毎日新聞(2002.8.29)
企画特集  日韓高校生交流支援
高校生の体験記録
               日韓の意識に違い
 全国の高校生10人が7月下旬、「ロッテ日韓高校生交流支援」プログラム(主催-毎日新聞社、特別協賛・株式会社ロッテ)に参加し、1週間の日程でお隣の国・韓国を訪れた。既存世代によって「近くて遠い国」と言われ続けてきた韓国は、21世紀の日韓関係を担う世代である高校生たちの目にどう映ったのか。両国関係を「近くて近い国」にする原動力になるであろう高校生たちの体験と感想を紙上で報告する。
出発前
 都立国際高2年、竹原彩乃さん(16)が韓国に関心を持ったきっかけは、色鮮やかな韓国の民族衣装であるチマチョゴリ(韓服)。すでに学校でも選択授業で韓国語を学び始めていた。韓国に対するイメージは「友人のいる国」。それでも教科書問題などに代表される「日韓問題」というイメージもやはり強かった。
 今回、韓国を訪問した高校生たちの中には、すでに、韓国に知人・友人がいるという参加者もいたものの、やはり、そうした傾向が多分にあったようだ。
 愛媛県立今治西高3年、村瀬玄悟さん(17)は「多くの韓国人が強い反日感情を持っていると思っていた」と話す。奈良女子大学文学部附属中等教育学校4年、伊勢巧馬さん(16)も「日本人を毛嫌いしていると思っていた」。大阪府立登美丘高3年、奥野名絵さん(18)は「サッカー・ワールドカップ(W杯)の時、日本では韓国を応援した人が多いのに、韓国では日本を応援した人は少なかったと聞いた。やはり反日感情が強いのかとショックを受けていた」という。
 一方、出発前にインターネットで韓国について調べた大阪府立長尾高3年、橘真子さん(17)は「韓国人たちは日本に目を向けているのに、日本側はあまり意識していない。日本人は韓国を知らなすぎる」ことに気がついた。
 実際、韓国人の日本に対する関心は極めて高い。外国人の日本語学習者数では、韓国人がトップだし、韓国の書店には、学術書から最新のベストセラーまで多くの日本書籍が翻訳されて並んでいる。塩野七生や吉本ばなな、村上春樹らの本は常にベストセラー上位だ。
 日本映画もたくさん上映されており、今年の憂は、宮崎駿監督の「千と千尋の神隠し」が大ヒットした。


ふれあい、体験、そして感動
真剣に意見交換も
ソウルで
 ソウルでは、日本語を勉強中の女子高校生3人と交流、2日にわたり、一緒に市内を探索したほか、韓国語の授業▽テコンドー体験やキムチ作り▽朝鮮日報社見学▽一般家庭へのホームステイ▽ロッテワールド訪問ーなどを行った。
 韓国語授業は、実用的な言葉を中心に学習した。尼崎市立尼崎東高2年、崎山愛さん(16)は「母親が在日朝鮮人2世なので、知っていた言葉も多かったけれど、改めて学んでもっともっと知りたいと思えた」、村瀬玄悟さんは「町中の看板の文字が読めるようになって感動した」と報告。現地高校生との交流や、ホームステイ先の家庭を訪れた際などに、努めて韓国語で会話をし、おのおのがその成果を試した。
 人気の高かったのは、テコンドー体験。崎山愛さんは「私でも木の板を割ることができて驚きだった」。小さいころに空手を習っていた干葉県立佐倉高2年、大木ゆかりさん(16)は「異国の文化を体験することは、相互理解を深めるために大切だ」ということを実感した。
兵庫県立西宮高1年、吉田万里さん(15)は「とても難しかったけど、厚さ1・8センチの板を割ることが出来て達成感があった。空手と似てるところも多く、日本と韓国の近さを感じた」と感想を述べ、体験後には帯や認定証を受け取り、それぞれに喜びの表情を浮かべていた。
 また、キムチ作りで吉田万里さんは「自分で作ったキムチなので、うれしくてたくさん食べてしまい、感動と辛さで涙が出そうになった」、それまでは食わず嫌いをしていたという大木ゆかりさんも、「唐辛子など調味料の加え方が難しかったが、つけたてのその辛さに、伝統と韓国らしさを感じ、黙々と作って食べた」と素朴な反応だった。
 そしてやはり、韓国の高校生との交流は、忘れられない経験だった。奥野名絵さんは「何が流行しているかや、韓国の学校の様子について、アルバイトは何をしているかなど、いろいろなことを話すことができた」。橘真子さんも「韓国のことをいろいろと教えてもらったし、なんと言ってもすぐに友達になれたのがうれしかった」と満足そうだった。
 その他には、郁文館高!年、田淵令士さん(正)が「朝鮮日報社の見学が、一番、興味深かった。新聞製作の現場を見せてもらってドキドキした」。
 ホームステイでは「地元のスーパーに連れていってもらえた」という竹原彩乃さん、「一緒にボウリングをした」という橘真子さんなど、それぞれの家庭の普段の生活を体験、大阪桐蔭高1年、萬雲正直さん(正)は「現地のナマの生活に触れたホームステイは貴重な体験だった。生活の様子や日本に対する感情、統一への思いなどを聞くことができた」など、参加者は、それぞれの収穫を得ることができたようだ。

