所員レポート
 三つの評価システム導入について
(人事評価・学校評価・生徒による授業評価)

                                        池 田   弘

 はじめに

 人事評価・学校評価・生徒による授業評価の三つの評価システムが2005年度には全国的に位置づこうとしている。
 この三つの評価システムは、 セットで導入することが企図されたものではない。 特に人事評価と後の学校評価および授業評価は導入しようとした契機を異にする。 人事評価は 「勤評」 とその後の 「主任制度」 とかかわりが深い。 学校評価は、 学校運営にPDCAの経営手法を取り入れ、 地域に根ざした学校づくりや外部の意見や提言を聞く機会として立ち上げられた学校評議員会の外部評価を取り込むことで、 学校の活性化と教育の質の向上を目指し、 説明責任を果たせる学校経営を行う発想からでてきたものである。
 授業評価は大学の危機という問題提起と少子化による大学の経営危機に対応する大学ならびに教師の危機意識が生み出した対応策の面があり、 92年度では38大学が授業評価を始め、 東海大学は、 93年から全学部で学生による授業評価を始めた。 2000年度に学生の授業評価を実施した大学は国公私立合わせて451校にのぼり、 全体の約 7 割をしめるまでになる。 高校では92年に正則高が生徒による 「授業点検」 を始めた。 教育行政が最も早く試みたのは高知県である。 高知県は1997年度から、 児童・生徒による 「授業評価システム」 を全公立小中学校に導入し、 翌98年度からはすべての県立高校にも広げた。
 この三つの評価システムのうち現場で先行していたものが授業評価である。 個々の教師が個人的にやっているものを含めて考えるとかなり古くから試みられていたものである。 大学での広がりも個々の教師に負うところが大きい。 そういう意味で権力的でない施策ではあるが、 小中学生に客観的な授業評価ができるか疑問だという評価能力を問う姿勢はむしろ教育行政側にあったほどである。
 それでは、 三つの評価システムを先行的に導入していった自治体の具体例を追いながらその特徴をみてみよう。

