◇日時 11月14日 (土) 14:00より (13:30開場) 17:00終了予定
◇場所 TKP横浜ビジネスセンター7 F ホール7A (横浜駅西口)
参加費 無料
シンポジスト 安西 保行さん (前教育局長)
油布 佐和子さん (早稲田大学)
名古谷 隆彦さん (共同通信社)
◇主催:(一財)神奈川県高等学校教育会館教育研究所
◇共催:神奈川県教育文化研究所
【お問い合わせ】
(一般財団法人)
神奈川県高等学校教育会館教育研究所
〒220‐8566
神奈川県横浜市西区藤棚町2‐197
TEL 045‐231‐2546
FAX 045‐241‐2700
2014年に当研究所は18名の高校教員に対して聞き取り調査を行った。 2012年に行った教員の意識調査 (アンケート形式) を踏まえての聞き取り調査 (インタビュー形式) である。 項目は多岐に渡ったが、 そのなかで 「多忙化」 に関しての意見が多く出た。 教育研究所としては、 この 「多忙化」 の現実は大きな問題であると考え、 これは 「多忙化問題」 であると 「問題」 化した。
多忙化の原因はいろいろあるだろう。 しかし、 結果的に、 授業が蔑ろになっていること、 生徒とのコミュニケーションが減少している現実がある。 これは由々しきことである。
いくつか聞き取りの内容を紹介したい。
- 事務的な仕事に時間が取られて授業準備ができない。 (20代男性)
- 忙しい。 自分が学生の時は、 (教師は) 授業をやっているだけと思っていたが、 その裏でいろいろ仕事をしていることを実感した。 (40代男性)
- 仕事なので仕方がないのですが、 すごく忙しいということ。 直接、 生徒のためとは思えない仕事が多い。 事務とか会計とか…。 (20代女性)
- 臨任になって副担や部活の顧問 (吹奏楽で土日もあり) を担当、 なんでこんなに忙しいんだろうと思った。 授業の工夫が出来なくなり、 思っていたのとは違う。
仕事に追われる感じ。 (30代女性)
- 生徒と向き合う時間があると思った。 そのために先生になったのに。 何のために会議ばかりやっているのだろうと思う。 自分の軸においているのは授業。 でも、 授業の準備は家でやる。 (20代男性)
- 事務仕事が多い。 会議が進まない。 ルールがうるさい。 (やる人とやらない人の) 二極化も感じた。 (30代男性)
- ひたすら忙しくなった。 やることが増え仕事が増えた。 お腹いっぱい。 授業にかけられる時間が減った。 担任としての仕事も重たい。 保護者も5時までに連絡がつかず、
帰るのが遅くなる。 部活は相性がいい部活とそうでない部活がある。 (30代男性)
- 大事なものがずれてきている。 一番大事な生徒に気持ちが向かなきゃいけないのに、 地域の目とか外からどう思われるかを気にする。 事故はないようにするのが当然だが、 気持ちにも時間にも余裕がないから事故が起きる。 余裕があれば生徒に接することも出来るし、 事故が起こる様なことも無い。 人をフォローする気にもなる。 今は自分の事で精一杯。 (50代女性) etc.
