『教育白書2001』独自調査
 中途退学者の声を高校改革へ
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now おわりに

4.おわりに
 1996年度から高校中退率が急激に上昇し始めたが、この原因はどこにあるのだろうか。高校生の「学校離れ」や 高校生の意識の「地殻変動」が起こってきたと言われてから久しい。今回の中退者へのアンケート調査は、そうした高校生の生の声を浮かび上がらせることで、高校改革の一助にしたいということで行われた。
 今回の進学動機のアンケート結果でも明らかになったが、大学進学から就職まで高校進学の動機が明瞭だった時代から、みんなが行くから、他に行くところがないからと高校に進学してくる時代になっていることが伺える。こうした高校の社会的なあり方の変容を踏まえながら、高校教育がどうあるべきか真剣に議論されたことはあっただろうか。確かに、教育課程の多様化として、様々な学校設定教科・科目が認められるようになり、生徒の興味・関心や学力・習熟度に対応した科目が選択科目として登場するようになった。また、卒業に必要な単位 数についても現行の学習指導要領では80単位だが、高校で2003年度から導入される新学習指導要領では74単位 までに削減されることになった。しかし、こうした教育課程上の改革が今の高校中退者を救うことになるのだろうか。
 今回のアンケート調査では、中退者の別な姿が浮かび上がってきているように思う。 中退理由のアンケート結果に注目すると、「自分の側の理由」で中退した生徒が33.9%であったのに対して、「学校生活上の理由」で中退した生徒が45.2%と多かった点に気づく。「自分の側の理由」とは「勉強が嫌い」だったり「仕事・アルバイトに専念したい」という理由だが、「自分が選んだ退学」というニュアンスが強く、特に後者ははっきりした「進路変更」の動機で中退を決意したと考えられる。ところが、「学校生活上の理由」は、「友達と嫌なことがあった」や「教師・学校と嫌なことがあった」それに「生活のリズムが合わない」といった理由で、自分と周囲の世界との関わりでうまく行かなかったために退学に至ったケースである。文部科学省では、これらに「学校生活不適応」という分類を与え、中退者の退学理由の3割とトップを占めるようになったとしている。しかし、「学校生活」に「適応」できなかったと考えるのではなく、その生徒に合わせて「学校生活」を変える必要があると、発想を転換する必要があるのではないだろうか。
 現在の学校生活の基本は、40人程の生徒に1人の担任が配置されたホームルームを単位 として、授業など様々な学校生活が成り立っている。このシステムそのものを再検討することが、問われているのではないだろうか。すでに、ホームルームという生活単位 が崩壊している現実も一部の学校にはある。クラスの友人の名前を知らずに1年間過ごす生徒もいる。体育祭・文化祭へ積極的に参加する生徒はクラスの一握りの生徒しかいない。ホームルームという「枠組み」が、生徒同士の間に無用の軋轢を生むことさえある。しかしそうはいっても、私たちにはホームルームを含めて学校生活を別 のものに組み直すという経験が乏しい。こうした高校改革を始めるにあたっては、生徒自身に聴くところからスタートしなければならない。そして、教員と生徒が共に学校生活を改革する取組みが必要となる。
 今回のアンケートの高校改革への要望として、教員のあり方を問い直す意見が多数見られた。このことを教員の意識改革の必要性とだけ捉えてなるまい。教員と生徒の関わり方を問い直し、教員が生徒を「指導」ではなく「支援」するという関係を軸とする学校システムを創り出せないであろうか。新たな高校改革のなかで追求しなければならない、置き忘れられているが重要なテーマである。  
 最後に、もっと中退をしやすい(ということは再び高校に戻ることができるということだが)システムづくりについて述べたい。今回のアンケート調査で、学校への復帰願望について聞いた。中退者の40.3%が「もう一度高校(学校)へ行きたいと思う」と答えている。その内の、40.0%が全日制、28.0%が通 信制を望んでいた。この数字に答える高校改革は、中退後の「再入学」システムの積極的な運用と通 信制高校の整備・拡充が必要であるということではないだろうか。
 「再入学」については、1997年2月の教育長通知で、自分が退学した高校へ戻る(退学した高校でなくてもよくなった)場合には、退学後2年間であれば基本的に「退学の理由が消滅している」ことと「学業を再び続けようとする目的意識が明確な」ことを面 接で確認することが条件になっている。それ以後であっても、学力試験が課されるが、基本的には同じ条件である。この「再入学」規程が十分に活用されているとはいえない現状にある。
 また、通信制高校は県内に3校しか存在しない。通信添削だけではなく、スクーリングの便を考えると、もっと通 信制高校を必要な地域に増設してもよいのではないだろうか。あるいは、現在の全日制高校に通 信制の要素をもっと組み込むことを考えてもよいのではないだろうか。中退者の増加を防ぐばかりではなく、やりなおしのできる「柔らかな学校システム」の活用をはかる視点も含めた高校改革が望まれる。
 
(まとめ 中退者プロジェクトチーム:武田麻佐子、三橋正俊、山梨彰)

 
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