都立高校の学区撤廃関連 新聞報道
朝日新聞(2003.1.28)より
学区撤廃 塾に出張PR/受験生相談
 都立高懸命 復権へ校長が率先

 東京都立高校の学区が今春の入試から撤廃されるのを受け、受験生から選はれる立場になった高校側は生き残りに懸命だ。進学塾や中学校に出向いてPRしたり、受験生や保護者からの成績相談に応じたり。「経営感覚」を求められる各校長は、2月7日の願書締め切りに向け、最後のアピールに知恵を絞る日々が続いている。
 「外は管理職で回るの
で、先生方は本物の教育を続けて下さい」
1月上旬、都立八王子東高校の殿前康雄校長は職員会議で教員に語りかけた。都中学校長会が中学3年生を対象に昨年12月に実施した進路希望調査で、志望倍率が男子は前年の1・60倍から1・22倍に、女子も1・50倍から1・15倍に落ちたためだ。
  ●校風を訴え
 殿前校長は「前年倍率が高かったため受験生が敬遠したことに加え、学区が撤廃される中で交通アクセスの悪さも影響した」と分析する。年明けから進学塾を回り始めた。大学進学の希望者が多く、部活動も充実している校風を訴えている。
 明暗は分かれる。都立日比谷高校は、志望倍率が男子で前年の1・87倍から2・01倍に、女子で1・43倍から1・89倍に上がった。
 長澤直臣校長は「旧学区外からも生徒に来てもらうには努力が必要」という。昨年3月以降、中学生や保護者だけでなく、中学校教員や塾関係者への学校説明会や授業 公開を繰り返し、その回数は約60回を数えた。
 校長自ら学習塾に出向き、3〜5年後に国公立大現役合格者を3けたにする目標を記した資料を配った。「旧制一中の伝統に加え、改革姿勢を訴えた結果」と胸をなで下ろす。1月も中学生の成績相談に応じ、中学校に教員が訪れて追い込みをかける。
  ●経営者感覚
 都教育委員会が学区の撤廃を正式に決めたのが一昨年9月。公平が原則の入試で居住地による制約があるのは問題と判断したためだ。「受験生の学校選択幅の拡大と特色ある都立高づくり」が狙いだ。背景には「都立高復権」の思惑がある。67年に進学先が自動的に割り振られる学校群制度が導入され、都立高の進学実績は凋落。94年度に学区内で自由に志望校を選べる単独選抜制を導入したが、私立高に人気が集まっているのが実態だ。
 都教委は都立高の特色づくりを進めている。新年度は、大学進学率やスポーツ全国大会出場など目標を示す「学校経営計画」を全校で作成。約20校には教員や予算を重点配分する。教育活動予算の使い道を校長が決める仕組みや、バランスシート作成も始める。
 「学区撤廃で、経営者感覚をさらに磨かなけれはならない」。校長から戸惑いの声も聞かれる。

読売新聞(2003.1,27)より
都立高入試で初の導入
自己PRカード 戸惑う
受験生

 全国で初めて、学区制を廃止して迎える今年の東京都立高校入試。全受験生が、自ら志望理由や部活動、ボランティア実績などを記入する「自己PRカード」を提出するのも新しい試みだ。その内容は点数化され、調査書や学力検査の点数とともに合否判定の資料になる。「個々に違う自己PRを公平に点数化できるのか」という中学側の不安が消えないまま、入試本番を迎えようとしている。(志賀克也)

