アクティブラーニング型授業(AL型授業)を始めましょう!
〜「ハードルは低く、志は高く」の精神で〜


小林 昭文(産業能率大学)
 

はじめに
 私は埼玉県の公立高校を3年前(2013年3月)に定年退職しました。その直前の6年間は高校物理授業をアクティブラーニング型授業(AL型授業)に切り替えて実践し続けました(当時はアクティブラーニングという言葉もありませんでした…)。その結果、「居眠り皆無、成績向上、進度向上」などの成果があがりました。並行して、授業研究委員会の一員として研究授業や研究協議(振り返り会)の方法を改善して、組織的な授業改善についても様々な工夫をしました。退職後は産業能率大学教授、河合塾教育開発機構研究員などの仕事の傍ら、教育委員会や学校単位のAL型授業の研修会講師を毎年100回以上務めてきました。
 これらの、高校教員として自分の授業の開発実践の試行錯誤、「授業研究委員会」の一員として組織開発に右往左往した経験、研修会講師として全国の様々な状況を見聞きしてきた経験を基に、みなさんが、無理なく、楽しく、でも高いプライドと意欲をもって授業改善に進んでいけるような提言をすることにします。


「ハードルは低く、志は高く」
 全国を回っていると多くの先生たちが「アクティブラーニングってなんだか面倒そうだよね〜」「また、なんか難しいことやらされるみたいですね〜」とおっしゃいます。まずは、このハードルを低くしましょう。定義から考えていくことにします。京都大学教授・溝上慎一氏によると「アクティブラーニング」は次のように定義されています。
 「一方的な知識伝達型講義を聴くという(受動的)学習を乗り越える意味での、あらゆる能動的な学習のこと。能動的な学習には、書く・話す・発表するなどの活動への関与と、そこで生じる認知プロセスの外化を伴う。(溝上慎一2014)【出典「アクティブラーニングと教授学習パラダイムの転換」東信堂】
 要するに、書く・話す・発表することで生徒たちにアクティブラーニングが起きるということです。私たち授業者にとっては、この定義より「アクティブラーニング型授業」の定義のほうが重要です。その定義は以下です。「学習者にアクティブラーニングが起きることを含む全ての授業形式」(出典同上)
 実にシンプルです。溝上氏はこう補足します。「100%ワンウェイでなければAL型授業と言える」。では、「100%ワンウェイ」とはどんな授業でしょう?「50分間40人の生徒を微動だにさせず、話もさせず、黙々とノートを取らせ、先生は50分間しゃべり続けている」…そんなイメージです。「いやあ、私はチョーク・アンド・トークのワンウェイですから」と謙遜する先生でも「100%ワンウェイ」はやっていないと思います。ということは、実は、定義通りに解釈すると今まで私たちが見たり聞いたりしてきた授業はAL型授業だということになります。別の視点から言えば、「50分の授業の中で、40人のうちの1人A君に1分間アクティブラーニング起きた」としても立派なAL型授業なんです!
 安心していただけましたか?ただ、「じゃあ、今のままでいいんだ〜」というわけではないのです。世界中がこの30年ほどの間、授業改善や教育改革に躍起になっているのは、世界中の構造に大変化が進行しているためなのです。(図1)その大変化に大変化を続けてどうなっていくのか予想もつかない社会に生きていく次世代の若者たちを育てるには、「言わNo.79 2016. 3れたことだけを、言われた通りにやるだけ」の生徒を育てる授業では役に立たないということなのです。彼らが、主体的・協働的に学び成長し続ける大人となって、日本を支えていけるような授業を展開しなくてはいけないのです。それができたときに、私たち教師は「日本の未来を創る大きな仕事を達成した」と自慢できると思います。いずれ、そんな授業・教育を実践できる教師になりたいものです。それが「志を高く」持ちましょう、の意味です。


短い説明・長いワーク・必ずリフレクション
 具体的な授業の始め方のヒントです。私は図2のような授業をしていました。このパターン以外の成功事例もたくさんあります。多くの授業を見せていただくうちに、成功要素らしきものは見えてきました。まず、最初にお勧めしたいのは以下の3つです。

(1)短い説明
 そのために板書やプリントを活用することです。パワーポイントやKP法(紙芝居プレゼンテーション:詳細は検索してください)などを用いると板書をほぼゼロにすることもできます。説明が短くなると生徒が主体的・協働的に学ぶ時間を長くとれます。説明不足気味のほうが、生徒は意欲的になります。

(2)できるだけ長いワーク
 ワークをやらせる最大の狙いは「協働的な学び」が促進されることです。そうなるように適度に難しい課題と少々不足気味の時間設定が大事です。協働的な学びが行われるようになると、生徒の「主体的な学び」が促進されるという面もあります。最初は「1分間、隣の人と話し合って」くらいのワークから始めて、徐々に長くて複雑で難しいワークへと挑戦することをお勧めします。

