所員レポート
 イギリスにおける
若年者発達支援政策に関するレポート
― ニート (NEET) 支援の一環としてのコネクシオンズ (Connexions) を中心に ― 
                                        沖 塩 有希子

はじめに
   「NEETニート」 とは何か
 
 最近、 「NEETニート」 の文字を目にされる機会が時折あるのではないだろうか?
これは、 イギリス (1) で最初に用いられた造語であり、“Not in Education, Employme-nt, or Training”の頭文字をとったもので、 教育・雇用・職業訓練のいずれの活動にも従事していない無業の若者を指す。 ただし、 イギリスにおいてもニートが取りざたされるようになったのは (後述するように) ここ数年のことであるので、 現状その明確な定義というのは共有されていない。
  「ニート」 のイメージをつかむには、 「引きこもり」 や 「フリーター」 と関連づけてみることが有効であろう。 まずは 「引きこもり」 の一応の定義であるが、 「正確には、 社会的引きこもりとされ、 学校・会社に全く通っていない、 家族以外とコミュニケーションがとれない状態が半年以上続いており、 またそれが、 鬱病・統合失調症などの病によらない者」 (2) とされる。 ニートの中には、 引きこもりタイプの若者も含まれるのだが、 これに限定されず、 一見すると何ら問題なく社会生活を営むことができそうなのに、 実際には教育・雇用・職業訓練のどの活動にも取り組めないでいる若者が存在している。 次に、 「フリーター」 であるが、 この定義に関しては、 言葉の認知度は高いにも関わらず、 いまだ一定の定義づけが確定していないことをことわっておくが、 その上でフリーターをめぐる一般的な共通認識を挙げるとすれば、 学生でも主婦でもなく、 アルバイトあるいはパートタイマーという非正規の雇用形態で働いている若者といったところになるのではないだろうか。 また、 本研究所紀要 『ねざす』 第33号掲載の 「フリーターは何を告げているのか?」 において、 本間正吾氏が調査データを用いて提示したことの 1 つに、 概して彼らが働くことを厭っているわけではないという側面が指摘されているが、 本間氏の提示したフリーター像を参考にすると、 勤労意欲があって労働に従事しているフリーターと、 何らの活動にも気力を示さないニートとでは、 意識の面でも相違がある。
 本レポートにおいて、 筆者は、 イギリスでのニート問題をめぐる社会状況を概観し、 それに対する 1 施策として注目されているコネクシオンズを紹介することにしたい。 これを取り上げる理由であるが、 わが国のニートに関する (本研究所ニュース 「ねざす」 第48号に寄稿を下さった) 小杉礼子氏らによる先駆的な調査研究 (3) の中にも指摘があるように、 将来わが国においてもニートのような無業に分類される若者が拡大していく可能性があるが、 にもかかわらず、 こうした層に関する認識や理解が現状進んでいるとは言い難く、 今後のニートの実態把握、 およびその対策が迫られているからである。
 そこで、 1. においてイギリスにおけるニート出現の社会的背景とニートのはらむ問題点を概観した上で、 このようなニート層へ重点化して働きかける施策として注目されているコネクシオンズ・サービスを 2. で紹介することにする。
 本レポートが、 わが国のニートやこうした層を含んだ若者支援のあり方を考える糸口になることがあるなら幸いである。

1. イギリスにおいてニート問題が現出した社会状況
 以下では、 ニートの造語を生み出したイギリスにおいて、 いかなる社会状況の下でニートが深刻な問題として取りざたされ、 対応策を講じるべき問題として認識されるに至ったのかについて述べていきたい。