 1. 「人事評価システム」 について

 「人事評価システム」 では2000年 4 月に、 東京都が全国に先駆けて 「能力開発型人事考課制度」 として実施した。 01年には三重県が管理職を対象に 「能力開発型評価制度」 を試行し、 香川県は 「人事評価制度の見直し」 を実施した。 02年度には埼玉県が管理職を対象に、 「自己申告制度」 を実施し、 大阪府は 「教職員の評価・育成システム」 を試行し、 03年度からは神奈川が 「教職員の新たな人事評価システム」 を実施し、 広島県が 「新たな人事評価」 を実施した。
 文科省は、 00年度に 「指導力不足教員に対する人事管理システムに関する調査研究の実施」 を16の教育委員会に委嘱し、 01、 02年度にはすべての教育委員会に委嘱した。 02年度 9 月現在で15の教育委員会が人事管理システムを導入し、 文科省は03年度中にすべての教育委員会が速やかに人事管理システムの運用を取り入れるよう指導に入った。
 人事評価というと、 誰もが 「勤務評定」 のことを頭に浮かべ、 「勤評闘争」 とその後の経過を思い起こす。 神奈川県の勤務評価は、 「勤評闘争」 の結果、 1959年〜1998年まで、 「勤評神奈川方式」 と呼ばれる、 管理職の評価を伴わない自己記述方式 (教職員本人が記入し、 校長の評価を伴わない) で行われていた。 他の自治体でも日教組を中心とする 「勤評闘争」 (1956から1958年まで) の中、 1959年頃から自己反省記録の提出といった 「神奈川方式」 「長崎方式」 などの妥協的方策が模索され、 反対闘争はしだいに鎮静化していき、 新人事評価システムが導入されるまで勤務評定を昇級・昇格の理由にしない傾向が全国的に確立していった。
  「人事管理」 はその後、 71年の中教審答申から 「五段階賃金制度」 や 「任命主任制」 という形で再度登場した。 しかし、 給与改善を伴う 「五段階賃金制度」 は 「人材確保法」 での給与改善で終わり、 主任制度は 『学校教育法施行規則の一部改正する省令』 で法的に成立したが、 教職員組合側は主任制阻止・撤回闘争、 更に、 主任手当拠出闘争という動きをとった (1) 。
 1) 人事評価で文科省に先行する東京都
 三度目に、 文科省が 「人事管理システム」 導入の指導をおこなう00年度より前の94年 3 月、 都議会は、 職員給与条例の改正を行い、 同年12月から、 東京都の公立学校の校長と教頭を五段階の勤務成績に評定し、 勤勉手当への成績率の導入を実施した。 これは、 その評価の低い者の手当から一定の金額を差し引き、 評価の高い者へ増額するという方法で、 勤務成績を勤勉手当に反映させるというものであった。 こうした制度は国や他の地方自治体においても採用されているが、 財源はそのままで、 一方の職員の手当を削って他方に増額するという東京都のような方式は全国的に例を見ないといわれている (2) 。
 また、 94年 6 月、 東京都は、 本来の特別昇給が 「勤務成績が特に良好な場合に措置するものである」 はずが、 「現状は必ずしも制度の趣旨に沿った適正な運用が行われているとは言いがたい」 とし、 運用の適性化を図る新方式を決定し発表した。 これは、 校長に 「過去 1 年間の勤務成績が極めて良好な者」 「特に良好な者」 を特別昇給予定者数より多めに推薦させ、 都教委が推薦された者の中から不適格者をはずし、 「調整」 を行うというものであった。
 都の人事管理は業績評価制度および自己申告制度からなっている。 86年に一般行政職員に導入されていたが、 95年には、 教育管理職にも、 従来の勤務評定制度にかわって適用され、 業績評定が勤勉手当だけでなく人事異動、 昇任昇給等にも適用される。
この評定システムは、 年度当初に校長・教頭が、 学校経営及び教職員の指導監督等について目標を設定し、 「自己申告」 する。 都教委はこの制度を管理職だけでなく教員にも導入する意向を示していたが、 1999年に石原慎太郎氏が都知事になると、 「東京から日本を変える」 の檄の下、 東京都の 「教育改革」が一挙に加速し、 99年の12月に導入を強行し、 就任の翌年の 4 月から教職員の人事考課制度が導入された。 全国で教育改革を推進するに当たって、 もっとも教職員の抵抗感のある人事評価を全教職員に導入する方式をとったのが東京である。 各教委段階では教員の人事管理システムとしての 「人事評価システム」 を真正面から取り上げる姿勢にはためらいがあった。 しかし、 東京都の 「人事考課制度」 のようなストレートな導入は、 人事評価システムにためらいがちな各県にも影響を与えるだけでなく、 文科省にも、 中教審の姿勢にも影響を及ぼしている。
 東京都の人事考課は 「昇給等に適切に反映させます。 また、 教育職員の資質能力や適性などを把握して、 昇任や適材適所の校内配置・異動を行うためにも活用します。」 (教育職員の人事考課制度のパンフレット:東京都教育庁人事部人事計画課) と明言している。 神奈川県の場合も、 「評価結果については、 教職員の資質能力や意欲の向上を図り、 また、 能力と実績に応じた公正な処遇を行うため、 研修等の人材育成や適材適所の人事配置に活用していくとともに、 評価結果を蓄積して人事・給与上の処遇へも活用していきます」 (教職員の新たな人事評価システムのあらまし) と、 ほぼ東京と同じ利用方法を示している。
 これまで、 教員評価を制度化する目的は教員のモラールアップ等の資質向上にあるとされてきたが、 東京に代表される新たな人事考課の具体的施策は、 評価結果を教員の処遇に反映させることで明確に教員の能力・実績をランク付けする手続きであることを示している。
 2) 「指導力不足教員に対する人事管理」
 文科省は、 人事評価システムの導入について、 「平成15〜17年度の間において、 可及的速やかに教員評価システムの改善を図るように、 各都道府県教育委員会等を指導 (3)」 するとした。 その根拠として、 98年の中教審の 「今後の地方教育行政の在り方について」、 99年の教育職員養成審議会の 「要請と採用・研修との連携の円滑化について」、 00年の教育改革国民会議報告の 「教育を変える17の提案」 をあげ、 「指導力不足教員に対する人事管理」 と 「人事評価システム」 の導入を指摘している点をあげている。
