フレキシブルスクール 横 浜 桜 陽 高 校

                                        林  眞 佐 幸

 横浜桜陽高校は2003年 4 月豊田高校と汲沢高校が統合して開校した。 神奈川県の県立高校改革のなかでフレキシブルスクールとされた三校の一つである。 これまでの流れと現在の学校について説明したい。

1. 県立高校改革
 横浜桜陽高校における県立高校改革の直接の動きは、 1999年 8 月の新聞記事に高校改革の該当校として報じられることからはじまった。 県の 「県立高校改革推進計画 (案)」 発表がその後にあり、 さらに当該校職員への説明が行われた。 この説明の中で教育委員会から、 具体的な計画は教育委員会と当該の豊田高校と汲沢高校の 3 者の協議をすすめるなかでつくるとの説明があった。 11月には、 「県立高校改革推進計画」 が発表され、 新校の準備のための協議が始められることになった。
 協議は双方の高校の学校長・教頭・新校準備委員 3 名と教育委員会の担当による 「新校準備委員会」 が設けられ新校の計画作りが行われる体制で進められた。 さらに豊田高校・汲沢高校それぞれの学校内に新校準備のための委員会 (校内新校準備委員会などの名称をつけた) が設けられた。 新校準備委員の構成はそれぞれの学校ごとに異なり、 汲沢高校は有志を募る形で、 豊田高校は分掌を基盤として構成された。
  「新校準備委員会」 はおおよそ月に 1 回程度、 二つの高校を交互に訪問する形で行われた。 県の 「県立高校改革推進計画」 を基本にその内容を検討し、 細部のつめや練り直し、 表現・内容の追加や削除などを行っていった。 豊田高校・汲沢高校のそれぞれの学校内の準備委員会も毎週相互の高校を訪ねて協議をし、 推進計画の内容を具体的にしていくための準備を進めた。 その内容をまとめて 「新校準備委員会」 で報告し、 教育委員会の担当者の見解や助言をうけて 「新校設置計画案」 をまとめる準備をしていった。 そして2000年10月に 「新校準備委員会」 で検討した計画を元に教育委員会で手直しをしたものが 「新校設置計画案」 として発表された。 さらに 1 年をかけて、 より具体的な 「新校設置計画」 が2001年10月に発表され、 新校の発足の準備態勢が作られることになった。
 開校前年度の 4 月に施設活用校の中に開校準備組織が設けられることとなり、 2002年 4 月、 新校準備担当として汲沢高校職員室内に担当のデスクが置かれ仕事を始めることになった。 構成は校長 1 名・教頭が 2 名、 教諭が 6 名、 事務長 1 名、 事務 2 名の合計12名の組織が設けられた。 (施設活用校とは統合後、 校舎が使用される高校であり、 校舎が利用されない高校は非施設活用校とされた。 また、 廃校という言葉は使用されず、 統廃合とも決して言わなかった。 したがって、 2003年 3 月には学校を閉じる際に豊田高校・汲沢高校とも 「完校」 という造語で、 学校としての教育活動の完了を記念した。)
 学校名は教育委員会の決定と議会の条例改正を経て決まっていった。 100校計画などに比べると早めに決めるように計画された。 前年度から校名検討の有識者による委員会が設けられ、 校名の候補の募集も行われた。 豊田高校・汲沢高校でも学校として生徒や保護者などに募集をした。 その後、 2002年 8 月下旬に教育委員会で決定され 9 月議会で条例改正がなされ、 11月 1 日より 「横浜桜陽高等学校」 として設置された。
 2003年に入り入学者選抜を豊田高校・汲沢高校職員の協力を得て実施し、 4 月に開校をした。