 1999年の政府の社会的排除問題ユニット (Social Exclusion Unit) がとりまとめた報告書Bridging the Gapでは、 1994年より、 毎年16〜18歳の年齢層の若者の約 9 %をニートが占めること、 わけても、 この 9 %という数値は全国的な平均であり、 実際にはある特定の地域やエスニック・グループなどに偏向していることが指摘されていたりするなどの理由から、 ニートの実状の把握と追跡が非常に難しいことが言及されている (4) 。 では、 なぜこうした一定数のニートなる層が出現するようになったのかであるが、 その要因を簡潔に述べるとすれば、 1970年代からの産業構造の変化に伴う若者の失業率の急増と若年者訓練制度の不徹底が挙げられるという。 重工業・製造業の衰退による労働市場の変化は、 若者の就業状況に甚大な影響を及ぼしたといわれ、 例えば、 従来多数の若年男性を吸収していた製造業の雇用は、 1970〜1995年の間に860万人から380万人に減少し、 こうした産業経済状況の変化が、 1970年代・80年代の若年失業の増加を引き起こしたのだとされる。
 なお、 これへの政府の対応策として、 1975年来初めて若者の失業に特化した計画が着手されてから、 若年者の訓練制度は改善を重ねつつ現在まで継続されてきたが、 概して過去の訓練システムは、 若者の就業に好転をもたらす有益な施策であるとは言い難かった (5) 。 特に、 ニート層の若者には、 訓練システムを利用しようとする意識が乏しく、 政府主導のそうした制度はほとんど効果をもたらさなかったから、 彼らのキャリア形成やエンプロイアビリティ (employ-ability, 就業能力) が向上する可能性は少ないゆえに、 社会や経済に貢献することもなく無業者として社会福祉給付金を長期にわたって受給し続けるのではないかという懸念や、 あるいは犯罪・ホームレスなどの当事者になるかもしれないといった危惧が高まった (6) 。
 ニートが、 本人達自身にとっても、 社会にとっても不利益を招く恐れのある看過できない存在であることが確認されて、 上記のニートをめぐる憂慮を払拭すべく、 政府は、 彼らのような気力に乏しい若者の層を直視して、 その実態把握と対策を検討するための大規模な調査を決行したのであり、 その調査結果として公表されたのが本項冒頭の社会的排除問題ユニットによる報告書であった。 同報告において、 ニートの状況にある者やその予備軍というのは、 全てを本人自身の無気力や能力不足に原因を帰されるべきでないことや、 彼らの負っている不利な社会的・経済的背景の要素の大きさが指摘され、 社会において困難な立場に置かれているニート層を含んだ若者に向けて、 教育と雇用を一体化する枠組みでの若年者発達支援政策の創出が強調された。
 同報告書を踏まえ、 ニートの若者達にもアプローチし、 彼らをも取り込むことが可能な若者の自立を支援するプログラムとして実施をみたのがコネクシオンズである。

2. ニート支援の一環としてのコネクシオンズの概観
 コネクシオンズは、 労働党ブレア政権の主導で、 2001年 4 月に始まったもので、 13〜19歳の全ての若者を対象とした発達支援プログラムであるが、 従来の教育・雇用・訓練を推進するための施策ではこぼれ落ちてしまう、 社会的に排除されてきた若者であるニート層にサービスが浸透していくよう特に留意されている。
 この項では、 コネクシオンズに関する概観を示していくが、 コネクシオンズの理解を図る上で有効と思われる原則的内容に限られた記述になることをまずことわっておきたい。 コネクシオンズとは、 若者各人のニーズに対応した支援を提供するという特質を持つから、 そのサポートの形態や内容は多種多様であり、 ユニークな実践が全国で展開されていることが予想されるが、 このプログラムが2001年度に導入されたという経緯から、 その実践例などの詳細についてはいまだ明らかではなく、 今後の情報の蓄積と分析が待たれている。
(1) 「コネクシオンズ」 の名称の意味
  「コネクシオンズ」 という名称は、 しっかりした基盤作りの援助、 適切で望ましい 「つながり」 を作り出していくことを表現しているといわれる。 まず、 若者全てにとって一貫性を保ち良好な結果をもたらすために、 中央・地方および自治体レベルの政府・省庁の政策・サービスをコネクトする。 また、 できる限り幅広く若者の生活とコネクトすることによって、 若者が社会やコミュニティとのつながりを感じるようにする。 そして、 学習経験の中で成長していく適切な学習の機会を通じ、 若者を自身の将来とコネクトするのである。