 文科省は 「人事評価システム」 を 「指導力不足教員に対する人事管理システム」 として、 平成12年度には16教育委員会に委嘱し、 「平成15年度中には速やかに人事管理システムの運用を開始するよう、 各教育委員会等を指導」 したとしている。
 しかし、 都が導入した人事考課制度は、 文科省の 「指導力不足教員に対する人事管理」 とは制度的に異なるもので、 教育公務員制度を行政職構造 (縦構造) に変更する意味を持っている。
 都教委は、 指導力不足教員に関する人事管理について、 91年度から 「教員に係わる人事上の配慮に関する要綱」 により、 対象となる教員を配当対象外とし、 校長、 教頭、 主任等による計画的指導を行い、 「指導力不足と精神・神経系疾患の教員に最長 3 年間の研修を課し、 改善がなければ退職を求める制度 (4)」 とし、 さらに、 97年の 「指導力不足教員に関する要綱」 では 「原則として 1 年を単位として 2 回まで更新」 できるとし、 教育長の答弁でも 「長期にわたって研修するということではございませんで、 一定の期間経過した段階では、 研修の成果を見て一定の判断を下さなければならない」 としている。 このように 「指導力不足教員への対応」 においても都教委が先行する中、 00年度からは都教委は 「人事考課制度」 を実施している。
 神奈川県では、 99年に県職員の体系的・総合的な人材育成の推進をはかるために策定された 「人材育成マスタープラン」 をうけ、 01年 4 月より一般行政職で新たな人事評価システムを実施し、 県教委は、 00年教職員人事制度研究会を設置し、 教職員を対象とする新たな人事評価システムの検討をはじめた。 その報告をうけた県教委は、 03年 4 月に完全実施し、 文科省の委嘱を受ける前に東京についで先行的導入を図った。
  「指導力不足教員への対応」 については00年に 「指導力不足教員への手引き」 を配布し、 各校長に対して具体的な対応を求めた。 01年の 「地教行法」 の改正を受けて、 「指導力不足教員の取扱いに関する要綱」 を制定したが、 人事評価システムの導入が東京に次いで早々と導入したのに対して、 「指導力不足教員への対応」 では 「手引」 が校長に配布されただけで、 現場の教職員にその中身が十分には知らされていない。
 文科省から各教育委員会に 「教員の人事評価制度」 および 「指導力不足教員に関する人事管理」 について検討するよう依頼したのを受けて、 各教育委員会は 「指導力不足教員に関する人事管理」 の整備に取りかかった。 03年 9 月に文科省は 「指導力不足教員等の人事管理に関する各都道府県・指定都市教育委員会の取組状況について」 を公表している。 47各都道府県・12指定都市教育委員会を対象に調査した結果は、 すでに実施しているが47、 今後予定しているが12、 未定 0 という。 また、 「指導力不足教員に対する措置等の状況」 で、 認定者総数は以下のとおりである。 (2003年 9 月 1 日現在)
また、 表が示すように、 年々認定者数が増加している。 文科省の指示で各教育委員会が急速に対応したことがうかがえる。
 3) 「人事評価システム」 と 「教員免許更新制度」
  「人事評価システム」 と係わりのあるものに 「教員免許更新制度」 がある。 「教員免許更新制度」 には、 教員として適格であるかどうかを判定するシステムを構築し、 その判定に基づいて、 免許を更新する制度を導入しようとする意図がある。 「教員の資質向上をめぐって」 の判定は 「人事評価システム」 の側面を持ち、 「教員の適格性の確保のために」 の判定は、 「指導力不足教員に関する人事管理」 に通じている。
「教員免許更新制度」 を中教審に諮問したのは、 町村文相時代で、 「指導力不足教員に関する人事管理」 や 「人事評価システム」 に、 教員免許の総合化・弾力化を持たせるだけでなく、 問題教員を 「教員免許10年更新制度」 で辞めさせるという総合的教職員人事評価システムを構築しようとしたものであった。
 しかし、 部会案では 「現時点におけるわが国全体の資格制度や公務員制度との比較において、 教員にのみ免許状取得後に新たな知識技能を修得させるための研修を要件として課すという更新制を導入することは、 なお慎重にならざるを得ないと考えられる」 という判断が出され、 更新制導入を当面見送ることになった。 その辺の事情が、 初等中等教育分科会教員養成部会第 7 回部会の議事録からうかがえる。
 第 7 回部会では、 都教委の教育長で副部会長と都教育庁の理事が出席し、 東京都の人事考課制度の説明を受けた後、 委員から教員免許更新制度と人事考課制度とのかかわりについて、
教員の資質向上につき、 更新制を肯定する意見と、 教員評価制度を確立して対応する意見と 2 つの流れがある。 都の人事考課制度について聞いた結果、 人事管理制度と現行の研修制度の充実で教員の資質向上はかなり達成させることができると考えた。 あえて更新制の導入は必要ない。
更新制導入には賛成だが、 都のような人事考課制度が十分機能すれば必要ないような気もした。 しかし一方で、 この制度がある程度成熟し、 硬直化したときに問題がでてくるだろうとも考える。
都は複数の制度を総合的に実施することで資質能力を向上させる発想である。 教員の実践的指導力の育成を重視し、 決して排除に立つべきではないとしている。 また結果のみではなくプロセスの評価を全面に取り入れている。
評価と研修制度は車の両輪である。 更新制をあえて今やる必要性はないが、 今のシステムのままで評価を行っても成功しないだろう。 免許の上進が評価にリンクするような処遇、 給与の改善や、 条件附き採用期間を 3 年程度に延長するなどの、 全体的な制度の見直しを図りながら評価と研修を機能させていくスタンスで議論を深めたい。 (5)」
 長年にわたる文科省の教員に対する 「人事管理」 への執念は、 東京都が一挙に推進した指導力不足教員への対応と人事考課制度の導入で、 教員免許更新という方法をとらなくても実現できるという情勢のなか、 公務員制度全般のバランスに問題を持つ教員免許更新制度の撤退がなされた。
 残された主任制度も、 東京都の 「主幹制度」 の導入によって実現する。