2. フレキシブルスクール
 横浜桜陽高校は、 全国的に見ても珍しい 「フレキシブルスクール」 として開校された。 横浜桜陽高校以外には、 川崎高校と川崎南高校の統合による 「川崎高校」、 厚木南高校の単独再編の 3 校がフレキシブルスクールとされた。 しかし、 3 校はそれぞれ独自の形態を持ち統一的に見ることが難しいところがある。 横浜桜陽高校はもともと全日制の普通科高校であった豊田高校と汲沢高校が統合されたものであり、 単位制による全日制・普通科の高校というのが設置の基本である。 「川崎高校」 は全日制と定時制があり、 厚木南高校は全日制と定時制、 さらに通信制とでできている。 教育委員会が作成しているパンフレットなどでは、 フレキシブルスクールの説明としては、 主に川崎高校や厚木南高校の例を中心に 1 日12時間の時間割の中から自分で時間割を作成するなどとされていた。 そのため、 8 時間の時間割しかない横浜桜陽高校の説明としては適当ではなかった。
 横浜桜陽高校は形態としては神奈川総合高校と同じ単位制による全日制・普通科の高校であり、 大きな違いはない。 神奈川県教育委員会は県立高校改革を進めるにさいして、 その基本方向として 「多様な教育内容の提供・柔軟な学びのシステムの提供」 「地域や社会に開かれた高校づくりの推進」 をあげており、 その具体的な学校の姿として、 単位制高校・総合学科高校あるいはフレキシブルスクールなどを挙げている。 2000年 8 月の 「県立高校改革推進計画 (案)」 のなかでフレキシブルスクールについて 「一人ひとりのペースでじっくり学ぶ高校」 と言う説明を加えている。 さらに 「個が生きる多様な教育を提供するため、 新しいタイプの高校の設置を拡大します。」 「一人ひとりの学習ペースや生活スタイルにあわせて学習計画を立てて学習することができます。」 「個別学習を重視して、 一人ひとりの生活スタイルや学習ペースに応じることができるよう、 柔軟なシステムをもつ高校を設置します。 8 時間や12時間の授業展開から、 フレキシブルに時間帯を選択し、 自分のペースで学習計画を立てて、 じっくりと学ぶことや得意な分野の伸長を図ることができます。」 「また、 他の高校に学ぶ生徒や県民のみなさまの一部科目を履修したいという希望にもこたえる学習センターの機能も備えます。」 などとしてフレキシブルスクールのあり方を決めている。
 2002年10月の 「新校設置計画」 の設置の目的では次のような書き方になっていた。
・単位制の特性を生かし、 一人ひとりの生活スタイルに応じることができる柔軟な学びのシステムを持つ新たなタイプの高校として設置する。
・自己の適性に応じて得意科目の伸長を図ることや特性に応じて自己のペースで基礎的な学習や発展的な学習を充実することなどに対応するため、 多様な科目を設置し、 自らの個性の伸長を図りつつ、 自己の可能性を開拓していくための教育を行う。
・学校間連携による他校生の一部科目履修、 生涯学習講座による社会人の一部科目履修に対応する学習センターとしての機能をあわせて提供する。
【基本コンセプト】
・弾力的な履修形態による教育の提供
 各自の生活スタイルに応じた時間割編成が可能となるよう、 幅広い時間帯による授業展開を図り、 午前や午後といった各自が学習の中心とする時間帯の選択を可能にし、 多様な学習ニーズや学習ペースに応じた学習ができる弾力的な教育課程を提供する。
・特色ある教育活動の展開
 教育の情報化を推進するなかで、 自ら課題を解決し、 表現する能力を高める。 また、 自己の生き方を探求する活動を支援するため、 体験的な学習内容を重視した情報分野、 環境分野、 福祉分野などの科目を設置するとともに、 基礎的な科目も含めて多様な学習内容を提供し、 生徒の興味・関心などに応じた特色ある教育活動を展開する。
・特別活動の活性化
・ガイダンス機能の充実
 単位制の特性を生かし、 異年齢集団による活動を展開するなどの工夫を行うとともに、 特色ある学校行事の活性化を図る。 また、 個別の学習や生活面・進路指導におけるガイダンス機能を充実する。
・柔軟な受け入れの推進
 学校間連携による他校生の受け入れ、 中途退学者や進路変更による転学の積極的な受け入れを図る。 また、 生涯学習講座の設置により、 社会人に対して、 幅広く学習の機会を設ける。
 横浜桜陽高校のフレキシブルスクールとしてのあり方は、 制度としての学校の仕組みだけではない。 多様な学習を提供するために学校として可能なことをどしどし取り入れて生徒に提供していく、 あるいは地域の学習センターとして県民の生涯学習の場を提供していく。 そうした学校のあり方がフレキシブルなのである。