 なお、 コネクシオンズで使われる 「学習(learning)」 は、 教育、 職業教育・訓練、 その他大人としての生活、 社会に貢献する市民への成長、 幅広い個人の発達・成熟を目指す活動全般を指す (7) ホリスティック (holistic, 全体論的) な性格を備えるものとして定義されている。
(2)コネクシオンズの目的と特色
 コネクシオンズはその最大の目的を、 若者の実際の生活にポジティブな変化をもたらし、 彼らが学業・職業など将来への選択を行う際のサポートを提供し、 職業生活・大人としての生活・社会に貢献する市民への順調な移行を支援することに置く。 そのサービスは包括的であると同時に個人のニーズにも応えるものであり、 この目的のために創設されるコネクシオンズは、 従来の若者へのアドバイスとガイダンスサービスの根本的な改革の出発点に位置づけられる (8) 。
 また、 ニートのような若者が抱え込む問題は、 学業面・家庭面・心身面などが複合的に絡みあったケースが多いため、 従来通りの若者の問題を区分けしてそれに関係するサービス機関が各自別個に対応していくシステムは改められ、 まずはその問題を総合的に把握した後に、 個別の状況に応じて支援方策を設計していくことの重要性が認識された。 コネクシオンズの制度下では、 既存の各専門サービス機関はこれまで維持してきた機能を保持しつつも、 相互に連携を図って若者をバックアップする仕組みが新たに構築され、 ニートのような社会的に不利な状況にある若者の円滑な受け入れへの配慮がなされている (9) 。 これまでの若者関連の政策・支援に関わっていた 6 つの政府省庁や機関・組織、 その他の民間組織、 ボランタリーセクター、 そしてユースサービス、 キャリアサービスの仕事を連関させて、 13〜19歳の若者に必要な支援を 1 つに統合する。 それによって、 重複・欠落のない、 それぞれの分野の今までの経験・優れた点を共有した上で、 さらなる活動の積み上げを可能とする総合サービスを追求し、 若者にとって首尾一貫したサポートを提供することを目的としている (10) 。
(3)コネクシオンズ・パーソナル・アドバイザー:Connexions Personal Advisorの役割、 および、 その訓練プログラム
 具体的なサポートとしては、 主に様々な専門領域を持つコネクシオンズ・パーソナル・アドバイザー (Connexions Personal Advisor, PA) (以下PAと略記する) のネットワークによって、 全ての若者を対象とし、 かつ個人のニーズに対応し特化されたサービスが提供される。 若者全体を対象とした一般的なサービスと、 ニートを始めとする特定の若者に向けられる集中的・持続的サービスを、 両立・共存させようとするところにコネクシオンズの 1 つの特色があるとされる。 若者がサービスへのアクセスが容易で、 生育背景・能力・人種などに左右されずに効果的なサービスを享受することができるよう配慮されている。
 PAと若者双方の信頼関係に基づいて若年者を支援する中核的な責務を担うPAは、 情報仲介者、 若者の声の代弁者、 若者の擁護者としての役割も担い、 ティーンエイジの若者が、 将来の職業人・社会に貢献する市民となるための、 広い意味での学習の継続を全面的にサポートしていく (11) 。
 若者個人へのサービスは、 このPAが最前線に立って総合支援サービスの形をとる。 PAは、 若者へのガイダンスやカウンセリングを担うが、 相談の対象領域は、 教育・キャリア・職業から、 心身・対人・福祉・レジャーに至るまで広範囲に及び、 若者の課題や障壁となっている問題を彼らが克服するためのサポートに力が注がれる。
 義務教育段階にある13〜15歳の若者もコネクシオンズのサービスの該当者であるので、 この年齢段階の場合、 PAは学校を拠点として、 彼らに対するキャリア教育のサポートや個人面接に応じる。
 また、 大都市地域においては、 路上やたまり場などにいる若者のところにPAが入っていってコミュニケーションを図り相談に乗るケースもあるという。 その他、 地域によっては20歳以上の若者の支援を含んだり、 サッカーチームがスポンサーになるなど、 各地域の実状に即しながら企業の協力も得て独自の活動が展開されているといわれる (12)。
 以上のような役割を担うPAは、 2001年 4 月のコネクシオンズのサービス開始時期には、 893 名であったが、 2002年 3 月には2003名に増加し、 PA応募者も多数であり、 今後も幅広い経験・知識・出自からのPAの確保が促進されていくという。