 2. 学校評価システムについて

 教員免許更新制度の可能性を探っていた初等中等教育分科会教員養成部会第7回部会の冒頭、 「この教員評価の制度(人事考課制度)には、 子供の基礎学力や成績の向上という視点が含まれていないようである。 その教員の授業がわかりやすく学力がつくかどうかを子供たちに聞くべきであると考える。 また、 都の学力調査や外部からの査察により学校全体の教育力を見るといったことをしているのか」 という質問がなされている。
 それに対し 「この制度を導入する時点では、 子供の学力低下の問題はまだ表面化しておらず、 いじめ、 不登校、 学級崩壊等が問題であった。 この解決には子供に直接接する教員の資質向上が欠かせない。 都では 『生きる力』 こそを学力と考えている。 もちろん基礎学力もおろそかにしてはいけないが、 それについては別途調査研究を進め、 国とは別に到達度の調査をするつもりである。
 学校全体の評価のために国で学校評議員制度がとられており、 都立には学校運営連絡協議会が設置されている。 今年度はその全校での設置を目指し、 そこで外部からの評価が学校ごとにできるよう進めている。 またマネジメントシステムによる学校評価等も検討中である。」 と回答をしている。
 また、 文科省が、 98年、 中教審の 「今後の地方教育行政の在り方について」 において 「学校評議員制度を創設する」 ことを提言し、 この方向を受けて各県段階では学校評議員制度の導入の取り組みを始めるが、 2000年の 6 月19日の教育課程審議会第 9 回総会で、 小島専門調査官が 「教育課程の実施状況等から見た学校の自己点検・自己評価の在り方について」 のなかで、 「学校評価の基本的な考え方」 を説明して、 東京都での戦後の学校評価の歩みと都教委の取り組みを紹介している。 特に都教委が文部省の出した中学校、 高等学校学校評価の基準を基に 「学校評価基準試案」 を作成し、 65年3月の教育課程の改定に伴って 「学校評価基準の手引」 を示したが、 学校評価は公立小学校に定着せず、 低迷を続け、 75年に入って、 経済界で盛んに言われるようになったPDS理論などを学校評価に取り入れ、 81年11月に 「東京都公立小学校学校評価基準」 という現在の評価規準の原型となった経過を説明した。
 さらに、 PDS理論に基づいて、 A表 (教育課程の編成と実施に関する評価)、 及びB表 (教育課程の編成と実施を支える諸条件に関する評価) の両面について、 教職員の教育活動や学校経営へのかかわりを中心に構成して評価するようになったことを説明するなど、 都教委が中央の審議会でイニシアティブと先行性を示している。
 1) 東京都の学校評価システム
 2000年 4 月、 文科省が学校教育法施行規則を改正したのを受け、 各教育委員会は学校評議員制度の導入をはかった。 2000年12月、 教育改革国民会議は 「教育を変える17の提言」 を行い、 外部評価を含む学校評価制度の導入を提言し、 2002年には文科省は初中教関係の学校が、 自己評価を推進するため、 小学校設置基準等の省令に学校に自己評価及びその結果を公表することに努めることを規定した (同様の規定を中学、 高校、 幼稚園の設置基準にも整備した)。
 各教育委員会では中教審等によって矢継ぎ早に出される教育改革を踏まえて 「教育改革総合プラン」 をまとめ、 公表するところが多くなっている。 特に 「確かな学力の向上」 とか 「分かる授業」 など、 教育の質の向上をめざし、 開かれた学校の実現をめざすものが多い。 その中に学校評議員会の設置と学校評価の導入がある。
 学校評価においても先行する都教委は全国の各教育委員会が 「学校評議員会」 を設置しているのに対し、 2001年に 「学校運営連絡協議会」 を設置する。
 東京都の学校評価システムの内容は、 全国的に進められようとしているものと異なり、 「教育委員会が、 所管の公立学校を評価・検証し、 公表していく仕組みを体系的に整備し、 実施する」 という方法をとり、 「我が国でもあまり例を見ない」 と自認する自己評価システムである。
 都教委が目指した学校評価システムは 「都立学校評価システム検討委員会一次報告」 で示されているように、 「組織的な学校経営基盤の下」 で 「◎組織的な学校運営◎開かれた学校づくり◎マネジメント・システムの導入◎校長裁量権限の拡大」 を目指し、 徹底した学校経営システムを重視したプログラムで 「主な改革 (H10)管理運営規則の改正、 (H10)企画調整会議、 (H12)人事考課制度、 (H13)学校運営連絡協議会、 (H15)主幹制度、 (H15)学校経営計画、 (H15)自律経営推進予算、 (H14・15)教育課程の弾力化、 (H15)異動要綱の改正 など」 を推進してきた。
 他の教委がわずかながらでも教育的な立場からプログラムを組もうとしているのに対し、 都教委は教育的立場を差し挟まず、 徹底的に経営論に立って組んだと言えそうである。
2) 学校経営計画の下の学校評価システム
 人事考課制度を導入し、 主幹制度を位置づけることで 「組織的な学校経営基盤」 ができ、 組織的な学校運営のもと、 学校長のリーダーシップによるマネジメント・システムを導入した 「学校経営計画」 で、 自律経営推進予算 (学校の財務状況を明らかにし、 費用対効果の分析に資するため、 各学校別にバランスシートを作成)、 教育課程の弾力化、 異動要綱の改正 (すべての校種において、 勤務年数 6 年で異動させる) に基づく人事異動を行い、 校長がリーダーシップを発揮し、 組織的取組を進めるため都教委の関係各部が横断的に総合評価を行い、 この評価に沿って学校の支援及び指導を行うというものである。
 この徹底した経営システムの下で運営される学校運営に、 外部評価は学校運営連絡協議会の外部評価を取り組むという限定的なものに限り、 広範な 「外部評価」 は、 経営の一貫性を阻害する要因として学校評価における 「外部評価」 を見送ったとも考えられる。
  「開かれた学校づくり」 の観点からみた東京の学校評価システムは、 学校は保護者や地域住民との双方向のコミュニケーションや共通理解を得る方向より、 都教委の学校経営のマネジメントプログラムの下で、 すべての学校が自己評価を、 最終的に 「学校経営報告」 (「学校経営計画」 の取組を評価・公表する報告書) に集約され、 ホームページ上に公表し、 さらに次年度の学校経営計画にどう反映させたか、 「学校経営計画」 の取組も公表されるというものである。
 保護者等の外部評価を導入した場合は、 学校運営や学年指導、 生活指導さらには教科指導に直接的に外部評価が寄せられる。 それを関係各部署が分析し、 自己評価との乖離をどう判断し、 どう対処したか個々の課題に対して説明責任を負うものになるが、 都教委は施策に対して包括的な説明責任を負うという各学校への指導に自信をのぞかせたものになっている。