この聞き取り調査結果を踏まえ、 7月の公開研究会で小・中・高校の様子を報告してもらった。 どこも超多忙な勤務状況の実態があった。 高校に関しては、
進学校も過当競争に巻き込まれ、 かつてのゆとりある学園風景はない。 これらの状況を放置することは今後の教育に大きな影響があると考え、 今回の教育討論会に結びついた。
当教育討論会では様々な分野の方から、 この 「多忙化問題」 を語ってもらうことにした。 単眼的な視点では解決できないからである。 ここにシンポジストの皆さんからメッセージをいただいたので、
それを記載したい。
安西保行氏 (前教育局長。 現在は、 神奈川県道路公社理事長である。)
昔に比べて、 教員はどうして多忙になったのか。 教員を取り巻く環境がどのように変化してきているのか。 それが教員の多忙化にどのようにつながっているのか。 それに対し教員、 学校、 行政はどのように対応してきているのか。 そういった視点で変化を取り上げ、 解決策を論じてみたい。 変化のいくつかを取り上げると、
○生徒の環境の変化
携帯、 スマホの普及により、 生徒間のやり取りがメール、 ラインになり、 生徒間の問題等が教員から見えにくくなった。
○保護者の変化
核家族化の進展、 地域コミュニティの希薄化等により、 子育て、 進学、 教育等の悩みや家族・家庭内の問題等について相談する人がいなく、 経済面などの家庭内の問題まで学校に持ち込まれるようになった。
○大学入試の変化
ペーパーテスト一発勝負の入試から、 推薦入試、 AO入試、 センター試験利用方式など多種多様に変化する中、 内申書のウェイトが大きくなり、 高校での成績処理の正確性が求められるようになった。
これ以外にも、 国・教委からの各種調査の変化、 企業の求める人材の変化、 生活困窮者の増加など、 社会の変化で教員を取り巻く環境は著しい。
名古谷隆彦 氏 (共同通信社社会部。 共著に 『大津中2いじめ自殺』 『ルポ 虐待の連鎖は止められるか』 などがある。)
教師の資質に対する要求は年々高まっているのに、 それに比して教育条件の整備は遅々として進まない。 多忙化の影響は教師だけでなく、 ひいては子どもたちにも及ぶ。 まじめな教師ほど 「子どもと関係ない仕事ばかり増え、 何のためにこの仕事についたのか分からない」 と悩みを深めていく。 多忙化の原因は、 度重なる会議や事務書類の処理の多さとも言われるが、 人によって原因の受け止め方は様々だろう。 現場を取材した経験から言えば、 仕事をしない同僚に対する不公平感が、 「多忙感」 の大きな要因になっているケースも少なからずある。 多忙の本質をきちんと見極める精緻な議論は、 今後も続けていく必要がある。 同時に 「学校の役割」 について、 ある程度合意形成をすべき時期にきているのではないか。 欧米とは異なり、 日本の学校はどんな仕事にも 「ノー」 と言わないことが、 ある種の美徳とされてきた。 しかし、 学校や教員の仕事の 「抱え込み」 が限界となり、 結果として公教育の在り方を変容させる民間委託のような事態を招く可能性があるのなら、 今一度、 学校の役目を考え直すべき時に来ているのではないか。 学校の領域を明確にすることは、 保護者や地域が自らの役割を考え直すきっかけにもなるはずだ。
「教育」 (education) の語源は 「引き出す」 (educate) といわれるが、 実は異論も多い。 しかし、 「学校」 (school)
の語源がギリシャ語の 「閑暇 (ひま)」 (σχολη スコレー ) であることは、 確かなようである。 学校が忙しいのは、 語源からも本質的問題なのである。
学校にこそ 「ゆとり」 がなくてはならない。
文責 手島 純
(教育研究所特別研究員)
『ねざす』 56 (2015年11月発行予定)
巻頭言 「チーム学校」 構想〜専門分化と共同の文化 …… 中田 正敏
特集T ● 「止まらない多忙化、 その行き着く先は……」
◇ 公開研究会報告 (小・中・高校の現場から) …… 教育研究所
◇ 文部科学省 [学校現場における業務改善のためのガイドライン] を読んで…… 金澤 信之
◇ 「教員の意識調査」 から 「多忙化問題」 に焦点を合わせて…… 教育研究所
◇ 教員による教員の多忙化について… 郡上 慶孝
特集U ● 通信制高校をめぐる報告と実践
◇ 広域制とサテライト教育施 …… 阿久澤 麻理子
◇ 横浜修悠館高校からの報告……井上 恭宏
◇ 通信制高校における生徒の困難…… 土岐 玲奈
◇ 通信制高校での体育の実践…… 秋山 英好
学校から学校へ (Z) コウヨウカン−知られざる高校……冨貴 大介
寄稿
◇ 高校生のアルバイト事情…… 阪本 宏児
◇ 定時制での生徒支援の現場から…… 鳥山 洋
◇ 教科書問題…… 樋浦 敬子
読者のページ
◇ 世代交代物語…… 田村 裕司
先生に、 なりたい!(1) ―教職をめざす若者たち……松井 知沙
書評 「二重洗脳 依存症の謎を解く」……福島 静恵
映画に観る教育と社会(21) 「ビリギャル」……井上 恭宏
海外の教育事情(20) 記事紹介……山梨 彰・解説……佐々木 賢
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