 なお、 PAには、 若者それぞれを理解して、 各人と良好なコミュニケーションを取り結び、 適切な支援を行える資質・技量が要求されるゆえに、 訓練プログラムの確立が求められているが、 現状では、 これまでの活動領域を中心としてPAに携わる者を対象とするUnderstanding Connexionsと、 学習の障壁を抱えて集中的なサポートを必要とする若者のためのPAに携わる者を対象とするDiploma for PAs の 2 つのPA訓練プログラムが創設されているという。 これに加えて、 PAの職業的地位の確立や 「コネクシオンズ・パーソナル・アドバイザー資格」 の整備なども現在進められているという (13) 。
(4)コネクシオンズの体制組織
 コネクシオンズは、 サービス内容のみならず、 その体制組織においても刷新的な要素を備えている。 省庁横断的機関である中央レベルでのConnexions Service National Unit (以下CSNUと略記する) が戦略的レベルの機能を果たし、 全イングランド47の学習技能協会 (Learning and Skills Council, 高等教育を除いた16歳以降の地域の教育訓練の計画、 および、 財政配分援助などの業務を一手に取り扱う機関。 以下LSCと略記する)、 LSCエリアレベルのコネクシオンズ・パートナーシップ (14) が、 地域のニーズに対応した戦略計画と資金供給配分、 サービスの質のモニターの任を担う。 コネクシオンズの日々の地域でのサービス提供・管理・手配の責任を負うのが地域運営委員会 (Local Management Com-mittee, 以下LMCと略記する) である(15)。 下に註したのは、 サービスの組織図である。

*コネクシオンズのサービス組織図
(日本労働研究機構、 『諸外国の若者就業支援政策の展開−イギリスとスウェーデンを中心に−』、 2003年、 p.69の図を引用)

(5)コネクシオンズのサービス提供方法
 コネクシオンズは、 サービスの提供方法においても斬新な要素を備えている。 行政の境界、 専門的領域などといった従来のサービス提供側の事情による、 分割された支援を複数の機関が提供する方針から、 支援を受ける若者にとってアクセスしやすいことを優先する方針転換が図られた。 実際には、 若者が立ち寄りやすい場所・ワンストップショップ (One Stop Shop, 1 カ所で何でも間に合う店) でのサービス提供、 さらには本論ですでに言及した、 アウトリーチワーク (outreach work, 通常行われている限度を超えた範囲での活動) として若者達が集まるたまり場・路上などの場所に出向いて若者と接するケースもある。 また、 若者へ向けた一層のサービスの利便性が追求され、 電話・Eメール・ネット上での 1 対 1 のチャットによる相談サービスである 「コネクシオンズ・ダイレクト (Connexions
Direct)」 も現在本格的な導入に向けて試行され検討中であるという。 コネクシオンズは、 ウェブサイト・Eメールを、 若者との非常に有効なコミュニケーション手段ととらえ、 CSNU・パートナーシップ・LMCが各自ウェブサイトを作成、 運営している。
 加えて、 「コネクシオンズ・カード (Con-nexions Card)」 なる名称の、 学習継続を奨励するためのカードも発行され、 若者はこのカードを提示することにより、 公共交通・書籍・文具の割引が受けられ、 学習継続によって蓄積されるポイントでその他の買い物やレジャー施設の割引を受けることもできるという (16) 。

おわりに   わが国の若年者の包括的な発達支援政策のあり方を考えるために  

 以上において、 イギリスで進行中の若者発達支援政策であるコネクシオンズの概観を述べてきた。 同プログラムは、 @複数の機関や専門の異なるスタッフが連携する活動組織 A多様な経験、 知識、 訓練、 出自を持ったパーソナル・アドバイザー (PA) のネットワーク構築 B若者 (13〜19歳) それぞれの状況や要求に即して多岐にわたるガイダンスとカウンセリングを提供する柔軟なサービス Cサービスへの容易なアクセス手段 を特質とし、 ニート層も含み込んだ全ての若者の健全な発達と自立に向けたホリスティックな支援を追求しているといえる。