3. 横浜桜陽高校の現在
◎過渡期
 汲沢高校入学生と豊田高校入学生と横浜桜陽高校入学生の混在、 全日制と単位制による全日制の混在、 旧課程と新課程の混在。
 2003年 4 月に開校した横浜桜陽高校は、 いまだ過渡期にあるといえる。 豊田高校・汲沢高校としての最後の 2 年間も過渡期であった。 卒業する際は新校の卒業生として卒業することになりますと説明して入学者への説明をした生徒 (横浜桜陽高校1期生) が、 この 3 月に卒業する。 彼らは、 新しい学校の仕組みを豊田高校・汲沢高校で先取りする授業などを受けながら準備をし、 新校として1年間だけ生活して卒業していく。 さらに現在の 2 年次 ( 2 期生) も豊田高校・汲沢高校に入学し、 横浜桜陽高校生として卒業することになる。 汲沢高校入学生と豊田高校入学生と横浜桜陽高校入学生が混在しているのである。 なにが 1 番大きな違いであるかというと、 豊田高校・汲沢高校入学生は全日制の課程・普通科の高校に入学したのであり、 たとえば単位認定は通年制でおこなわれ、 学年進行を基礎としている。 ところが、 2003年 4 月に入学した 1 年次生は単位制による全日制・普通科の高校に入学しているので単位認定は半期 (半年) でおこない、 学年進行もとっていない。 つまり横浜桜陽高校の学則を見るとわかることであるが、 この学校には 2 つの仕組みが存在しており、 2 期生が卒業するまで 「全日制」 と 「単位制による全日制」 の混在することになる。
 さらに、 教育課程も2003年より指導要領がかわったので、 旧課程と新課程が混在している。 単位制の仕組みをベースとしているので横浜桜陽高校ではどの科目も基本的には 1 年次から 3 年次までとることができるように作ってある。 旧課程の授業として設置してある科目と新課程の授業として設置してある科目とがあり、 生徒の授業選択の際に複雑な仕組みとなっている。
◎横浜桜陽高校 (フレキシブルスクール) の様子
 募集は県内全域を学区として発足をした。 したがって、 広報は全権を対象に行っている。 定員240人であり、 その内中途退学者枠として20人をとって募集している。
 本校の特徴として@自分で作る時間割、 A 6 つの特色ある系 (情報ネットワーク系、 環境サイエンス系、 福祉サポート系、 健康フィットネス系、 国際コミュニケーション系、 教養アーツ系) B地域に開かれた学校、 オープンな学びの場として学校外での計画的な学習活動の単位認定を実施している。 たとえば連携先の大学・専門学校での学習成果や英検やワープロ検定などの資格、 あるいは計画的、 継続的なボランティア活動、 企業や、 社会施設などでの就業体験 (インターンシップ)、 顕著な成果をあげたスポーツ・文化活動、 他の高校の授業を受講した学習成果 (学校間連携) などを単位認定する仕組みをつくり単位認定してきている。 また社会人向け公開セミナーを土曜に行っており、 通常の授業においても生徒の授業に参加する社会人聴講生を募集している。 Cインターネットを活用した教育、 D充実した生徒支援体制をあげることができる。

 
   
(はやし まさゆき  県立桜陽高等学校教員)