(3)必ずリフレクション(振り返り)の時間をとる
 なるべくなら「態度目標※」を設定しておいて、それについて「目標に沿って話し合えましたか?気づいたことは何ですか?次の時間はどう取り組みたいですか?」などの問いを出して振り返らせることが効果的です。「内容目標※」についても「わかったことは何ですか?わからなかったことは何ですか?このあと学習してみたいことは何ですか?」などの問いを出して振り返らせると効果的です。
(※私は図3のように態度目標・内容目標を示していました)


ものすごい効果があった「質問で介入」
 グループワークを取り入れると効果的なのですが、こういう授業手法を学んだことがない先生たちにとっては、色々な局面でどうしてよいかわからなくなります。典型的なのが「せっかくグループにしたのに話し合わないグループがいる」場合と、「話し合ってはいるけど、余計な話ばかりで課題が進んでいない」場合です。私も苦労しました。苦労して、アクションラーニング(質問会議)という技法を参考に「質問で介入」することを試してみました。これが大きな効果をもたらしました。
 例えば、話し合っていないチームに行って「チームで協力できていますか?」と質問します。すると「あ、忘れていた。これからやります」のような反応があり話し合いが進みます。余計な話で盛り上がっているチームに行って、「確認テストまで、あと10分ですが順調ですか?」と質問します。「やべぇ、これじゃ終わんないよ。その話後にして問題解こうぜ」となります。この基礎理論は図4に示した「コルブの経験学習モデル」です。授業の最後のリフレクションもこれに基づいています。更に、このサイクルを回すには「安全安心の場」が必要です。先生を怖がっていては、振り返りも気づきも起きないからです。
 このあたりに気づいてから私は授業中に怒鳴ったり叱ったりを絶対にしないようにしました。批判・禁止・命令も避けるようにしました。大声を張り上げるような説明もやめました。その結果、私の教師としての態度も大きく変化することになりました。それら一つ一つが、「居眠り皆無・成績向上・進度向上」の成果に結びついたと思っています。
 その他の役に立ちそうなスキルを羅列しておきます。「ワークの指示をするときは必ず時間を指定する」「時間を守ってワークを終わりにする(そのためにも冒頭で授業のタイムテーブルを示しておく)」「話し合い(ワーク)を生徒が始めたら時間が来るまで先生は講義(雑談)をしない」「机間巡視の途中で内容に質問を受けたときになるべく答えない(1人に答えるとあちこちから同様の質問が出てくる)」「グループワークが苦手な生徒に無理強いしないで適切な個別対応をする」


成功のカギは「主体的な学び・協働的な学び」を促進すること
 学習指導要領に関する諮問の文章は次のようになっています。「……課題の発見と解決に向けて主体的・協働的に学ぶ学習(いわゆる「アクティブ・ラーニング」)や,そのための指導の方法等を充実させていく必要があります。……」
 つまり文部科学省が強く推しているのは「主体的・協働的な学び」です。「アクティブラーニング」だけにこだわると、「主体的ではないアクティブラーニング」や「協働的ではないアクティブラーニング」を目指す授業が出現するのではないかと危惧しています。
 特に「協働的な学び」の理解がなかなか進まない気がします。研修会でしばしば、「グループワークで問題を解かせるのは、最後は一人でやるのが大事だからですよね」と言われます。私はこれに対して「いいえ、最後に社会が求めているのはチームや組織に貢献できる社会人なのです」と答えています。私たち教師の大部分は旧(ふる)い時代の学校教育の優等生です。黙って聞きながら覚え、話を聞きながらきれいにノートをとって、よい点数を取ってきた人たちです。このプロセスには主体的な学びはあったと思うのですが、協働的な学びの経験は少なかったと思います。従って、生徒に協働的な学びの価値を伝えるのは苦手なのではないかと思います。ここを転換するためには、私たち教師集団が自ら「主体的・協働的な学び」を実践し体感し、価値を理解することです。
 ややもすると教師集団は上からの強い圧力で、主体的な学びも協働的な学びも実践されていない気がします。ここは管理職の皆さんにも意識していただくと同時に、教師集団が教科・学年等の壁を越えて協働的な学びを進めて行くことが必要だと強く感じています。


※参考文献:「アクティブラーニング入門(小林昭文著/産業能率大学出版部)」「アクティブラーニング実践(小林他著/同上)」「これから始めるアクティブラーニング導入&実践BOOK(小林昭文著/学陽書房)」「7つの習慣×アクティブラーニング(小林昭文著/産業能率大学出版部/近刊)」


執筆者プロフィール
 大学卒業後、空手のプロを経て、埼玉県立高校の物理教員として25年間勤務した。高校教諭時代にカウンセリング、コーチング、アクションラーニングなどを学び、高校物理の授業を「アクティブラーニング型授業」として開発し成果を上げた。
 現在は、産業能率大学経営学部教授として、アクティブラーニングの普及に力をいれている。