個性"点数化"できるの?
     高校側「中学でどう過ごしてきたかを評価」
 都立高では今月二十七、二十八日に推薦入試の願書が受け付けられる。一般入試の受付日は来月六・七日。
受験生は今、自己PRカード作成の真っ最中だ。
教師も不安
 都中学校農会副会長(進路担当)の井上英昭・町田市立町田一中校長は「初めてということもあり、生徒はどう書いていいか理解しきれていない」と話す。
 PRカードは生徒自身が書く。実際には、どの学校も下書き後に担任教師らが目を通しているが、教師の側には、「どこまで(書き方を)指導すべきか。行き過ぎると生徒の個性が見えなくなってしまう」(北区のある区立中校長)という懸念もある。
 井上校長は「教師は一人ひとりとコミュニケーションをとりながら、生徒の良さを引き出す指導が必要」と言う。それでも、「高校側がどう点数化するか見えない。本当に生徒の良さを評価してくれるのか」という不安は残る。
 都立高の入試要項では、PRカードの点数化について、「各都立高があらかじめ示した『本校の期待する生徒の姿』を踏まえ、適切に基準を定めて行う」とされ、具体的な方法は各校に任されている。配点も下限が百点と決められているだけだ。
「ありのままに」
 公立中三年を対象に先月行われた志望予定調査で、男女ともに最高倍率となった都立向丘高(文京区)。東大本郷キャンパスに近く、通学にも便利な立地などから人気が集まった。
 同校は今年の推薦入試で調査書五百点、面接百五十点、自己PRカード三百五十点という配点にした。全体の35%というPRカードの配点割合は、都立高の中で最も大きい。
 「調査書の点数だけでなく、中学三年間をどう過ごしたかを評価したかった。
面接もあるが、時間が限られるので、PRカードを重視することにした」と石井隆夫校長は言う。「どう点数化するかは言えないが、受験生にはPRしたいことをありのままに書いてほしい」
 今回、同校のようにPRカードを高配点にした学校は少数。ほとんどは都教委が示した下限の百点満点を採用している。「点数化して合否判定に使うことを議一躍した高校が多かったのではないか」と、都内のテスト業者は分析する。
 都教育庁では「自己PRカードについては、まず観点を決め、観点ごとに数値評価したものを総合した上で点数化するよう各校で基準を作っている。何を書けば何点か、ということまで公表することは、受験テクニックをあおる恐れがある」と話している。
*「自己PRカード」
 都教育庁は「調査書に書かれない受験生の意欲や活動の状況を多面的に評価するため」として導入を決めた。
項目は3つ。@「入学を希望する理由」では、各都立高が公表する「本校の期待する生徒の姿」を参考に、志望理由などを記入する。A「選択教科や総合的な学習について」は、3年時にそれぞれの時間で取り組んだことを、B「諸活動の状況及ぴ実績について」では生徒会、部活、ボランティア活動、資格取得などをPRする。

毎日新聞(2003.1.30)より
都立高の学区撤廃・絶対評価導入後初
「激変」入試スタート  まず推薦

 東京の都立高で30日、推薦入試があった。学区が撤廃され、合否判定に大きな比重を占める調査書の評価方法が、絶対評価に変わって初の入試。
平均応募倍率は3・42倍と過去最高になった。激変のなか、中学校側からは「合格ラインが読みにくい」との声ももれた。
  応募倍率アップ
 杉並区の西高では男女 合わせて62人の枠に251人が出願した。応募倍率4・05倍は昨年より1・36ポイント高い。同校では午前8時50分から作文の試験を開始。さらに1人10分程度の面接に臨む。
 都立高入試は10の学区がなくなり、旧他学区から生徒を集める学校も生まれた。日比谷高は推薦入試に応募した76%が旧他学区からで応募倍率も1・16ポイント上がった。中学校生活で特に主張したいことを生徒が書く「自己PRカード」も導入された。同カードは最低100点満点に点数化され、合否判定に使われる。
 普通科のほとんどで、絶対評価の調査書の配点が全体の半分以上を占める。ところが都が昨年10月に公表した公立中約600校の1学期の絶対評価は、学校ごとにばらつきがあった。
  「ライン読めぬ」
 世田谷区の区立中で3年生の学年主任を務める先生は「これまでなら、合格ラインはある程度分かったが、学区撤廃、絶対評価で非常に分かりづらくなった。ほかの中学を疑うのは恥ずかしいことだが、必要以上に評価を甘くしている学校が出てこないとも限らない」と胸の内を話す。
 首都圏では来月3日に千葉県と埼玉県の公立高の推薦入試がある。千葉県では初めて中学校長の推薦なしで出願できる「特色化選抜」を導入。
 応募倍率は2・59倍と昨年より1・10ポイントも増えた。神奈川県の推薦入試は28日に合格発表を終えている。
 一方、推薦入試がほぼ終わった首都圏の私立高では、教育情報会社の調査によると、266校のうち約4割で調査書の出願基準を上げるなど選考を厳しくした。今年度から中学校の成績が「絶対評価」に変わったことへの対策という。