが、 子どもたちが私たちのところに来るのは、 やはり高校卒の資格を取らなければいろいろな資格が取れないからです。 よくよく聞いてみると、 親があきらめてしまっています。 お金を出せないのではなく、 出さないという姿が見えてきます。 その辺りの親の考え方もしっかり受け止めていかなければいけませんし、 子どもたちが本当に何をしたいのかも見極めなければいけません。
 実は今日受けに来ている子どもがいるのですが、 以前に勧めても選ばなかった子どもで、 3 年経って今日受験しています。 子どもはいろいろ模索をした結果、 ここがいいと自分で決めています。 お願いしたいのは、 子どもが自分で考えて動かなければいけないときに、 親も教師も真剣にとり合っていく姿勢を見せていただきたいことです。 真剣さの必要は学校にもあるが、 何より家庭にあることに気づかなければいけないのではないでしょうか。
 私の今一番の課題は、 不登校の子どもたちが自分の足でしっかり立って歩けるようにすることにあります。 高校を選ぶということは人生を選ぶことですから、 もっと真剣に考えていかなければならないし、 考えて欲しいと思います。

理念を追うだけでなく現実の検証が必要
手 島:いろいろな理念が飛び交って改革が行われているが、 検証を徹底することが大事です。 何かいいことをやれば、 どこかにしわ寄せが来るし問題が起きる。 問題が起きれば問題が起きたことにどんな意味があるかを検証すべきです。 本来は教育行政の仕事ですが、 われわれも一つ一つ検証しなければいけない。
 今回の資料に 1 枚の絵を貼り付けました。 ラファエロの 「アテネの学堂」 というフラスコ画で、 左がレオナルド・ダ・ヴィンチに模したプラトン、 右がミケランジェロに模したアリストテレスです。 プラトンは上 (イデア) を指し、 アリストテレスは下 (現実) を指しています。 つまりプラトンは理念、 アリストテレスは現実重視を示唆してます。 教育は理念だけで語られることが多いですが、 理念だけでなく、 検証をしたり現実を見たりする作業を教育の場では行わなければならないと思っています。 全県 1 学区になったらどんな問題が起きているか、 計画進学率が低いことはどういうことか、 ひとつひとつ丁寧に検証することが解決への道ではないかと思います。
 今、 格差社会が広がっていて、 軽い本が売れたり年収何百万円生活の話が売れて、 多くの人に不安が広がっていますが、 こと教育のことになるとそれが語られないのが不思議です。 高校格差が家庭的経済的問題とリンクしていることはよく知られていて、 教員は実感としてよく分かっているのに、 世間では何故か語られない。 2 、 3 年前に国立教育政策研究所の方が学会で階層と高校格差がリンクしていることを発表して、 少し報道された程度です。 高校再編や入試のあり方もこの格差社会に資するように行われている疑いがあるので、 追究していきたいと思います。
 学力問題も東大の苅谷剛彦さんは 「単に学力が低下しているのではない。 より階層の低いものがより低い学力になっている」 と指摘しましたが、 それにもかかわらず、 学力低下、 学力低下とだけ騒がれて、 授業時間を多くするために 2 期制への移行が進んでいます。 2 期制にして、 通知票が年に 2 回しか家に届かないことになれば、 関心の低い親は 2 回しか通知票を見ないことになります。 教育に関心の高い親は子どもを塾に通わせたりして、 いつも子どもの成績が分かるのに。 そういうことも含めて検証していくべきだと思います。

市場原理にはない公共性に着目を

手 島:しかし、 今の教育行政の姿勢は変わらないと思います。 先進国を中心とした新自由主義にどっぷりと漬かっているからです。 新自由主義は個人の自由と責任に基づく競争と市場原理を重視する考えで、 われわれ教員も民間会社に行ってもっと勉強してこいなどと言われたり、 教師はものの見方が狭いなどと言われたりしますが、 要は市場主義偏重です。
 こうした中のキーワードとして、 「差別化」 とか 「勝ち組、 負け組」 などがあります。 生徒に 「教員は勝ち組か負け組か」 と聞いたことがありますが、 「オレたちみたいなのを教えているんだから負け組だ」 と言っていました。
 原点に返って見なければいけないことがあると思います。 社会主義はいろいろな問題を抱えて倒れたという見方があり、 今は資本主義中心の社会になってはいますが、 すべてを市場原理に一元化すると種々の問題が発生すると思います。
 近代社会ができる前提として市場主義があるのは確かですが、 近代社会のイデオローグのルソーやロックなどの考え方のあることがすっかり抜け落ちています。 ルソーは全体意志から一般意志へということを言っています。 どういうことかというと、 仮に100世帯の村があって水道もガスも引かれていないとします。 予算の関係で70世帯に水道を引いた。 次に何をするかといえば、 水道のないところにまず水道を引いて、 それからガスという順になるべきところ、 多数決によって次も70世帯にガスを引いてしまう、 そういう社会になってはいけないということです。 近代社会は公共の利益の意志のない社会であってはいけないとルソーは言うのです。 こうした市場原理ではないもう一つの原理がまったく抜けていることも批判しながら、 新自由主義を見ていかなければいけないと思います。