 最後に、 イギリスでのコネクシオンズの施策内容を踏まえながら、 今後のわが国の若年者の支援政策のあり方を考える上で参考になりそうな点を示して結びとしたい。
 既に述べたが、 コネクシオンズは 「学習(learning)」 を、 教育、 職業教育や訓練、 その他大人としての生活、 社会に貢献する市民への成長、 幅広い個人の発達と成熟を目指す活動全般ととらえていることからわかるように、 若者に向けた包括的な 「学習」 ・発達支援を目指し、 様々な組織やバックグラウンドを持ったスタッフが協同して、 社会が一体となり、 社会的・経済的発展に貢献できる自立した市民へと若者が成長できるよう、 支援のネットワーク構築を進めている。
 他方のわが国であるが、 昨年度 (2003年)、 若年失業問題の厳しさを踏まえて、 その対応策として、 人材対策の強化や創業・起業の活性化による就業機会の創出などを盛り込んだ 「若者自立・支援プラン」 が、 内閣府・厚生労働省・文部科学省・経済産業省の 4 府省で取りまとめられた。 若者の勤労意欲を喚起しながら、 彼らの職業的自立を促進し、 若年失業者の増加傾向をくい止めるため、 例えば、 「ジョブカフェ (就職に関する情報提供・適職診断・職場体験といった各種サービスを 1 カ所で受けられる)」 を全国に設置するなどの施策を展開し始めており、 今後の政策のさらなる充実と効果が期待されている。
 だが、 上記のプランは、 あくまでも職業・就業に重点化された対策であって、 しかも、 内閣府のウェブサイト中の同プランの説明に 「…やる気のある若者の職業的自立を促進し…」 (17) との表現があるように、 就業する意欲が旺盛な若者をその対象としている。 イギリスでのコネクシオンズのような、 社会全体の協力体制でもって、 ニートのような無気力層の若者も範疇として、 全ての若者の生活全般を視野に入れた包括的な学習のとらえ方に基づき、 若者と向き合いバックアップしていくような施策・実践とは異なっている。
 理想論を並べ立てたくはないが、 わが国も、 そろそろ、 若者の問題や教育に関して、 学校 (教師) と家庭 (親) に責任の矛先が集中して向けられる傾向や、 学問知識が過剰に重んじられる学習観といった狭量な発想を払拭し、 社会のあらゆる組織や人々を巻き込み、 若者がホリスティックな 「学習」 を享受できる発達支援策が検討される方向が出てきても良いのではないだろうか。
 なお、 イギリスのコネクシオンズの政策策定過程にあたっては、 サービスの受け手である若者達とも協議がなされ、 彼ら若者も関与してコネクシオンズの構想が進められた経緯があるのだが、 その際に若者が表明した意向は、 わが国の若者に向けた今後の支援システムのあり方を勘案する上で示唆的であるように思う。 彼らが自分達のサポートプログラムへの意向として強く打ち出したのは、 お互いを知り合うことができて信頼関係を築くことができる決まった人物に相談したいこと、 その人物は自分達の声の代弁者であり擁護者であって欲しいこと、 個人のニーズを尊重しそれへの適切な対応が行われること、 サービスにアクセスしやすく、 自分が必要とするサービスを 1 カ所で、 都合の良い時間帯に、 訪れやすい時間に受けたいなどであった (18) 。 コネクシオンズは、 原則レベルでは、 おおむね、 彼ら若者の希望する条件を満たした内容といえそうであるが、 わが国の若者も、 自分達へのサポートのあり方を問われたなら、 おそらくイギリスの若者達と同様の要望をあげるのではないだろうか。 やはり、 若者に向けた支援策であるのだから、 若者の実態を把握し、 彼らの意向を尊重してその思いに寄り添ったものであることが前提であろう。 特に、 ニートのようにサービスを積極的に活用しようとする意識が低い層の存在を考えるなら、 なおさらである。