 3. 生徒による授業評価について

 東京都は、 02年11月、 教育サービスの質を向上させるためマネジメントサイクル (PDCA) の仕組みを用いた 「学校経営計画」 を全都立高校 (03年度207校) 及び全都立盲・ろう・養護学校 (56校) に導入すると発表した。 また、 03年の 5 月には、 「生徒による授業評価」 を都立高174校に試行、 04年度からを全都立高校に導入すると公表した。
  「生徒による授業評価」 は、 既に高知県で1997年度から、 1998年度までに児童生徒による 「授業評価システム」 を全公立小中学校約450校に導入することになり、 翌98年度からはすべての県立高校にも広げた。
 各教委ではまだ具体的な取組について公表していないほうが多いが、 既に何らかの検討に入っているようで、 各県の教育改革のプログラムや改革構造図の中に 「生徒による授業評価」 の文言が入るようになってきた。
 1) 「生徒による授業評価」 導入のスタイル
 既に導入している高知県や学校段階で導入している学校、 私学などの導入スタイルは 「学力向上」 「授業改善」 「楽しい授業」 「人材育成」 「研修システムの再構築」 などの教育目標の実現を目指して導入してきたのに対して、 東京都や福岡県はISOの 「標準化」 システムのPDCAのマネジメントサイクルを行政全般に標準規格として導入し、 教育のソフト分野も繰り込もうとしている。
 人事評価システム、 学校評価システム、 そして授業評価システムをPDCAのマネジメントサイクルのもとに業務の展開を行い、 教員の質の向上、 教育サービスの向上改善、 説明責任を果たすというものである。
 早い段階で導入を進め、 定着させるのに苦心した高知県も、 私学も、 個人的な試みにも授業評価システムを定着させるにはPDCAマネジメントサイクルを取り入れる必要があるという点では一致している。
 2) 高知県の 「生徒による授業評価」
 高知県は 「生徒による授業評価」 の嚆矢県として、 そのとりくみに苦労したようで、 2003年 4 月、 高知県教育委員会高校教育課は 「まなび21プラン (県立高校学力向上ののためにの 5 ヵ年計画)」 発表し、 「授業評価システムの効果的活用」 という資料をまとめている。 その 「授業評価システムはなぜ定着しなかった?」 (資料2-1)では、 「効果への疑念」 「周知, 理解不足」 「評価方法自体の未発達」 「システム化されていない」 「教員の意識+」 「教員の意識―」 「自由意思」 「管理職の姿勢」 「反権力・県民性」 にわたって反省事項をあげている。
 その中で特に、 「システム化されていない」 の 「やりっ放し・形式は整ったが深まりがない・公開授業、 合評会等と関連させていない・統計処理、 データ分析の能力、 分析力が未発達・県教委のアフターケア不足・指導計画、 シラバスとの関連で評価できない・授業改善にいたるシステムになっていない」 という指摘は、 実際に実施した結果の反省として納得のいくものがある。 また、 「授業評価システムを定着発展させるには」 (資料2-2)では、 「授業評価の質的向上」 「体制作り」 を上げ、 最後に 「北風と太陽」 政策が挙げられているのが興味深い。 「北風」 では 「学校の説明責任としての授業評価」 として、 「強制力:アカウンタビリティー」 で 「学校評価の中に組み込むことにより、 全員実施体制に持ちこむ・県教委、 管理職からの上意下達で実施することも必要」 と指摘している。 県教委の担当者としての苛立ちが伺える。
 高知県の特徴としては、 生徒による授業評価を全県レベルで、 公立の小中高すべてで行っていることである。
 3) 東京都の生徒による授業評価
 東京都は03年度に 「生徒による授業評価」 を試行し、 04年度から全都立高校において実施することになった。 その趣旨は授業改革の一環として、 教員の指導力の向上や授業改善を図るとしている。 評価票、 評価結果の集計や分析方法、 実施時期は各学校が定めるとしている。
 都教委は04年度導入を前にして、 全都立高校における 「生徒による授業評価の実施について」 という52ページにわたる冊子を作成している。
 導入の意図で、 「学校経営計画の実施、 人事考課制度や主幹制度の導入など、 様々な高校改革を行ってきました。 しかし、 これらは学校の枠組や制度、 システムの改革です。 学校における教育活動の根幹は授業であり、 生徒にとってわかりやすい授業や興味・関心に応じた授業を作り上げることが教員の使命であり、 魅力ある都立高校作りの基本です。」 と説明している。
 東京都が一連の教育改革を推進してきたスタイルは学校経営システムの改革と教育活動の中心となる授業改革とを分離する方式のようである。
 経営論と教育論を峻別する方式は今後の学校運営の中にも波及しそうである。 さらに、 「目的と期待される効果」 では 「指導力の向上や授業の改善を図ることを目的として行うものです。 生徒からの評価そのものがねらいではなく、 評価結果を基に校内研修を行い、 組織的・計画的に授業改善に取り組み、 教員の資質向上を図ることを意図」 しているとし、 校長のリーダーシップの下、 人事考課制度に支えられた 「主幹制度」 の主幹と実務リーダーの主任が中心なった学校経営で、 組織的かつ計画的に校内研修及び授業改善が行われるというわけである。 高知県では、 支えるシステムがなかったことが定着しなかった理由であると述べている。
 4) 授業評価の調査結果の扱い
 授業評価が 「教員の業績を評価することを目的としたものではありません」 「教員の業績評価は校長の権限と責任において行われるもので、 生徒は教員を評価する主体にはなり得ません」 としているが、 多くの教員は生徒の評判が業績評価になることを懸念している。
 人事考課の業績評価との係わりについて、 「それらの意見は管理者として責任ある立場から行われたものではなく、 また、 教員の教育活動全般にわたったものではないから、 教員の評価を直接問うなどして業績評価に直接連動させるのではなく、 主として教員の授業等の改善のための参考意見として活用すべきである」 『これからの教員の人事考課と人材育成について』 平成11年 3 月を引用して、 「生徒からの評価結果が教員の業績評価と直接結びつくものではありません」 (「(2)自己申告の活用」) と断わっている。
 一方、 新聞報道では、 日比谷高校の校長が、 取材に応じて、 人事異動などに使われる可能性を否定しない。
 
 4. 三つの評価システムとどう向き合うか?