十人十色それぞれが"収穫"
 そして、帰国前日、ロッテワールドに足を踏み入れた高校生たちは世界最大の室内遊園地ならではのスケール、懐かしさと新しさが融合した一大アミューズメントパークに一様に感嘆の声を上げ、さまざまなアトラクションを満喫したようだ。
 さらに、帰国前夜には、このプログラムの総括として、それぞれが、韓国に滞在して感じたことや思ったことを述べ合う場を設けた。ここにのぞんで、後日、伊勢巧馬さんが「普段、学校で話をしたら、しらけるようなことも真剣に話し、また聞くことができたのがよかった」と答えたように、また、吉田万里さんが「10人の仲間が集まり、これからの日韓関係や南北統一問題など、まじめに議論や意見交換をできたのがよかった」と述懐しているように、10人の高校生が十人十色、それぞれに思い、感じ、そして考えたことがあったようだ。


「両国の距離縮めたい」
帰国後
 「日本のことをよく知っているし、友好的」という新しい韓国イメージを持つようになった竹原彩乃さんは、ホームステイなどで「ナマの韓国を自分の目で見たからイメージが変わった」と考えている。出発前には「反日感情バリバリ」だと思っていた萬雲正直さんは、「日本に対して心を開いてくれている」と考えるようになった。「近くて遠い国といわれる韓国の実態を知りたい」とプログラムに応募した伊勢巧馬さんも、「日本語を話せる韓国人も多いことを知り、日本人を毛嫌いしているというイメージは薄くなった」と話した。
 また、崎山愛さんは「発展途上の国のようなイメージだったけれど、高層マンションが多く、近代的な国という印象に変わった」と自らの目で確認したようだ。
 橘真子さんは帰国後、ソウル市内を散策するなど、交流した大真女子高3年、金恵美(キムヘミ)さん(旭)から電話をもらった。「本当にうれしかったけど、日本語で話をしている自分が悔しくなった」という。
 「一方通行のままでは何も始まらない」と考える橘さんは、韓国語をしっかり勉強したいと思うようになった。
金さんと一緒に参加した京福女子高3年、徐延周(ソロンジユ)さん(均)と青園女子高2年、文智洗(ムンジス)さん(17)も「日本の高校生たちとの交流は、忘れられない思い出。こうした交流が増えれば、両国の距離が縮まっていくはず」。これからも、交流した日本の高校生たちと連絡を取り合っていきたいという。
「イメージ変わった」
 趣味の囲碁を通じて韓国に関心を持つようになり、プログラムに応募した田淵令士さんは「もっと韓国にいたかった。韓国語を勉強して、また韓国に行きたい。韓国の人にも、もっと日本のことを知ってほしいから、ぜひ僕の家にもホームステイに来てほしい。その時までに、日本のことを韓国語で説明できるよう、しっかり勉強します」と言い切った。