子どもたちが夢や希望を持てる教育を
宮 下:私たち教師のパワーも大切ですが、 周りに広げていくことも大事です。 教員が言っても変わらないことが父母の言うことで変わるということが教育の世界ではままあります。 そこを巻き込んでいく必要があると思います。
 中学校を卒業していく生徒が次代を担うのだという意識の植え付けが学校教育に足りなかった。 単に真面目にやればいいということばかりで、 真に生きる力、 日本を支えていく気概が弱い。 将来何になりたいかと生徒に聞いてもはっきりした希望を答えられない。 これはわれわれ大人の責任ではないでしょうか。 子どもたちが夢や希望を持って生きていく教育を保障する気持ちを常に持たずに、 言われたたことだけやればいいという教師であってはいけないと痛感しています。 こういう時代だからこそ、 教員はそれを持ってきちんと対峙していく気持ちが大切です。 これではじめて、 次代の日本を支えていくというか、 変えていくというか、 そういう生徒を育てることができると思います。
 子どもたちに授業をしていても、 諦めが早い。 それが高校選びにも反映されていて暗い気持ちになります。 子どもたちの本質は変わらないと思いますが、 子どもたちを勇気づけ励ますパワーを失わずに私たちが頑張っていかないといけません。 パワーの使い方を教員自身も考えていく必要があると思います。

まず事実を知ろう、 そして発信しよう
金 沢:これで今日のシンポジウムも終わりに近づいたわけですが、 最終的にこの場で解決への具体策を提示することは難しいと思います。 ただ、 努力の方向性はそれぞれの話から掴むことができるのではないでしょうか。
 島根さんは最初に、 「立場や考え方が違ってもまず話をすることから始める」 と仰り、 その気持ちで今日もこの場に参加したといわれます。 本当に話をすることから始めなければ何も始まらないことは私も実感するところです。 宮下さんは 「保護者を巻き込んでいかなければだめではないか。 そのためには教師を含めて教育に関わる者が力を失ってはいけないし、 諦めてはいけない」 と話されたが、 私も同感です。
 今日のシンポジウムも、 今とんでもないことが起きている。 われわれもまずそのことを知ろう。 そしてその背景にあることについて何故そうなったかをこの場で互いに理解し合おう。 高校再編・入試改革・私学のカラ枠などの問題がある。 知ったらそれを誰かに知らせて動かしていく そういう趣旨で開催しました。
 それと同時に、 手島さんから、 われわれはいろいろ検証していかなければならないという指摘もありました。 教育委員会や行政は検証を嫌がるだろうから、 われわれの手でしていかなければいけないという話もあって、 重要なことだと感じました。
 全定同一の入試日程になりましたが、 そのことについて県教委が生徒・保護者にアンケート調査を実施しています。 ところがアンケートの対象者は定時制ではなく、 全日制に入学が決定した生徒・保護者なのです。 全定を同日日程でやった入試はどうだったか と聞いているのですが、 彼らは結果オーライで、 全日制に合格しているから現状肯定派であり、 みんな よかった とOKを出します。 それを県教委は 「肯定的な意見が多い」 と発表していくのです。 それを検証したり、 意見を言っていくことが少なくなっているのも事実ですから、 われわれは努めて発信していかなければいけないと考えています。
 手島さんは今の日本の格差社会に対して 「おかしい」 とか、 「公共とか公とかはやはり大事だ」 とか言い続けていくことが肝要ではないかと提起されました。 会場からの発言もありましたが、 これは教育の機会均等の問題で、 憲法・教育基本法にもリンクしていくと考えられます。 われわれがものを言わなければ、 どんどん事態は進んでいきます。 言わないでじっと我慢しているところが辛い思いをしている。 そこに目を向けていかなければいけないのだ、 ということを実感しました。
 先行きについて明るい展望を示すことはなかなかできませんが、 12月のこの忙しい時期に集まって話をして、 意見交換ができたということで、 それが第一歩になっていくのではないかと思います。 私のほうからは以上をまとめとして、 今日のシンポジウムを終わりにします。 シンポジストのお三方にはいろいろな角度からお話をいただき感謝します。


 

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