読売新聞(2003.7.3)より
公務員改革関連3法案
天下り規制 不透明
       対象官職など明記せず
 二日明らかになった公務員制度改革関連三法案は、公務員を能力に応じて能力等級に格付けする仕組みの導入や、民間企業に在職したままの社員の任期付き採用を可能にすることで、公務員のやる気を引き出し、省庁に機動的な組織運営や民間並みのコスト意識を取り入れることを狙ったものだ。しかし、国民の関心の高い天下りや労働基本権問題をめぐり課題も多く、閣議決定までには曲折も予想される。
〈本文記事1面〉
 最終案で政府は、焦点となっていた民間企業への天下りについて、人事院の事前承認制から閣僚による許可制に変更。付則で「国民の信頼を確保するため特に慎重な判断が求められる政令で定める官職については、当分の間、内閣の承認を得る」とした。
 これは、閣僚許可制への変更が、「天下りの規制緩和になる」と与党からも批判され、より厳しい、内閣による承認制を盛り込むよう求める声が強かったためだ。ただ、内閣承認の対象となる官職は政令で定め、実施期間は「当分の間」とされて、二重にあいまいな表現となっている。このため「これで天下りの歯止めになるかどうかは疑問」との声もある。
 また、連合が求めている労働基本権拡大の問題も未決着だ。連合や人事院は、能力等級制度は公務員の勤務条件にかかわる制度であり、導入する場合は労使協議や労働基本権の拡大が必要だと主張している。
 一方、政府は「能力等級制度は職員の処遇を直接決めるものではなく、勤務条件そのものではない」として、公務員の労働基本権に関ずる現行の制約を維持したまま制度を導入しても、問題はないとの立場だ。
 国際労働機関(ILO)は先月二十日、労働基本権の制約を見直すよう求める再勧告を行っている。政府も法案提出前に労使の協議機関を設置ずることを表明しているが、いまだに始まっていない。
関連法案要旨
【国家公務員法改正案】
 ▽中央人事行政機関 人事院は、人事行政の公正の確保・職員の利益保護を任務とする▽首相は、各行政機関の人事管理の総合調整、能力等級制、職員の採用試験・任免、能率、服務の事務をつかさどる
 ▽能力等級制能力等級制は、採用試験、任免、給与、研修その他職員の人事行政の運営に資することが目的▽官職は、職務の種類、複雑・困難・責任の度合い、職務を遂行する上で発揮することが求められる能力に応じて能力等級に分類
▽官職を能力等級に分類し、職員の能力等級を決定する基準として、能力等級ごとに標準的な官職・標準職務遂行能力を定めなければならない
 ▽採用試験・任免 職員の昇任・降任・転任は、勤務成績に基づいて行う
 ▽服務 職員は離職後一年間、任命権者の許可を得た場合、政令で定める国の機関などと密接な関係にある営利企業として政令で定める企業に就職できる▽営利企業に就職した職員は離職後二年間、国の職員に対し、売買、貸借、請負その他の契約などに関し、営利企業に有利な取り扱いを要求、依頼してはならない
 ▽罰則 前の規定に違反した者は、六月以下の懲役または五十万円以下の罰金に処する▽所属する法人にも罰金刑を科する
 ▽付則 政令で定める職員の再就職許可について当分の間、任命権者は内閣の承認を得なければならない
【能力等級法案】
 この法律は一般職に適用
▽官職は、その職務の種類、複雑・困難・責任の度合い、職務遂行能力に応じて能力等級表に定める能力等級に分類▽職員は、その職務遂行能力に応じて能力等級を決定▽閣僚は、予算で定める能力等級ごとの定数に係る制限の範囲内で、官職を能力等級に分類▽人事院は、能力等級ごとの定数について、国会・内閣に意見を申し出る▽人事院は、能力等級表の適用範囲、標準職務遂行能力・官職について首相に意見を申し出る
【官民人事交流法改正案】
 民間企業の雇用者を任期を定めて常時勤務の官職に採用することを「交流採用」という▽交流採用には、任期満了時の雇用の取り決めを締結しなければならない
総合規制改革会議中間答申
小泉改革「歩み遅い」

 政府の総合規制改革会議の中間答申の全文が二日、明らかになった。小泉内閣の規制改革への取り組みについて、構造改革特区の推進などは評価しているものの、一歩ずつ前進しながらもなお遅い」と指摘している。
 同会議が二月に決定した重点検討事項十二項目について、六月に閣議決定された「経済財政運営と構造改革に関する基本方針」の内容を点検。例えば、株式会社による病院経営参入では、「基本方針」に対し、「高度な医療を提供する病院の範囲をあらかじめ国が限定するのではなく、事業者のニーズに基づく地方公共団体の判断とずべきだ」との見解を示している。