 三つの評価システムのもとに置かれた教員が、 教育現場で、 教師としての教育理念を保持し、 自己の教育活動に対し、 直接生徒及び保護者に責任を負える態勢を守れるか?また、 現状及び今後の教育が置かれる体制の下で、 各教員及び職員団体がどう対処していったらいいのかを考えたい。
 1) ピラミッド型組織と学校組織
 組織はその組織存立の理念があって、 その組織を運営するまたは経営するスタッフをピラミッド型に構築し、 トップの方針を有効かつ迅速に実行することを理想とした。
 ピラミッド型組織は方針なり、 目標なりが上意下達の形で、 命令、 指令、 伝達されることで運営される。 その典型が軍隊であり、 官僚組織である。
 ほとんどの組織がピラミッド型組織であるのに対し、 学校のみが例外的な存在であった。 学校がピラミッド型の組織になることを阻んだものは戦前の天皇制教育と軍国主義教育に手を染めたことへの深い反省が背景にあるのと、 企業は営利目的の下、 株主と会社の利益を上げることが最優先され、 官僚組織は政治的に決断された政策を忠実かつ有効、 迅速に実行するために、 ピラミッド型組織を必要とした。
 学校は国の教育政策及び地方議会が決定した教育施策を 「忠実かつ有効、 迅速に実行する」 責務を負う点では官僚組織と基本的には変わらないが、 学校は児童・生徒の教育活動に直接係わり、 特に教員の主要な教育活動は授業であり、 それは教員個々の人格、 個性、 知識、 教養等の個人差に負う所が多い。 学校現場では年度当初、 担任発表で保護者は自分の子どもの担任に若い教員があたることを好意的に見ていた。 同様に児童生徒もより近い時代感覚と若々しさは魅力であった。 また、 授業やその他の教育活動では年齢や経験を超えた個々の教員の魅力によって支えられ、 クラス担任になれば、 「一国一城の主」 という意識が働いた。 それが今日、 「教員の独り善がり、 お手盛り」 などという批判の対象となった。
 また、 昔も今も生徒・保護者に魅力がない教員もいたし、 「はずれ」 て、 がっかりしたという話はよく聞いた。 そんな学校現場の特殊性が学校組織を 「横の組織」 に組み上げ、 「合議制」 で教育活動を決めていくシステムが長く機能してきた。
 2) 人事管理システム下での学校業務
 戦後、 60年近く続いた、 この学校組織が、 「縦の組織」 になろうとしている。 東京都の 「人事考課制度」 のもと 「主幹制度」 の主幹が配置され、 さらに新たな学校運営組織の主任が加わり、 校長、 教頭(複数教頭も)、 主幹、 主任の多重命令系統は、 まさにピラミッド型組織といっていい。
 教員はまず教科の年間指導計画 (シラバス) を作成するため、 学校目標及び目標の具体的手立てに沿う指導計画の調整と観点別評価基準策定を同じ教科担当と行い、 指導項目と指導内容を決めたシラバスを作成する。 教科主任が教科のシラバスを点検して、 学年担当主幹がチェックして、 教頭に提出する。 教頭段階で書き直しを求められたり、 さらに校長に提出し、 校長から呼び出され、 訂正を求められることもある。 学校によっては教科指導に数値目標を立てるように求められる。 チェックの段階では、 前年度の生徒による授業評価による課題をどう克服したか。 どう工夫しているかがチェックされる。 学年では、 学年担当主幹が教頭、 校長と連絡を密にし、 事前に学年主任を呼んで、 年間指導計画及び自己目標の設定などについて指導が行われ、 学年主任は学年会でまとめ役となって学校目標及び目標の具体的手立てに沿う学年全体の指導計画を立て、 それに沿って学年の業務分担ごとに具体的な指導内容を決め、 到達目標や数値目標を決める。 さらに、 前年度の学校評価で立てた自己評価と結果報告書との関連で、 目標設定にどう生かされているか、 主幹の指導が入り、 主任がどう調整したかが問われる。
 校務分掌では、 担当分掌主幹は教頭、 校長と連絡を密にし、 校務分掌の主任と事前の打合せを行い、 校務分掌会議を開き、 主任の下で学校目標及び目標の具体的手立てに沿う分掌全体の指導計画を立て、 それに沿って分掌の業務分担ごとに具体的な指導内容を決め、 到達目標や数値目標を決める。 学年同様、 前年度の学校評価で立てた自己評価と結果報告書との関連で、 目標設定にどう生かされているか、 主幹の指導が入り、 主任がどう調整したかが問われる。 以上は 3 月、 4 月での作業である。
 授業が始まると、 まず、 最初の授業で科目の年間授業計画をシラバスを使って説明すると共に、 生徒の最も気にする評価、 評定の基準となる観点別評価基準を説明し、 生徒の個々の学習目標などを立てさせるとともに、 生徒の要望も聞く。
 クラスではクラス担任が学校年間行事予定及び学年の行事予定及び学年の重点的な目標やクラスでの担任の目標などについて説明し、 クラスでの話合いを行う。
 前期においては、 学年担当主幹は教頭、 校長と連絡を密にし、 学年主任を指導する形で、 学年での在籍関係、 成績処理業務、 学年行事、 生活指導等学年に係わる校務全般について、 学年の業務担当教員が業務を齟齬なく遂行するよう指示し、 事前のチェックを行う。 また、 学年業務担当の自己評価をチェックして、 業務内容に対する取組みについてアドバイスし、 結果報告書に成果が問われるようなことがないよう指導監督する。 学年の各業務担当からの結果報告書をまとめ、 学校運営連絡協議会に報告し、 ホームページ上公表できる状況にする。
 また、 学年担当主幹は教頭と共に 「生徒による授業評価」 の調査実施及び集約、 分析に当たり、 教科主任と学年の教科担当とで学年での研修計画及び研修の実施、 課題を抱える教員へのフォローや教材作成等の指導監督にあたる。