 先行きが不透明で、 様々な問題が山積する状況の中で、 決してバラ色とは言えぬ将来を生きていかねばならない可能性が高い若者達に求められるスキルは、 あらゆるケースに対処していけるトレイナビリティー (trainability, 訓練可能性) のような全般的要素が優先されるべきなのか、 もしくは、 専門的な知識・技能のような限定的要素が優先されるべきなのか、 今後も議題にのぼることは度々あろうが、 議論に決着をみることはないであろう。 結局のところ、 いずれもが欠くことのできない要素であるから、 双方をバランス良く培っていくしかないであろうし、 加えて、 若者個々が自己の実現に向けて積極的な意欲を持つことが可能で、 将来自立して社会に貢献できる人材の育成を目指して、 行政・企業・学校などの諸機関で連携を図りながら模索していくしかないと思われる。 その意味において、 コネクシオンズが提示するホリスティックな 「学習」 のとらえ方や、 これを基盤としつつ、 PAを中心とした多くの大人達が関与して社会的に若者の支援を進めていこうとするイギリスの若年者発達支援プログラムは、 参考にすべき点を備えているのでないだろうか。
 【註】
(1) 本レポートで使用するイギリスとは、 イングランドのみを限定して指すものとする。 というのは、 ここで取り上げるコネクシオンズがイングランドのみで実施されているものであって、 ウエールズ・スコットランドでは、 独自の若年者支援プログラムが進められている事情があるからである。
(2) 稲葉振一郎、 玄田有史、 「仕事って何だろう」、 『グラフィケーション』 322号、 富士ゼロックス株式会社、 2004年、 p.5.
(3) 小杉礼子、 堀有喜衣、 「学校から職業への移行を支援する諸機関へのヒアリング調査結果−日本におけるNEET問題の所在と対応」。
(4) Social Exclusion Unit, Bridging the Gap, Lo-ndon:Stationary Office, 1999.
(5) ちなみに、 若年者職業訓練制度は、 2001年度より現代徒弟制度 (Modern Apprenticeship) という形態をとっている。 これは、 若者を対象とした職場での教育訓練制度であり、 個別の企業との雇用契約に基づく公的訓練制度で、 製造業・経理・ITなどの多岐にわたる分野に及んでおり、 収入を得ながら公的職業資格の取得を目的とする制度である。
(6) 日本労働研究機構、 『諸外国の若者就業支援政策の展開−イギリスとスウェーデンを中心に−』、 2003年、 p.63.
(7) 同上、 p.90.
(8) 同上。
(9) 国民教育文化総合研究所、 『若年層の雇用問題と職業教育のあり方を考える』、 2004年、 p.68.
(10) 日本労働研究機構、 p.90.
(11) 同上、 pp.90〜91, p.95.
(12) 国民教育文化総合研究所、 p.68.
(13) 日本労働研究機構、 p.96.
(14) コネクシオンズ・パートナーシップは、 各地域のステークホルダー (stakeholder) により構成される民間会社の形態をとっている。 CSNUと契約関係を交わしている。
(15) 日本労働研究機構、 p.97.
(16) 同上、 pp.100〜101.
(17) 政府広報オンライン。  http://www.gov-online.go.jp/week/theme/wakamono_koyo_taisaku.html
(18) 日本労働研究機構、 p.93, pp.100〜101.
* なお、 本レポート作成にあたって、 イギリスの教育・訓練省 (Department of Education and Skills)のウェブサイトも参照した。  http://www.dfes.gov.uk/index.htm
  主要参考文献・資料
  • 『グラフィケーション』 322号、 富士ゼロックス株式会社、 2004年。
  • 神奈川県高等学校教育会館 教育研究所、 「研究所ニュース ねざす」 48号、 2004年 7 月号。
  • 国民教育文化総合研究所、 『若年層の雇用問題と職業教育のあり方を考える』、 2004年。
  • 東京大学社会科学研究所、 『社会科学研究』、 55号、 2004年。
  • 日本労働研究機構、 『諸外国の若者就業支援政策の展開−イギリスとスウェーデンを中心に−』、 2003年。
  • 教育・訓練省 (Department of Education and Skills)のウェブサイトhttp://www.dfes.gov.uk/index.htm

   
(おきしお ゆきこ 教育研究所員)