公務員制度改革

人事に「能力等級制」
     天下り当面「内閣が承認」
 政府が今国会への提出を目指す公務員制度改革関連三法案の最終案の全文が二日、明らかになった。公務員の職務遂行能力を給与や昇進に反映させる「能力等級制」を導入するなど、年功序列型の現行人事制度を抜本的に見直している。民間企業への天下りについては、人事院の承認制から閣僚の許可制に変更するが、当面は「内閣の承認」を義務付けている。出身官庁に口利きなどをした天下り公務員に対しては刑事罰を科す。官民人事交流=ミニ時典2面=に関しては、民間企業社員を公務員として採用する際、企業との雇用関係の継続を認める。政府は三日、与党に最終案を示し、了承が得られれば、関連法案を近く閣議決定する方針だ。〈法案の要旨、関連記事4面〉
関連3法最終案きょう提示
 公務員制度改革関連法案は、国家公務員法改正案、能力等級法案、官民人事交流法改正案の三法案。
 国家公務員法改正案は、在職年数に応じてポストや給与が決まる現行の職階制に関する条文を削除し、能力等級制の導入を定めた。民間企業では一般化している「実力主義」の人事制度を導入、国家公務員T種試験合格者だけが幹部候補となる現在のキャリア制度の弊害を是正するのが目的だ。
 能力等級法案は、行政、教育など十の職務ごとに十六能力等級表を定めるもの。例えば、行政職の能力等級表は、「標準的な係長」を四級、一標準的な本省課長」を十級などと定め、職務遂行能力の高さに応じて高い等級に分類され、より一高いポストや高い給与が得られる仕組みにする。
 退職前の職務と関係する営利企業への天下りの承認については、人事院による事前承認制を各閣僚による許可制に変更し、人事院の権限を縮小。与党などが要求した「内閣全体による承認制」を本則に明記することは見送った。代わりに、付則に幹部職員について「当分の間、内閣の承認を得なければならない」との規定を盛り込んだ。営利企業に天下りした国家公務員がその後二年間、契約などに関して出身官庁に働きかけた場合、六か月以下の懲役または五十万円以下の罰金を科す。違反者が天下った企業にも罰金刑を設けた。
 官民人事交流法改正案は、民間企業の社員を公務輿として一定期間採用する場合、いったん退職しなければならない現行制度を改め、企業に在職したままでの採用を可能にする。
 与党内でも天下りの閣僚許可制について「お手盛り」となり、天下りを増やす」などの批判も強く、最終案の了承が得られるかどうかは微妙な情勢だ。



朝日新聞(2003.7.3)より
公務員改革人事院の壁
関連3法案 国会提出メド立たず

政府・自民党が進めている公務員制度改革が難航し、能力等級法案など関連3法案を国会に提出できるメドがたっていない。3法案の内容に反発する労働組合はかりか、改革によって存在意義が揺らぎかねない人事院が反対の姿勢を崩していないためだ。対立の根は「公務員の人事制度を決める主役はだれか」にあるだけに、決着は容易ではない。
存在意義かけ反発
 政府の行政改革推進事務局は3日、関連3法案の原案を自民党の公務員制度改革委員会に提示した。原案は、任用や再就職(天下り)の承認などの分野で、これまで人事院が担ってきた役割を大幅に内閣に移すとともに、能力主義に基づいた機動的で、弾力的な人材活用を目指している。
 しかし、肝心の人事院がこの内容に難色を示している。ある政府高官は、関連法案を手にため息をついた。
 「人事院が完全にそっぽを向いている。国会で人事院総裁に『法案に問題がある』と答弁されたら審議がもたない」
 5月20日の衆院行政監視委員会では、石原行政改革担当相が「天下りを承認する権限を、人事院から、行政の一義的な責任者である閣僚に移す」と説明すると、人事院の中島忠能総裁は「石原大臣の答弁は、一応理屈が通っているようで、実は非常に不安なところがございます」と正面から疑問を呈した。「(請負契約や許認可権を持つ)大臣が天下りの審査権を持つことに、国民の疑念はぬぐいされない」と続けた。
 経産省からの出向者を中核とする行革事務局の担当室や、法案提出を後押しする自民党は「人事制度の設計と運営は、行政運営の責任を負う内閣や閣僚が決め、人事院は、人事の公正さや職員の適正な利益保護などをチェックする役割に徹すべきだ」と主張する。
 一方、人事院は「公正中立な第三者が、企画立案と運営を行うべきだ」との立場を崩さない。鈴木宗男衆院議員による外務省人事への介入などを指摘し、「立派な方ばかりが内閣を構成するとは限らない」(中島総裁)と訴える。
 人事院が政府の一機関でありながら、強い姿勢をとれるのは、政府からの強い独立性が認められ、首相にも個別の指揮命令権がないからだ。身分保障のある総裁を辞めさせるには、国会が訴追し、最高裁で弾劾裁判をするしかない。自民党は近く人事院から意見を聞くが、打開の糸口がつかめるかは不透明だ。
キーワード
人事院 国家公務員の人事管理を担当する行政機関(職員約700人)。公務員の労働基本権が制約されたことへの代償として48年に設立された。内閣の所轄の下に置かれるが、政府から強い独立性が認められており、中立・公正な立場から公務員の給与に関して国会や内閣に「勧告」したり、勤務時間や休暇、手当などについて「人事院規則」を制定したりする幅広い権限を持つ。採用試験や研修も行う。
公務員制度改革
関連法案のポイント
●公務員の仕事を、難しさや責任の度合いに応じて分類する能力等級制を導入し、任用や給与に活用。人事院は同制度に適合した給与準則を立案。
●営利企業への天下りについて、人事院の承認制度を廃止し、閣僚の許可制とする。当分の間は、内閣の承認を義務づける。また、出身省庁への口利き行為には刑事罰を科す。
●民間企業から国への人材派遣を拡大するため、民間企業の従業員が企業に在籍したまま公務に従事できるようにする。