 前期においては、 校務分掌担当主幹は、 教頭、 校長と連絡を密にし、 校務分掌主任を指導する形で前期における担当校務分掌の業務展開をチェックして、 業務を齟齬なく遂行するよう指示する。 また、 分掌の業務担当の自己評価をチェックして、 業務内容に対する取組みについてアドバイスし、 結果報告書に成果が問われるようなことがないよう指導監督する。 分掌の各業務担当からの結果報告書をまとめ、 学校運営連絡協議会に報告し、 ホームページ上の公表内容を作成、 校長の許可を得てホームページへアップロードする。
 校長は毎月 1 回、 教頭及び事務長及び全主幹を招集し、 経営会議を開く。 その席上、 学年担当主幹から授業のシラバスの状況と課題、 学年での授業展開と授業の状況及び課題、 また課題に対しては教頭とどう協力して対処したか、 さらに学年業務の自己評価の状況と課題への対応等の報告を受け、 経営上の課題や見通し、 改善策等を明確にする。
 各主幹は経営会議の内容を各担当業務部署に持ち帰り、 経営会議の内容を報告し、 業務に関係する事項への取組みを行う。
 後期においても、 前期同様の取り組みを行う。
 学年末には、 教頭は各部署の主幹からの業務内容の経過と評価報告を受けて、 提出された自己評価と照合して人事評価を行う。
 3) 新たな学校組織の構築と逆ピラミッド型経営論
 新たな学校組織の視点は、 学校の組織の目的と責務を明確にすることから始まる。
@学校は、 子どもの教育を受ける権利を保障し、 その内容を生徒及び保護者に説明し、 学校はその目的を適正に果たしていることを設置者である機関及び主権者に明らかにしなければならない。
A学校はその目的と責務を果たす組織を構築し、 最も有効で適切かつ迅速に運営しなければならない。
 それでは、 学校の目的と責務を果たす学校の組織と運営はどのようなものか。
B子どもの教育を受ける権利を保障し、 その内容を生徒及びその保護者に説明する学校組織と運営とは、 子どもや保護者と直接接触する教職員が教育要求を適切に把握し、 教師集団の協力を得て、 有効で迅速な対応と具体的で無理のない適切な指導を行い、 その情報が直ちに生徒、 保護者に伝えられ、 管理職が把握できるようシステム化することである。
 そのシステム化とは、 その学校にあった教育情報システムを構築することである。
C各学校は情報システム室を設け、 情報管理者の指揮の下、 すべての学校業務内容を電子情報にし、 メインサーバーに集約し、 校内Lanを構築して、 教職員が作成したすべての情報が所定のフォルダに保存され、 情報管理者と教科、 学年、 校務分掌等の情報担当によって、 情報を整理し、 校内Lanで常時アクセスできるようにする。 また、 公表する情報はホームページにのせ、 生徒の個人情報は情報担当者の手で、 絶対に外部に漏れないセキュリティーフォルダに保存する。
各教科は教科のフォルダに科目ごとにシラバスを作成し、 シラバスの指導項目に従った教材 (共有教材、 個人教材の区別なく集録) にアクセスできるようにする。 シラバスは年度当初ホームページに掲載され、 生徒も保護者も常時アクセスでき、 教科の生徒の学習計画、 学習のポイント、 関連分野の教材及びリンク集も掲載して自学自習できるサイトにする。
 授業での新たな発想や生徒の反応から授業への問題意識や教材の工夫等を、 インターネット上での教材や資料の集録など教科メンバーが自発的に教科の資料の充実に努める。
 生徒による授業評価の集録結果を分析し、 教科指導の問題点と課題を整理し、 具体的な解決策やアドバイス (フォルダでの交流で) なども行う。 教科での研修についてはその取り組みと研修状況、 及びその具体的成果をまとめる。
 学年のフォルダには学年業務を年度ごとに業務分担の実務内容を集録する。 また、 学校目標の達成のための業務目標とそのプロセスを整理して、 生徒、 保護者の意見等、 職員の反省事項などを集録して記録する。 学校評価の調査結果の集約とその分析、 課題に対する対応策、 具体的手だて、 実行内容などを記録。 生徒による授業評価では、 学年での教科・科目での課題への対応、 具体的成果などを集録、 生徒、 保護者のそれに対する反応などもまとめる。
 校務分掌のフォルダには分掌業務を年度ごとに業務分担の実務内容を集録する。 また学校目標の達成のための業務目標とそのプロセスを整理して記録する。 学校評価の調査結果の集約とその分析、 課題に対する対応策、 具体的手だて、 実行内容などを記録。
 以上述べてきたことは、 どの学校でも取り組み方法や集録記録などにおいて違いはあるが基本的取り組みや業務内容には違いはない。 それでは何が、 新たな学校の組織と運営なのか?
 ここには、 命令系統システムが働いていない。 組織とシステムを整備した後、 教科担当、 科目担当、 学年担当、 学年業務担当、 校務分掌業務担当が担当業務に責任を持って実行し、 所定のフォルダに集録記録する。 さらに、 個々の教職員及び業務担当またはかかわりのある業務担当から提案、 具体策、 資料提供、 アドバイスを関係フォルダに載せ、 担当者はそうした内容を参考により良い業務を行う。
 学校業務全般を集録するサーバーは学校業務のターミナルであり、 業務担当は、 サーバーに寄せられた中身を参考により良い担当業務への取り組みを行う。
 この組織運営では中間管理職は存在しない。 教科、 学年、 分掌の主任はもしくは情報担当者はサーバーに寄せられた情報を整理整頓して利用しやすいフォルダを作成する。 また、 業務内容等でホームページに掲載するファイルに再構成し、 アップロードする。
 校長、 教頭は絶えずサーバーに目を通し、 業務を点検し、 不適切な内容や誤りを指摘し、 改善や新たな取り組み、 追加の取り組み、 アドバイス等必要に応じて、 担当者および業務担当全員、 あるいは職員会議で指示する。 完全な横の組織による運営である。

 5. 逆ピラミッド型マネジメントシステムとは

 東京都及び文科省が強力に推進しようとしている 「人事管理システム」 「新たな学校運営のあり方」 は、 現在の主任制度にかわり、 監督権限を持ち、 管理職の補佐機能を持つ 「主幹」 の設置であり、 学校運営組織の見直しである。
 主幹制度は決して新しい内容のものではない。 「改善の視点」 で 「学校運営上の問題点」 として 「教職員間に 『横並び意識』」 をあげ、 監督権限を持ち、 管理職の補佐機能を持つ 「主幹」 を設置する視点はピラミッド型の管理体制そのものである。
 しかし、 「ピラミッド型」 のマネジメントや管理体制は今日、 人々のニーズに応じる効率的で有効なシステムではないという考えが最近の経営学に広まっている。 ピラミッド型の命令組織の最たるものであるアメリカ陸軍ではピラミッド型組織を解体し、 新しい組織を模索している。 アメリカの企業においては 「フォード社」、 日本でも 「資生堂」 など、 行政では 「静岡市」 などが新しい組織論として、 「逆ピラミッド」 での組織の見直しを行っている。
  「従来のピラミッド型組織が機能しなくなった最大の原因は、 人々の生活に対するニーズのあり方が変化してきたからではないかと思う。 …中略… モノの大量生産、 大量消費が求められた。 そのために組織は労働の分割と細分化が必要となった。 次第に組織の規模が大きくなるにつれて分業間の調整が課題となってきた。 そこでその業務を監視し、 コントロールする中間管理職、 上級管理者が必要となった。 こうした流れでピラミッド型組織なる形態が誕生した。 簡単に言うと、 ピラミッドの頂点が計画し、 管理階層を通じて従業員はそれを実行する、 つまり経営者と労働者の分離である。 この形態は少品種大量生産が求められていた当時にはとても適していた。 しかし、 現代が近づくにつれ人々の低次欲求が充足されてくると、 人々の消費はどんどん多様化し、 多品種少量生産が求められるようになってきた。 これにより、 ピラミッド型の組織では、 企画立案をおこなう頂点が底辺から遠いために、 市場に近い現場の声が反映されにくく、 そのため市場の多様な需要を的確に把握することが困難になるのである。 また、 情報技術の発達により即時に大量の情報を処理することが可能になり、 階層的組織の必然性がなくなったこともピラミッド型組織が機能しなくなった要因の一つであると思う。 このようにして新しいタイプの組織が可能になり、 変化の激しい現代においては従来のピラミッド型組織と違い、 上下間の意思決定のスピードが速い新しいタイプの形態こそが求められているのである。 (情報化社会と人間形成)」
 この変化は教育分野においても同様で、 「画一と受身から自立と創造」 「個性と能力の尊重」 「個に応じた指導」 など生徒・保護者の多様な教育要求に応えることは 「市場の多様な需要を的確に把握すること」 と同じ現象である。

 6. 学校に合った学校組織と逆ピラミッド型マネジメントシステムの構築

  「生徒・保護者の多様な教育要求に応える」 学校づくりは、 必要である。 しかし、 現在の学校組織と運営方法で三つの評価システムを有効に機能させることは難しい。
 各学校は、 東京都のような主幹制度による管理体制の導入を待つのではなく、 三つの評価システムの導入に合わせてそれぞれの学校に独自の校内組織の見直しと学校運営システムを構築する必要がある。
従来の学校組織や学校運営はどの学校も似通った 「横並び」 のシステムで、 特に100校計画で新設校が次々と出来ていくなかで、 即戦力としての組織や運営に独自色を盛り込む余裕も有効性もなかった。
 100校計画が始まって30年、 多様な教育要求に応える学校づくりという新たな課題に向けた学校づくりは、 「横並び」 のシステムから、 地域、 保護者、 生徒の要請に応じた学校運営を可能にする新たに 「システム」 を構築する必要がある。 それぞれの学校が独自色を盛り込み、 生徒一人一人に応じた、 きめの細かい教育活動ができる新しいタイプの学校経営が求められている。
  「わかる授業」 「きめの細かい指導」 「考えさせる授業」 「興味を引き起こす授業」 「個々の生徒に応じた指導」 等々の教育活動を可能にするシステムは 「横並び」 の主幹制度ではなく、 生徒や保護者に密着した教員一人一人が同じ学校で課題を共有する教師集団と協力共同して、 スピーディに具体的対応策や柔軟な指導計画、 教材の開発等を実行する新たなシステムをつくらねばならない。 そのためには、 逆ピラミッド型のマネジメントシステムと新たな 「研修部」 の立ち上げが必要である。


        【註】
(1) 「主任制度と学校自治」 (高校教育制度と自治史研究会)

(2) 佐藤全・坂本孝徳編 『教員に求められる力量と評価《日本と諸外国》−公立学校の教員はどこまで評価できるか−』 P.77頁、 1996年
(3) 「指導力不足教員への対応と教員評価システムの改善」 (資料6-2)

(4) 清水義範著 「目からウロコの教育を考えるヒント」 講談社

(5) 初等中等教育分科会教員養成部会 (第7回) 議事要旨より


(いけだ ひろし 教育研究所事務局長)